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1、 キスとチョコ


屋上に続く階段の踊り場で、 コタローがいつものようにポケットから小さいチョコレートを取り出した。



「はい、 これ。 ハナのリクエストの『みるくもち』味」

「やった! コタローから送られてきたリストを見た時に、 絶体コレだって決めてたんだ。 生徒に取られちゃうかと思ったけど、 ちゃんと残ってたんだね」


「違うよ、 ハナからメッセージが届いてすぐに、 塾に行ってキープしといたんだよ」

「そっか。 さすがコタロー、 気が()くね! 」



そう言いながらピンク地に白いお団子(だんご)の写真が載った包みを開けて、 真っ白な四角い固まりを口に放り込む。


ホワイトチョコのミルク風味のあとで、 あっさりした求肥(ぎゅうひ)の味と弾力(だんりょく)が追いかけてくる。



「う〜ん、 最高! 『きなこもち』もいいけど、 これはこれで良いね〜 」


あまりの美味しさに目尻が下がる。


「嬉しい? 」

「うん、 嬉しいよ」


「それじゃ、 ご褒美(ほうび)ちょうだいよ」

「あっ…… うん」



コタローが少し体を(かが)めて目をつぶり、 私がゆっくりと顔を近づける。

唇をチュッと短く合わせてすぐに離れると、 目を開けたコタローがニコッと微笑んだ。


「オッケー、 今日の対価(たいか)はいただきました」

「…… はい」



コタローがポケットに両手を突っ込んだまま、 トントンと軽い足取りで階段を下りて行く。


3段ほど下がったところで振り向くと、

「ハナ、 行くよ」

と、 何事も無かったように私を呼んだ。



***



それが始まったのは、 確か小4になってすぐの春。

きっかけは私が虫歯になったことだった。



ある日、 歯科医である父親に歯の検診を受けていたら、 父が「ああっ! 」と大声を発して後ろの母を振り向いた。


「あちゃー、 お母さん、 花名(はな)に虫歯が出来た」


「何ですって?! 」



歯科衛生士である母はマスクをしていたので口元が隠れていたけれど、 その斜めに吊り上がった眉毛と目元で、 激しく怒っているのが分かった。



ライトの位置を調整して、 母も父と一緒になって口の中を覗き込んでくる。



「右上2番がC1だ」

「本当だ。 白っぽくなってるじゃない。 嫌だわ、 ちゃんと歯磨きさせてたのに」


「元々エナメル質が弱いんだろう。 シーラントも奥歯だけじゃダメだったな。 歯磨き指導をし直して、 後でもう一度フッ素塗布もしておこう」


父はそう言っただけだったけど、 母はカンカンに怒って、 私に甘いもの禁止令を言い渡した。



「歯医者の娘が虫歯だなんて最悪だわ! 花名、 あなた今日から甘いもの禁止ね」



子供心に、 これはとんでもない事になったと思った。


私は甘いものが大好きだった。 特にチョコレート。 しかも塾でもらえるやつ。



半泣きでギャンギャン文句を言う私に母が言った。


「甘いものを絶対に食べるなって訳じゃないのよ。 おやつの時間にはちゃんとお母さんが準備したものを出してあげる。 ダラダラと際限(さいげん)なく食べて、 これ以上歯を悪くして欲しくないのよ」



母が言っていることは分かる。

歯は一生モノ。 それも理解出来る。


だけど、 お父さんだって言っていた。

『甘いものを制限しても、 歯磨きをちゃんとしてても、 虫歯って出来る時は出来ちゃうんだよな』



だったら食べたっていいじゃん。

食べたいよ。 その代わりにちゃんと歯磨きするし。



ーー そうだ、 コタローを使おう。



初めまして、こんにちは、沙和子です。

ここから数話は小学校時代のエピソード、その後は中学時代に突入致します。


ツンがデレて甘くなる過程を生暖かく見守っていただければ幸いです。

ヒロインはハナですが、たぶん真のヒロインはコタロー。


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