第五話:夢か現実か
――俺は一体、何をやってるんだろう?
白銀竜・ティルファリーナから能力を与えられたというのに、彼女と並んで戦わせてもらうことすら出来ず、その力を発揮することすら出来ずにいる。
――もしかして、ティルファがあの場所から離れるために……?
今まで何度も何度も浮かんだその思考に、それはないと振り払う。
そんな理由であれば、竜徽結晶があろうと、ティルファリーナはもうユディルの元を離れているはずだ。
――だったら、何で……
そう思ったのと同時に、どこから発生したのか、円を描くように炎が出現する。
『――ユディルっ!!』
よく聞きなれた声が響いてくる。
そちらに目を向ければ、炎に包まれるティルファリーナが自身に向けて何かを言っている。
『ごめんね。一緒に居られなくて』
その一言で、この後の彼女がどうなるのかなど、容易に想像できてしまう。
「――ティルファ!」
これが夢だろうが現実だろうが、どちらでもいい。
彼女に対して、不信感のようなものはあったが、命に関わることについてまでは、何も言ってなかったはずだ。
綺麗な白銀の鱗が、火に燃やされ続けることで、どんどん黒ずんでいくのが見て分かる。あんなに綺麗で、汚したくないとすら思えてしまうその鱗が、あっさりとこうも容易く黒ずんでいく。
もし、何者かによって、この炎が放たれたのだとすれば、何故その人物はそんなことをしたのだろうか。
――いや、そんなことよりも。
彼女が、自分の前からいなくなったら。
そんなことが、繰り返し頭の中を過っていく。
「っ、ティルファは――白銀竜・ティルファリーナは、俺の相棒だ! どこの誰だか知らないが、そいつに手を出すな! もうこれ以上、手を出し続けるなら、俺が許さんぞ!!」
この言葉に、少しばかり目を見開いたティルファリーナがどんな想いを抱いたのかは、ユディルには分からない。
けれど、返事とも取れる彼女の言葉は、聞こえにくいはずなのに、耳へとはっきりと聞こえてきた。
「……そうはっきりと、告白のようなことを言われると、恥ずかしいんだけど」
そう確かに、ユディルの耳には届き、彼の目は横になったままのユディルを見つめるティルファリーナへと向けられる。
「朝だよ、ユディル。早く起きないと遅刻するよ」
いつも通り、起こしにきたらしいが、若干照れているのか、珍しいティルファリーナの反応に、ユディルは瞬きを繰り返す。
「あれは……夢?」
一体、どのタイミングで、あちらに行き、こちらに戻ってきたのか。ユディルには分からないが、ティルファリーナの声で起きたことだけは事実であり。
「何で? 本当に何で?」
いろいろな疑問が残ったことで、若干モヤモヤとしながらも、ユディルは朝食を食べ、登校するための支度を始める。
一方で、ティルファリーナはというと、自身が持つ竜徽結晶を取り出し、目をやるものの、特に何も無かったかのように、元あった場所にしまい込むと、そのままユディルと共に登校するための準備を始めるのだった。
少し分かりにくいと思うので、少し補足。
ティルファリーナがユディルを起こしに来た際、彼はうなされており、様子を見ていたら「ティルファは~」を寝言半分に言い出したので、彼女は驚いたわけです。
そして、「そうはっきりと~」という台詞の時には、薄ぼんやりと目覚めたユディルとティルファリーナの目は合っていたりします。