9.眠り続ける男②
修哉君に連れてこられたのは僕らが普段使っているダンジョンだった。
ただし最奥層。
「いやー来たねぇ最奥」
「来たねぇじゃねぇこの馬鹿野郎!!何度死にかけたと思ってんだ!!!」
「あっはは。まぁ死なないんだしいいだろ」
「そういう意味じゃねぇ!この馬鹿!!」
あれ?何か凄い重要なこと言われた気がする。聞いてなかった。
最奥のフロアは天井がドーム状になっており、床はフラットだ。奥に潜む禍々しい扉さえなければ、さぞかしいい運動場にでも活用できるだろう。
「てかここ最奥だろ!?何しに来たんだよ!!そりゃ少しは一狩り行くか、的な気分だったけどそうじゃねぇよ!!」
「まぁ待て。前言ったろ?ボロ儲けな情報があるんだよここに」
「そうは言ってもモンスターが「それに」………」
「ここなら誰も来ない。ゆっくり話ができる。更にここはボス前のフロアだ。モンスターは湧かないよ」
「そ、そこまで考えて………」
「まぁ8割ノリと勢いだけどね」
「返せ!!一瞬でも向けちまった尊敬の眼差しと気持ちを返せ!!!」
台無しだ。
それにしても………。
「どうしてそんなことを知ってるんですか?」
「餅は餅屋だよ?そんなこと餅屋に聞いてくれよ」
「えぇー」
教えてくれないのか。誰だろ?そんなどこから仕入れたかも分からないような危ない情報持ってる人……………。
あっ、あの人ね
「さて、話をしよう」
「色々と質問したいんですが」
「その前にちょっと『縛り付けて』おくか」
「ムム!ムガッ!!」
しゃ、喋れない!?な、何をされたんだ!?
魔法を使った気配は、ないぞ!?
「…………」
「うん、静かになったね」
喧しい。
「さーて、これから君に話をしようと思う。一つ、ボロ儲けの情報。二つ、昨今の政治経済についての話。三つ、藤沢 蓮也について、だ」
なんかそれだけ聞くと三つ目以外有益な情報に聞こえないんだが。
「さぁ一つ目だ!唐突ですがここで一問!!デデン!!」
何か始めて来たぞ。しかも地雷臭がする。
「この国で1番恵まれた資源は何でしょうか?シンキングタイムは3秒!!そこのキミィ!!回答権はそこのキミだァ!」
喋れないのにクイズを強要してくるあたり、修哉君が性格悪いのが見えてきた。
「うん?山城クンじゃないよ。まさか僕がそこまで性格悪いわけないじゃないかー」
人を馬鹿にしすぎではないのか。
「さぁ、時間切れだぞ?飾利?」
………なんだって?
「あっ、逃げた」
修哉君はそう言ったが、僕にはなんのことだかさっぱりだ。
「まぁそのための山城クンなんだけど」
え?
「いやー山城クンには悪いけど、『そいつ』ごと『縛り付け』させてもらったよ。まぁ、今から『変形させてから』外すから山城クンは安心してね」
「どういうことだ!?お前、さっきから何………を………?」
しゃ、喋れる!!
おまけに手足も動くぞ!!
