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縁結び狂騒曲  作者: barth
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第四話 神様敗北 もういやこんなの!?

随分間があいてしまいました。その分楽しんで頂けるよう努力した次第でございます。

 終業の騒動から数分。既に本日最後の授業が始まっていた。

 先程とは打って変わって、この授業風景は平穏そのもの。

「う〜ん。こりゃ今回は何事もなさそうだな」

 真面目にノートを取る棗を眺めながら、神は安穏と呟いた。

「さて、それじゃあゆっくり待つとするか」

 言って、神が後ろに手をやる。にょっきりと言う擬音ぴったりに取り出したのは、湯飲みと草加煎餅。

「あんぐ、んぐ、んぐ、ばぁんばふぇひょぶぁふへいひょふん。ズズズ」

 ばりばりと煎餅をかじりながら頑張れよ学生諸君と言って、神が教室を睥睨する。

 寝そべった体勢故なんとも威厳に欠ける様子だが、誰もそれを気にする者はいない。

 自由を満喫し、神は先程の疲れも和らいでいくのを感じていた。

「ズズ……ふぅ、どれ、最近の学業はどんな事してんのかな」

 どこからともなく出した急須で空になった湯飲みを満たしつつ、神は今なお黒板に何事か書いている教師をみた。

 ふと湧いた好奇心に溢れる様子で授業に耳を傾ける。

 当然、お茶を啜りながらだが。

「えー、この公式を応用する事で、先程の問二十がより簡単になる。よし、瀬川、その場合このXには何が入る?」

 何やらXやらYと言った文字が羅列している黒板を背に、生徒を指名している教師を眺め神が呟く。

「へぇ、数学か……ん、ズズ」

 神が納得の吐息を漏らし、湯飲みを啜ると同時に、当てられた瀬川が回答した。

「あ、はい……土偶」

「ブーー!! っえほっえほっ!? ちょっえぇ!? 歴史!?」

 瀬川の回答に思わず神が茶を噴き出し、噎せた。黒板の公式を有り得ないと言う目でまじまじと見つめる。

 だが、何度見てもそこに記されているのは年号も人物名もなく、英字と演算子の羅列。

「おかしい、何処にも歴史らしき部分は……」

 不審そうに呟く神を背に、当然の如く尚も授業は続く。

「ん。そうだな。じゃあ桜井、YとZには何が入る?」

「……遣唐使と……」

「な、納得いかないが、やはり歴史な――」

「エプロン」

「なんで!?」

 不本意ながら、百歩譲ってという神の努力は、残念ながら桜井の二の句で憐れにも砕け散った。

 もう我慢の限界だとばかりに荒れ狂う心の奔流を神が開放する。

「何故だ!? 土偶と遣唐使は良いとしよう! 何故エプロンが出てくるんだ!! 遣唐使が付けるとでも言うのか!? っつーか歴史と関係ねぇよ!!」

 怒涛のツッコミを開始した神と重なり気味に、教師が言葉を吐いた。

「おいおい、エプロンは違うだろ?」

 その言葉を聞いて、尚も叫んでいた神が尤もだと納得し、幾分か冷静さを回復する。

「そうだよな、幾ら何でもそんな馬鹿な――」

「やっぱり裸エプロンだろ?」

「その方がやべぇよ!! お前もか!? お前までもトチ狂ったのか教師!? やっぱりって何だやっぱりって!!」

 あっさり裏切られ再び神が暴走する。

 辺りにそれを聞こえる人間が居ないのが幸いなのか不幸なのかは置いておくとして、教師は更に授業を続ける。

「で、今の三つをここに代入すると、こうなって、この二乗が分母と分子で打ち消し合い、第一次世界大戦が起きたんだ」

「何でだ!? 明らかに時代違うし関連性皆無だろ!? そもそも遣唐使や土偶の二乗ってどうなるんだ!?」

 黒板を指差し、湯飲みをぶんぶん振り回す神の目の前で、生徒の一人が手を挙げる。

「先生!」

「ん? どうした須田?」

「問ではY=Zの場合も考えるってありますけど?」

「ねぇよ!! 遣唐使=裸エプロンの場合なんかこの世にはねぇよ!」

 更なる異常の悪化に神はこれでもかとばかりの勢いでツッコミを入れる。

「ああ、その場合はな」

「想定しちゃった!?」

「この部分のこれと、これが=で二倍になるから、第三次X大戦と言う具合に当て嵌めるんだ」

「第三次土偶大戦!? 何その訳分かんない戦いの勃発!?」

「あ、そうそう、もし例題のようにX=Zの場合には、ZYの乱が解だからな」

「裸エプロン遣唐使の乱!? そんな乱は無い! 遣唐使が裸エプロンで何をすると言うのだボケェ!!」

