第38話 裕也
「……ゆき、正行!」
正行の名前を呼ぶ者がいた。
普通であれば美少女のはずだ。
場所は学校。
放課後である。
放課後の学校で自分の名前が呼ばれる。それはすなわちラブコメのはじまり──
「のわけあるか!」
正行はそこでツッコミを入れる。それもそのはずだ。正行の通っている学校は男子校である。女子などいるはずがないのだ。正行は妄想することはできるが、実際にはいない。現実を見たのである。
「おう、起きたか? っていうか、起きてそうそうなぜツッコミ?」
「裕也、か」
自分を起こした相手里見裕也は呆れた感じで正行に声をかける。
正行は、自分を起こした相手が裕也だということに気が付くとこっちも残念がった。
「相変らずだ。どうせ女の子のことでも考えていたんだろ。まったく、ムッツリめ」
「今時、ムッツリなんて言わないぞ。まったく……」
里見裕也。
正行と同じクラスのバスケ部所属の男だ。身長は2m近くあり本当にモテる。うらやましい限りである。
「それよりも、もう放課後だぞ」
裕也が正行に呆れて言う。
「え?」
正行は、外を見る。
もう夕暮れであった。
正行の最後の記憶は5時間目の英語であった。英語の大間々先生はおじいちゃん先生と呼ばれとても心地よい子守唄を聞かせてくれる先生である。
その睡眠術によって正行は眠ってしまっていた。
「うぉ! 大間々先生の睡眠術にかかっていたのか!」
「ああ、思いっきり爆睡していてな中村先生が何度起こしても起きないから諦めていたぞ」
中村先生は、6時間目の数学の女教師である。優しい人なのだが、サボっていたり寝ていたりする生徒に対してはかなり厳しい人だと学校中で知られている。
「中村先生に後で叱られる」
正行は明日が怖くなっていた。
ところで正行は裕也に対して質問する。
「そーいえば、どうして俺を待っていたんだ?」
「んー、それは帰りによって寄りたい場所があるから待っていたんだ」
「寄りたい場所?」
「ああ、とりあえず来てくれるか?」
「まあ、いいが……」
正行は裕也に行き先も教えられないまま学校を出ていくのだった。




