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色々おかしい異世界召喚〜異世界珍人録〜  作者: とある吟遊詩人
第一章:愚する勇者は魔人と踊る
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6.ブランチダンジョンへ行こう②side山城




ブランチダンジョンへ入ってから少し経過して。僕たちは今洞窟の中で湧いてくる魔物を狩っていた。

この辺の魔物は全て哺乳類を禍々しくしたような見た目をしていて、目は大体赤く光っている。鳴き声とかは大凡魔物と呼ぶに相応しく、グルル、とかギニャーとかそんな可愛いものではなくて、鳴き声を聞いてこちらを威嚇してくるとその薄気味悪さから、生命を殺すことに躊躇いがなくなるのに十分な恐怖だ。

さっきは湧いてくると言ったけど、これはかなり適切な表現で、魔物はダンジョンの地面、壁、天井の土くれが変形して生まれてくる。しかし魔物が土の塊かと言えばそうではないのが奇妙なところだ。魔物はちゃんと血肉を持った、呼吸をする“生物”であり、RPGみたいにその辺に消えてなくなることはない。よって希少部位など回収する時は嵩張るので、ダンジョンを攻略するときのパーティは、大凡斥候役が荷物係になるケースが多い。また、別に荷物係を雇う場合もあるそうだ。


今僕らがいるブランチダンジョンはグリモニアの訓練兵を育成するのに日夜使われているようで、その規模は数多くの中でも大きい部類に入るそう。また、ダンジョンは魔力を吸収して成長するので、日々新しいエリアが勝手に増設されるそうだ。

楽でいいよね、訓練場をわざわざ増設する必要なんて無いんだから。


「ほら山城、隙ができたぞ!」


「あ!うん!」


-ズバッ-


「GRAAAAAAAAAA!!!!」


現実逃避してる暇なんてなかった。

ここらでは近衛が無双しすぎるので木戸さんと俺が魔物を優先的に攻撃することになっていた。

しかし圧倒的にステータスが貧弱なので、俺は真っ向から敵を攻撃せず、隙の生まれたところを攻撃していたのだが、その隙を突くためのスピードもギリギリだった。今の剣筋も正直言ってあまり手応えがなかった。


「おー、怒ってる怒ってる」


余裕そうな近衛に対して僕は絶賛ピンチだ。ヘイトがこっちに向いている。


「や、ヤバい!」


-ザシュッ-


「ふぅ、危ないわね。山城君、逃げちゃ駄目じゃない。それじゃ惨めに死ぬだけよ?」


突進してくる狼の魔物に対して不覚にも逃げ腰になった僕は、木戸さんに助けられた。誠に情けない………。


「そ、そうは言うけどさぁ」


「まぁー、そう言うなよ木戸。山城だって頑張ってんだぜ?」


「近衛君がそういうなら。ごめんね山城君」


「あー、うん、今度はちゃんと叩き込むよ」


鶴の一声なのかは謎だが、近衛により木戸さんの矛が一瞬で収まる。しかしみっともないのは事実なのでちゃんとしなくてはいけない。


「あ、そうだ。もうステータス上がった?」


「まだ」


「微塵も」


「僕も」


やっぱり一朝一夕じゃ伸びないか。何たって上は神や竜種、下は羽虫に小魚までステータスが存在するんだからな。しかも七段階評価で。いくら異世界人補正があるらしいとはいえ、そんな簡単に上がるわけがない。

でも、七段階しかないので世の人々は±をつけて自己主張するケースもある。評価が七段階しかないだけで、その中でも強さなどにばらつきがあるからだ。

そうなると21段階評価になり、細分化されてるというわけだ。尤も、そんな基準なんて個人の裁量しか判断材料がないから、実戦も踏まえて国防軍などは兵を採用しているらしい。


あ、ちなみに同伴している兵士さんはリックというそうで、今現在危険になったら助けに入るスタンスをとっている。しかし、近衛の予想以上の強さからか、時折欠伸をかいており、少し職務怠慢な気がするのは気のせいか。


「まぁ、もうちょい先へ行きたいがこれ以上行くと敵が狡猾になったり、純粋に強くなったりするらしいから今日はこの辺にしとくか?」


「そうだ。具体的に言えばランクが何かしら一つ上がるだけだがな」


「うーん、ゴメンね。僕が足を引っ張るばっかりに」


「いいーっての山城。仕方ないさ。割り切っていこうぜ、一日目で慣れろなんて誰も言わないからよ」


「………ありがとな」


「……………」


ヤバい、木戸さんに殺されるところだった。無言の圧力が半端じゃない。もうヤンデレとかいうレベルじゃないでしょあの子!近衛さん!あなたの彼女()でしょう!何とかしてよ!


「じゃあ帰るか」


「そうしよ!近衛君!」


あいつ朴念仁通り越した何かだよ。あと木戸さんオリハルコンメンタルすぎませんかね。





というわけで帰路につく一行なのだが、道中で違うパーティーに遭遇した。



「あれ、佐久間君達だ。どうしたんだろ、こんな手前で立ち往生してんのかな?」


「さぁな。見たところ佐久間に異変があるっぽいがな」



木戸さんが佐久間君のこと煽ってるように聞こえるのは、僕の心が捻くれてるからに違いない。


取り敢えず出口がそちら側なので歩み寄って行く。



「ああっ、無理だ………俺には、無理だ………スマン皆。俺はちょっと………耐えられそうにない。俺は、勇者とかそんな資格なんて、きっと、無かったんだ………。だから、お前らは先に行け………うぐっ」


-ドサッ-





え、ナニコレ。


三文芝居とかそんなレベルじゃないぞこれ。何か語ってたと思いきやいきなり倒れた。佐久間が。周りの兵士とか広瀬とかは冷ややかな目を向けている。宛ら冷戦状態の国際情勢とか氷河期とかそんなレベルの冷たさだ。


なんだこれは。


この空気だと、声を掛けづらいではないか。


「ねぇ、佐久間君どうしたの?演劇部のメンバーじゃなかったと思うんだけど」


木戸サァン!あんた凄いよ!例えるなら核ミサイル向けあってる米ソの間に割って入るくらいの偉業成し遂げたよ君は!