 神の脳裏に一瞬ふりふりの裸エプロン姿で唐の国へと交渉へ向かう遣唐使達が浮かび。

「違う、それは違う。ありえないから! 明らかに危ない集団になっちゃうから!!」

 慌てて振り払う。

 ひとしきり教師の説明が終わり、再び教師が黒板に何事か書き始めた時、神は息を切らせながら憔悴しきっていた。

「はぁ、はぁ、駄目だ。何と言うか、今までとはレベルが違う。今回の意味不明具合は俺の手に余る」

 がっくりと肩を落とし呟く様は、見る者の同情を引き寄せる哀愁を漂わせていた。

 しかし、時とは無情なもので、誰が望もうが望むまいが否応なしに進むものである。

 既に黒板には新たな公式が書き終える寸前となっていた。

「くっ! もはや仕方ない」

 キッと教師とその先にある黒板を睨み付け、神は袖をまくり、両手でほおをぴしゃりと叩いた。

「やってやろうではないか。未熟は承知なれど、曲がりなりにも神が退く訳にはいかん。全力で相手をしてやる!」

 誰でさえ聞く事がない言葉になんの意味があるのか、そもそも何故無駄にツッコミを入れるのか、一見全く無価値と思えるが、神には神の考え方があるのだろう。

「さあ、来るがよい!」

 気合いのこもった叫びが、教室内に木霊した。

 ――数分後。

「……ぷしゅううう」

 憐れ神からは白い煙が上がっていた。

 目、耳、口、頭、至る所からもくもくと立ち上る様は、あたかもオーバーヒートした機械の如く。

「無理だ、俺には無理だ」

 先程の勢いは何処へやら、既に覇気は微塵も無い。

 尚、授業は現在も恙無く進行中である。しかし、もはや神はどんな言葉が教室内で流れようともうもうと煙を垂れ流すのみという有様だ。

 因みに、授業は現在こんな具合になっている。

「えー、つまり、先生は割とスレンダーな女性が好みで」

「むっちり系は駄目なんですか?」

「あ、いや、嫌いじゃないんだけどあーいうタイプは何と言うか、体がもたん気がして苦手意識がな」

「じゃあじゃあロリ系は?」

「危ない方面に行きそうで怖い」

「ほほう、因みに人妻とか彼氏持ちだと燃え上がる方っすか?」

「寝とられは基本苦手。でも相手の男がろくでなしだった場合は若干燃える」

 教師が答えた瞬間、何故か教室内が生温い雰囲気に包まれた。生徒達が意地の悪そうなニタニタした笑みを教師に向ける。

「へー……若干?」

「若干なんだ」

「ふーん」

 まるで心の奥底まで見通すかのような視線で粘っこく見つめる生徒達。

 思いもよらず、なんとも居心地のわるい状態に陥ってしまった教師が、暫くして耐え切れ無くなったのかがくりと首を垂らし呟いた。

「…………ごめんなさい。バックドラフトの如くなります」

 諦めたかのような口調の教師を生徒達は満足そうに眺め、その内一人が喜々として口を開く。

「やっぱり、今の先生の彼女人妻だしねー」

「ねー?」

「!? 何で知ってるの!?」

 ひた隠しにしてきた秘密をあっさり暴露され、教師が目を丸くして叫んだ。勿論、生徒側はそんなもの完全無視で更に話を進めていく。

「しかも、かなりヤバイ」

「マジ? どんな感じよ?」

「F、ついでに子持ち」

「そこまで情報が!? 何で!? ねえ何で!?」

 相手が生徒だと言う事さえ頭から抜けてしまったのか、もはや教師らしさなど微塵も感じられない態度と口調でまたも絶叫。

 当然、ここで聞き入れるような聞き分けの良い者など皆無である。

「し、か、も」

「何々?」

「じゃーん」

 これまで暴露を続けていた生徒がありきたりな擬音と共に懐から何かを取り出した。

「「?」」

 教師、生徒共に疑問符を浮かべ、しばし停止。

 彼等の視線の先に現れたのは、一枚の紙切れ。否、それは写真だった。

「よく見えねーよ、何の写真だ?」

「人が、何かしてんの?」

「ん……見づらい」

「何? それ?」

 高々と上げられた写真は細部どころか全体像まで判別がままならない。

 不満が飛び交う中、写真を出した生徒はどこかのインチキ販売員めいた口調で話し出す。

「はっはっは、そう簡単に見えたらつまんない。写真は写真でもこれは、な、なんと! 先週の休みに先生が彼女の家でふ――」

「〇×□∞▼!?」

 何かを言いかけた瞬間、教師が今までにない叫びを上げて写真を取り上げた。

「うわ、速っ」

「先生世界狙えるんじゃね?」

 予想外の、ほぼ人外レベルのスピードを披露した教師に一時生徒達の視線が集中する。

 しかし、教師はそんなものを意にも介さず写真を見つめていた。

