プロローグ
昔、この場所には縁結びの神様を奉る神社があった。
両想いの男女が来れば、生涯添い遂げる。片思いの者が来れば、告白の際に神が助けてくれる。
そういう言い伝えのある神社だ。
奉られている神は、幸せなつがいを見るのが好きだった。悲愛を潰すのが好きだった。人と関わるのが好きだった。
結果、多くの人々が神社を訪れ、多くのつがいが生まれた。
だが、得てして人は変わるものである。
近代化の名の元に、人々はいつしか神社の事をゆっくりと、だが確実に忘れていった。
今、神社のあった場所には高校が建っている。
神は、校舎の裏にひっそりと建てられた社に追いやられていた。
人は神を忘れ、神社があった事さえも忘れた。
数十年の間、社には誰も訪れなかった。
が、ある日の放課後、社には学生らしき少女の姿。
少女は言った。
「明日の告白が、上手くいきますように……」
彼女としては、社の歴史など知らず、藁にも縋る思いだっただけだが、その願いは、はからずも孤独に眠る神を目覚めさせた。
少女が去った後、不意に、社が虹色に光る。
次の瞬間。
社の前には一人の男が立っていた。
「願い、確かに聞き届けたぜ」
狂騒曲が、始まる……