第六話:悶々と
教室内には、担当科目を教える教師の声と、時々出される問いに答える生徒の声。ノートを擦るペンの音が、静かな教室内を響いている。
「……」
ユディルは授業を受けているものの、どこかぼんやりとしながら、窓の外に目を向ける。
(まあ、あんなこと言われたり、聞いたりしたなら、ティルファの反応がああなるのも仕方ないか)
ティルファリーナの反応について、少しばかり遅れて、その理由に気づいたユディルはどうしたものか、と溜め息を吐きたくなった。
長いこと生きてきたであろうティルファリーナがあんな反応を示すことなど、これまでの付き合いから見たことはなかったユディルには驚きと戸惑いしか無かったが、先にそうしたのは彼の方であり、結果としてはブーメランとしか言いようがない。
それでも、冗談と認識されたのかは分からないが、いつもと変わらない様子に戻ったティルファリーナに、一瞬でも悔しさなどがないわけでもない。
「ユディル、授業終わったよ」
ぼんやりしていたユディルに、リリアナが軽く丸めたノートでぽんと叩くが、「ああ……」と声を洩らした彼に、リリアナは首を傾げる。
「授業中、ずっとぼんやりとしているとか珍しいね」
基本的にぼんやりとしていても、途中で切り替えるのがユディルなのだが、今回は終始ぼんやりとしていたのも、リリアナは気になっていた。
「もしかして、ティルファさんと何かあった?」
リリアナのその問いに、ユディルは「ぐっ」と詰まり、それだけで彼女は察する。
「ああ、あったんだ」
「あって悪かったな」
「それで、原因は」
「夢だ」
「夢?」
授業中ぼんやりするほどに、何か気になるような夢だったのだろう、とリリアナは結論付けるが、ユディルの表情は晴れない。
「ティルファが――、炎の中で、俺だけ助けようと炎の外に放り投げた夢だ。そこで、ティルファが何か言ったような気もしたんだが、はっきりと聞こえなかった上に、俺は俺でそれが誰かによるものだって思って」
「それで、何か言ったのをティルファさんにも聞かれて、気まずくなったわけだ」
リリアナとしても正直なところ、ユディルが何と言ったのか気にならないわけではないが、登校時の二人を彼女が見たとき、そんな空気を少しも感じなかったのは、きっとティルファリーナがいつも通りだったからだろう。
「ティルファさんが気にしてないようなのに、ユディルだけ気にするの、おかしくない? 寝言とかで片付けちゃえばいいじゃん」
「それが出来たら、苦労はしない……」
リリアナたちならともかく、何せ本人(本竜?)に聞かれてしまったのだから、気まずいどころではない。
「そういうのは、言った方より言われた方が覚えてるものなのにね。それにもし、ティルファさんからその事について聞かれたら答えればいいだけなんだから、あまり悩んでいても仕方ない気がするけど」
「むー……」
それでもきっと、ティルファリーナと顔を会わせれば気にしてしまいそうだから、どうするべきなのか悩んでいるのだが、ティルファリーナが気にしてないのに、ユディルだけが気にしてるのは理不尽にも思えてきてしまう。
「それに、このまま悩んで授業に集中できてないことがバレる方がマズいんじゃないの?」
「……」
リリアナの正論に、ユディルは机に突っ伏す。
ティルファリーナのことだから、朝のことが原因で授業に集中できてないことを知れば、何を言い、してくるのか分かったものではない。
「ま、二時限目が終わったばかりだから、今から挽回すればいいでしょ。取れなかった分のノートは見せてあげるからさ」
「悪い……」
体勢そのままに顔だけ上げたユディルに、リリアナは肩を竦めて思う。
夢から出た言葉とはいえ、ティルファさんはユディルの言葉を聞いて、どう思ったのか、と――