第二話:ユディルとティルファリーナⅡ
さて、ある意味お待ちかねというべきか。
三時限目の合同授業――の前の、休み時間である。
「ユディル」
ユディルが名前を呼ばれて振り返れば、登校時に分かれた相棒――ティルファリーナがそこに居た。
「ティルファ」
彼女の銀髪が風に靡くのを見て、ユディルは何となく「やっぱりティルファって、美少女だよなー」と思うのだが、そんな彼女にはもうすでに心に決めた相手が居るのだから、やっぱ世の中は持っているもの勝ちなんだよなー――とひねくれたこともユディルは思ってしまう。
ただ、これは本人は知らないことだが、ティルファリーナという白銀竜と契約したこともあり、ユディルもユディルでそれなりに注目を集めていたりする。
もちろん、白銀竜・ティルファリーナという高位竜であり、人間形態時は美少女扱いされる彼女の注目度は大きいが、そんな彼女の契約者であるユディルもまた、「彼が何故、高位竜である彼女と契約できたのか」などといった面から注目されているのだ。
――もし、それ以外の理由があるのだとすれば、嫉妬と羨望の二つだろうが。
「ティルファさん、こんにちは」
「こんにちは。リリアナ様」
そんなお互いに挨拶を交わす美少女一人と一匹の元に、新たな人物が現れる。
「ユディルせーんぱい!」
まさに、元気一杯といった表現がぴったり合うような少女の登場に、飛びつかれたユディルも互いに挨拶をしていたティルファリーナとリリアナも驚きを露にする。
「……ミナ。重いし、苦しい」
少女ことミナが背後から飛び付いたことで今朝の光景を思い出したからか、ユディルが顔を顰めながら、彼女を引き剥がしに掛かる。
「あ、リリアナ先輩とティルファさんもどーも」
明らかに、その場に居るのが分かっていながら後付けでの挨拶に、リリアナは頬を引きつらせながらも「……こんにちは」と、ティルファリーナは「こんにちは、ミナ様」と特にこれといった表情を出すこともなく、冷静に返す。
一方のミナは、といえば、リリアナに対しては羨ましいだろと言いたげに、ティルファリーナに対しては憎々しげに――ユディルが気付かないレベルの表情を向ける。
「……あんたたちには負けない」
「っつ!?」
ユディルから離れて告げられたその言葉に、リリアナは反応し、ティルファリーナは微笑ましそうな笑みを向ける。
しかし、何を勘違いしているのか。ミナはティルファリーナもユディルのことが好きで、ライバルの一人だと思っている。
もちろん、そんなこと無いことも彼女がドラゴンであり、番候補について話しさせればどうなるかなど、リリアナも知っているため、ティルファリーナについて何か言及することは無いのだが、本来ならこのことはパートナーであるユディルが教えるべきなのだ。
「大変ですね、彼女も。警戒しなくてもいい人にまで警戒しなくてはならないとは」
「ティルファさん。それ自分のことだって、分かってますよね?」
自分たち人間よりも長生きしている分、他人がどう思っているのかなんて、少し見れば分かるのだろう。
「そうですね。けど、リリアナ様。私はユディルが選んだ人なら、強く反対するつもりはありません。私が望むのは、彼の幸せなので」
「ティルファさん……」
ユディルの保護者のような立ち位置にいるからこそ、親のような身内のような願いを抱いてしまうのだろう。
「出来れば、私とも知り合いである方が、あまり心配しなくて済むんですがね」
「えっ」
ティルファリーナからにっこり微笑みながら告げられたことに、リリアナが固まってしまう。
「てぃ、ティルファさん!? それって……!」
「さぁ、どういう意味なんですかねぇ」
リリアナが慌てて問い掛けようとするものの、「おーい、二人とも行くぞー」というユディルの呼び掛けに応えるかのように、ティルファリーナは歩き出す。
「何話してたんだ?」
「んー? 秘密。女同士の話だからね」
ユディルに聞かれるも、ティルファリーナはそう誤魔化す。
まさか、自分がどんな人物ならユディルの相手として認めるのか話していたなんて、言えるはずもない――が、一つだけ言えるとすれば。
「ユディルたちの幸せについて、かな」
「はぁっ?」
何だそりゃとでも言いたげに声を洩らすユディルに、ティルファリーナは苦笑する。
「私は君からの対価として『情報を得る』という『時間の一部』を貰った。だったら、その『情報を得ること』を君の幸福のために、私が使っても良いはずだよね。ユディル」
「あ、ああ……ティルファがそうしたいならそうすれば良いと思うが……」
貴重な時間を、本当にそんなことに使ってもいいのか、とユディルは尋ねたくなったが、ティルファリーナがそう決めたのなら、そうさせてやるべきなのだろう。
(俺は『能力』を、ティルファが『情報を得るという時間』を求めたんだ。だったら、その使い方を俺がどうこう言うべきじゃない)
実際、ティルファリーナは能力の使い方を教えてはくれたが、最終的にその能力をどう使うのかはユディルの判断に委ねている状態だ。
『さあ、行こうか。我が主よ』
「そうだな」
広い場所に出て、本来の姿に戻ったティルファリーナの呼び掛けに、ユディルは答える。
「今日も頼むよ、白銀竜」