表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/94

14、 コタロー、 美味しん坊将軍に挑む


「ハナ、 今日も俺んちで宿題やるだろ? 」

「ダメ! 将軍様が待ってるから! 」


「…… はあ? 」



それは中学校に入ってすぐの春。

いつもの帰り道で、 いつものやり取りになるはずが、 今日は勝手が違った。



「昨日から『美味しん坊将軍』の再放送がやっててさ、 コレがめっちゃ面白いのよ。 …… あっ、 コタローがうちに来なよ。 将軍様を見てから宿題しようよ」



いつもより自転車を()ぐスピードがやけに速いと思ったら、 再放送に間に合うためかよ……。


なんだ、 そりゃ…… と思いながらも、 ハナがそんなに夢中になるものが気になるので、 家に帰って勉強道具一式を持つと、 いそいそとお隣の桜井家に向かった。



***



パカラッ、 パカラッ!


馬のひずめの音と共に、 遠くから白馬にまたがった将軍様が走ってくる。


壮大な富士山をバックに立ち止まると、

『美味しん坊将軍』のタイトルバック。


ジャジャジャーン!

ジャ、 ジャ、 ジャ、 ジャーン!



「「 キャーーッ! 将軍様〜! 」」



ソファーに座りながらも、 母娘揃って思いっきり前のめり。

胸の前で指を組んで、 目にはハートが見えるようだ。



「ハナだけじゃなくて、 若葉(わかば)さんもだったんですね」


ため息をつきながらそう言ったら、 若葉さんがキッと横を見て、「若葉さん『も』じゃなくって、 私が先に好きだったの! リアル放送時に見てて、 昨日再放送を見てたらハナがハマっちゃったのよ」と、 何言ってるんだ…… みたいな目で見てきた。



確かに将軍様は、 男の俺から見てもカッコよかった。


白馬にまたがってるってだけでも魅力が三割増しなのに、 色気のある切れ長な目にスッと通った鼻筋。 (あい)色の(はかま)姿も似合っている。



「…… ハナはさ、 こういう和風な顔が好みなわけ? 」


「いや…… 顔って言うよりも、 あの袴姿とか…… あとは、 やっぱ刀でバッサバッサと切り倒してくのが痛快だよね。 やっぱ男は強くなくちゃでしょ! 」



ーー 袴姿ねぇ…… そして、 強くないと…… か。



そんなん平成生まれに再現しろったって無理じゃん!

刀なんて振り回したら捕まるしっ!



「…… あっ! 」


「何? コタロー」

「いや、 なんでもない」



あるじゃん! 袴を履いてチャンバラっぽい事が出来るやつ。



ーー 俺、 剣道始めます!



小4で対価交換のキスを始めて、 ハナが想像以上に危なっかしいと気付いた時、 俺はハナの理想の男になろうと決めた。



幼馴染なんて、 なんの約束もない。

むしろ近過ぎて意識されてない分、 不利なのかも知れない。


だったら、 いつどんなヤツが目の前に現れても、 その時にハナが俺の方を選ぶようにするしかないって思ったんだ。



勉強だってスポーツだって頑張った。

朝のジョギングも欠かさない。


泡の洗顔フォームで丁寧に顔を洗い、 ニキビ対策だってバッチリだ。



コレで剣道を始めて、 カッコいいところを見せたら惚れられるんじゃないか?



…… な〜んて、 甘い夢を見ていた俺が馬鹿だったと気付くのが、 この半年後。



剣道なんて大半が小学校3年生とか4年生で始めてて、 俺みたいに中学で始めて半年の経験者なんて、 まだド素人に毛が生えたようなもんだった。


試合では立ち位置から間違えて審判に注意されるし、 開始直後に2本取られてあっという間に敗退。

試合のテイをなしていなかった。



ちょっと器用で運動神経がいいからって、 武道を()めてた自分を反省したし、 もっと上手くなりたいと思った。



そして何より…… こんなカッコ悪い姿をハナに見られなくて本当に良かった。



今度ハナを試合に誘うのは、 俺が勝つ実力と自信をつけてからだ。



もっと強く、 もっと魅力ある、 『美味しん坊将軍』以上の男に…… 俺はなりたい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