「あ、美咲ちゃん。実はね、こいつ魔物が可愛いからレベリングなんてしたくないとか訳のわからないことほざいけんのよ」


俺の心を知ってか知らずか、会話は勝手に進んで行く。


「うーん、それは厳しいわね。異常性癖でも目覚めたのかな?」


「そんなことは無いと思うんだけどね………」


木戸さんがチラリと此方を見たのに気づいてしまった。絶対に木戸さんは俺のこと根に持ってる。

刺されて死ぬかな、俺。


「まぁ何にせよ、今日はダメっぽいな。俺らは帰るけど、お前らも今日のところはこの辺にしておいたらいいんじゃねぇか?夜は湧きやすくなるらしいしな」


佐久間が完全に気絶していることを確認した近衛がそう言う。


「うん、ご忠告どうも。私たちももう帰るよ」


広瀬さんの顔が引きつってるのは言わずもがなだろうか。


「おら起きろー、帰るよー」


-ゲシッ、ゲシッ-


広瀬さん、何も足で踏みつけることはないと思う。これは、本格的に目覚めてしまうのも時間の問題な気がしてきた。




「お、おい!お前ら武器を取れ!囲まれてるぞ!」



ん?リックさんじゃない方の兵士さんが何か言ったようだ。名前何だろう。後で聞こう。



「おい山城!剣を抜け!こいつら、さっき言った奥に潜むレベルの高いモンスターだ!」


「何だってぇ!?」


急いで剣を抜く。するとすぐ近くに一角獣の狼版のような魔物が出現していた。


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!」


「お、うおおおおお!!!!」


訓練のとき習った、居合の構えから一撃を放つ。


-ズバッ-


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


「くっ、あ、危ない………」


辛うじて片手剣のリーチ分相手に攻撃が入って良かった。あと、あの狼モドキの突きが緩かったのもあるだろう。下手したら角が脇腹に刺さっていただろう。


「GYEEEEEEEEEEEE!!」


まだ、体力は尽きてないようだ。


「うわあああああああ!!」


-ズバッ-

-グサッ-


ああああああああああああああ!!!痛っ!痛い!

こ、これは肋骨一本砕かれているときの感触だ。それ以前に刺さった角がグリグリ動くから尚更痛い。


急いで狼モドキと距離を取るが、実に痛い。死にそう。


いや、死んだらシャレにならない。僕は日本へ帰りたいんだよ!

ステータスでは恐らく五分。木戸さんとか近衛とかリックさんはもっと多くの魔物を相手にしている。魔物だって何故か湧きの速さが異常だ。


応援は来ない。こいつは自分で何とかしなきゃ。


「やってやる………」


痛い、それが何だ。死ぬことより随分生を実感してるじゃないか。


やってやるさ。


-バシュウウウウウン-


刹那、手に力が入る。今迄に経験のない感触だ。不思議と疑問は湧いてこない。まるで元々自分の力であるかのように。


「おおおおおおおおおおお!!!」


「GYEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!」


-ズバッ-

-ズバッ-

-ズバッ-


不思議と剣が軽い。自在に動く。1発目は背中に、2発目は胴に、3発目は目元に剣筋を的中させた。


「ま、まだ来るのか………」


「GYEEE、GYAAAAAAAA!!!」


血濡れた剣を振って血を落とす。しかしまだまだ狼モドキは向かってくるようだった。


「………やらなきゃ殺られるってことか」


痛いほど身に沁みた。物理的な方で。まだ痛い。肺とかに刺さらないと良いんだけど。

絶対安静とか無理そうだよねこの世界。


「はあっ!」


-ザシュッ-


正中線を狙った突きを放つ。

軽くなった剣は狙い通りに狼モドキを貫き、狼モドキは動かなくなった。



代わりに角が飛んで俺の右腕を貫いた。




「い、痛ええええええええ!!!!!!!」


「お、おい!大丈夫か山城!ってこら酷い。直ぐに治癒魔法か薬草を使わないと!」


取り敢えず魔物の驚異的な湧きは一時的に収まったようで、ちょうどそのタイミングで僕の絶叫が響き渡る。恥ずかしさと痛みで死ぬ。


「山城君、今回復掛けるから待ってて」


そう言って木戸さんは回復魔法の詠唱を始める。それぞれの節の頭文字をとった詠唱省略をしないのは、彼女が勉強したてだという証拠だ。


「回復魔法!ヒール!」


回復魔法により痛みは消えないが、体の骨折などは治った。痛い。


「さて、パンデミックが過ぎたわけだが」


「取り敢えず、もう夜のようだ。早く城へ帰ろう」


リックさんがそう仰る。近衛はなんだか疑問に思っていることがあるようだが、言うほどでもなかったのかそのまま閉口した。


てか僕、ほんと情けないなぁ………。一応、今日の反省は活かせてたから成長したってことで。

多分、木戸さん駄目って言うんだろうなぁ。




☆☆☆




「山城君。最後、何だかんだで敵ちゃんと倒せたじゃない」


「ま、まぁね。死にたくなかったし」


「じゃあ明日は更にズンズン進みましょうね!」



………南無三。

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