「じゃあ、クイズの答えと行こうか。山城クン?回答権はキミに渡ったよ」
「いや、続けんのかよ!!…………えーと、「はーい、時間切れー」ウソだろ畜生!!!」
「正解はァー、鉱石でェーす」
「鉱石?」
「うん、しかも、そこらへんにありそうなダイヤモンドとかエメラルドとはわけが違うんだぜ。その鉱石ってのはな、何を隠そう…………
ダンジョンの魔石なんだよ」
「え?何それ」
「フフン、魔石の価値は知ってるよな?」
「うん、遥か昔の勇者の武器が魔石製だったり、欠片でも100万パルもするっていうアレだよね」
「そうだ」
「でもダンジョンの魔石って何だ?聞いたこともないぞ」
「じゃあ逆にダンジョンってどうしてできると思うんだ?」
「え?………あっ!成る程!!魔石だろ!?魔石がエネルギー源だってことか?」
「そうだ。ダンジョンは、魔石を核としてできている。これはつい最近餅屋に聞いたことだ」
餅屋って呼ぶのか………。
「グリモニアは地下都市。ダンジョンは横穴としてたくさん広がっている。いちいち地上へ入り口を構えなくても、同じ地下に人がいるからそれだけダンジョンは多くなる。活発な魔石が増えるんだ」
「成る程ね、魔石が資源としてメイン資源なのは理解したよ」
「駄菓子菓子だ。間違えた。だが、しかし、だ。さっき、つい最近餅屋に聞いたと言ったろ?そして、お前が聞いたこともないとも」
「言ったな。………ハッ、成る程」
「気づいたか。そう、この情報は俺らしか知ってないんだ。だからボロ儲けの情報だと言ったんだ。それにちょうどその位置。俺が『植えた』その花の位置がちょうど魔石がある位置だ」
い、いつのまに………。
花は僕の足元にあった。ちょうど『影』に重なる部分で少し見えずらかった。
………。
………。
異世界なのに、パンジーなんて咲くのか?………。
見なかったことにしよう。
「今度、俺らは『密漁』する。頭数が居るんだ。いいな」
聞かなかったことにできないかな今の。
「いや、拒否権はないぞ。拒否した瞬間、お前をココにおいていく」
「分かった行くよ!!」
無茶苦茶な………。
「さて、続きだ。突然ですがここで一問!!デデン!!」
なんと恐ろしいデジャヴ。
「僕らの末路はどうなる?現状を踏まえて答えよ!!シンキングタイムは2秒!山城クンどうぞ!!!」
「難しいわ!!しかもシンキングタイム縮まってんじゃねーか!!ふざけ「はいしゅーりょーざんねんでしたぁー」畜生ォ!!!」
僕の声が寂しく木霊していく。虚しい。
「でわでわぁ?落第点のキミにざぁっくり説明しよう!現状私たち勇者様方(笑)はァー、いっちばん偉い神父さんの傀儡と化した国王のさらに傀儡であり、他国に対する戦争パッション溢れるジョーカーなのさ!」
「うわー、ひっでー」
「そしてその末路は!特に何の希望もなくただ全ての悪を滅すれば、元の世界に帰る術をなどを秘匿している魔王が現れ、そいつを倒さん限り帰れないなどと言った盲信を刷り込まされてる勇者たちはいつまでもそのありもしない幻想を信じ込まされ、ここで死ぬのさ! 異教徒を殺戮した恐怖の戦闘集団として歴史に名を刻んでなァ!!」
どうしたこいつ、こんな左翼だったっけ。何が修哉君をこんな風に変えたんだ。
「………はい、二つ目終了。さて、これが1番聞きたかったんじゃないかな。三つ目、藤沢 蓮也について、だ」
こっちを見て一瞬目を細めたかと思うと、普段通りの口調に戻った。
修哉君の印象が段々と白でもなく黒でもなくグレーになってきた気がする。
「………。あれは何なんですか?」
「霊魔だよ」
「なっ!!!」
あれが!?霊魔!?スキルの一種じゃなかったの!?
「成る程ね、そのリアクション。どうやら気づいてないんだね」
「………何のことだ」
「いやぁ、藤沢のアレも恐ろしいけど、まさか気づいてないとはなー」
「だから何のことだ!!」
「君は守護霊を信じるかね?」
どこぞの怪しい占い師みたいな口調になり始めたぞ。
「『アレ』が見えているというのに、『その存在』に気づかないなんて。面白いね」
「御託はいいから教えてよ、あれは何?霊魔ってどういうこと?」
「いやぁ、それは自分自身に聞いた方が早いから俺から言えることはもう無いな。アレの恐ろしさに気づいてたのかと思ったけど、単に驚いてただけだったしね」
こいつ、話聞いてねぇ。
「いやー、時間取らせて悪かったね。“ヤツらの呪いもまだかかってるようだし、霊魔に目覚めるのも時間の問題かな。今は時期じゃない、か。
ごめんね、『今日のことは忘れて』」
☆☆☆
いやー、今日は何かよく分からないけど沢山魔物を狩れたなぁ。
大分練習したし、この調子なら近衛や木戸さんの足を引っ張ることもないだろう。
さーて、明日も頑張るぞ。