プロローグ
今いる場所は、どういう場所なのか。
少なくとも、身体の大きい自分が居ていい場所でないことぐらいは理解しているし、身体の大きさを変化させればいいだけなのだが、面倒くさいからやらない。
「頼む! 力を貸してくれ!!」
目の前……というか、かなり下にいる人間の少年が、頭を下げている。
『……』
「お願いします!」
何も返さなかったからか、彼は再度頭を下げた。
『……君の求める力は何だ?』
剣や刀といった武器が持つような物理的な力だろうか。
魔術や魔法のような特殊な力だろうか。
それとも、傷を治すことの出来る癒しの力だろうか。
それ以前に、攻撃力、防御力、敏捷といった基礎能力の特化タイプだろうか。
「俺は……」
彼の回答を待つ。
「……るための」
『うん?』
「俺たちに攻撃してきた奴に攻撃出来るほどの力と、大切な人たちを守るための力だ!」
見た目からして、まだ十代に届くか届かないかの年齢に見えるのだが、その割には、彼ははっきりと自身の望む力を口にした。
『いいだろう。君に力を貸してやろう』
ただし、そこには一つ問題がある。
『だが、対価はどうする?』
「え、対価……?」
呆然と呟く。そんなの、いるとは思っていなかったのだろう。
『当たり前だろう? 何かを望むのなら、こちらにも何かが無ければ不公平ではないか』
これで、彼に『対価』というものが何なのか、どういうものなのか、伝わっているのだろうか。
「お、俺の身体は……」
『それでは、君の頼みが無駄になるが?』
「じゃ、じゃあ、魂……」
『我ら竜は悪魔ではないし、あいつらと一緒にするな』
というか、何故力を貸す貸さないで、肉体や魂を対価に出そうとするのだ。
思わず溜め息を吐いた。
『それなら、『時間』を寄越せ』
「『時間』……?」
『君はこの先も生きる。そのうちの一部で良い』
「良いのか? それで……」
自分の願いと対価が釣り合っているのかいないのか、よく分かってないらしいが、今はそれで良い。
『我が名はティルファリーナ。人の子よ。君の名は?』
「ユディル。ユディル・フォークロイツ」
その名乗りに、私は小さく笑みを浮かべる。
互いの足下に魔法陣が現れる。
こうして(完全に事後説明だが)、私――ティルファリーナと彼――ユディル・フォークロイツは契約したのだ。
『私と君の契約は為された。これから、よろしくな? ユディル』