「……………」

 やがて、ボッと言う着火音が聞こえるような勢いで顔を真紅に染め上げ、彼は写真を出した生徒に詰め寄る。

「なななななっ!? こ、こここれななななんで君がもてるデスカ!?」

 本人は至って真剣なのだが、いかんせん動揺のあまり口調が壊れているのでなんとも間抜けな様だった。

 そのあまりの動揺っぷりに写真を出した生徒は意地の悪い、にんまりとした笑みで答えた。

「あはは、まだまだありますよ〜」

「だからにゃんで!? なしてそげな恥ずかしかもんお持ちになっちゃ〇▽@÷うきゃーー!?」  興奮のあまり教師が後半グダグダで雄叫びをあげる。

 見事な壊れっぷりをもう少し堪能しても構わなかったが、流石にもういいかといった様子で生徒が呟く。

「だって、俺ん家だし」

「……へ?」

 静寂。

 教師の顔が、さっきの発言が理解出来ないとばかりに、面白い位固まっていた。

 間抜けた面で未だ呆然としている教師に、生徒が追い討ちをかける。

「先生? おーい、聞こえてますか〜? だからそこ、俺ん家なんすよ〜」

 顔の前で手をひらひらさせながら言う生徒を、ぎぎぎと鈍い音を立てて教師が見、先程とは打って変わり固い口調で尋ねる。

「き、姉弟か、ナニカデスカ?」

「子です」

「誰が?」

「俺が」

「誰の?」

「先生の彼女の」

「……」

「……」

「あ」

「あ?」

「有り得ねぇええええ!!!!」

「うわっ、いきなり叫ばないで下さいよ先生」

 目から怪光線でも出さんばかりの形相で叫び出す教師。

「叫ばずにいることがあろうか!? いや、無い!!」

「なんで反語? ……ってか反語だっけこの文法?」

「さあ? 俺古文苦手だし」

「どーでも良いじゃない、今は古文の授業じゃないし」

「そだな」

「だね」

 未だぎゃあぎゃあと叫ぶ教師など露程も気にせず別の話題で盛り上がる生徒達。もはや完全に教師の事など頭から抜けている。

「なんかどうでもいい事考えたら腹減ってきた」

「学食行く?」

「HAHAHA、キツネウドンーーラブ!!」

「ちょっ、無視しないで放置しないで!? 俺の叫んだインパクトは何処へ!?」

「あ、先生まだいたんだ?」

「いたよ!? 君の真隣に居たよ!! というかこの距離でこの声量無視出来るってどゆ事さ君達!?」

「あはは、で、何か聞きたい事でもあるんですか?」

「そりゃあるさ! だって有り得ないだろこんな大きな子供居るなんて! あの人はまだ――」

「ちょっぷ」

「うどゅ!?」

 さらりと非難の言葉を受け流した生徒に、教師が何事か言いかけた瞬間、やけに間の抜けた掛け声と共に生徒の手刀が炸裂する。

 地面と水平に伸ばされたそれは、見事教師の首を捕らえた。

「全く、女性の年齢ばらそうとするなんて、何て事を。そんな先生にはちょっぷです」

「……お前、それちょっぷじゃなくね?」

「ふっ、手を開いた状態の攻撃は俺にとっては全てちょっぷなのさ。それよか学食行こうぜ、ざるそば食いたい」

 足元で白目を剥きびくんびくんと痙攣を繰り返す教師を余所にそう言うと、無情にも周りの生徒達も教師を放置して同意する。

「あ、いいねざるそば」

「んじゃ俺はざるうどん〜」

「私は、あんみつかな」

「ライスボンバー」

「それじゃ米爆弾だ。おにぎりはライスボール」

「あ、そうそうそれナイス坊主」

「どんな坊主だ。しかも遠退いてるし」

 こんな調子に皆口々に何か言いながら、生徒達は教室から出て行く。

 最後に、あの写真を取り出した生徒が未だ伏した教師の手に何か握らせて出て行った。

 まだ半分しか経っていないにも関わらず、こうして本日最後の授業は幕を閉じた。

「もう、授業じゃねえ」

 教室には、呆然とした表情でそう呟く神と、痙攣する教師だけが、取り残されていた。

 余談だが、この教師は今回の事を問題にしていない。また、後日の彼女とのデートで彼はことごとく彼女の好みを突き、デートは大成功したそうな。

 この二つに因果関係があるかどうかは、未だ以って不明。

 そして遂に、時刻は放課後となる。

遂に神様まで沈黙せしめる馬鹿騒ぎになってしまいました。この調子だと次はどうなるんでしょう(笑)

 因みに、バックドラフトと言うのは簡単に言うと火事現場で扉等を開けた際、酸素が急激に送られ大爆発を起こすと言うものです。

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