5.ブランチダンジョンへ行こう①side近衛
この世界には魔物が存在する。
ハナから怪しさ満点だった神父に言われると、不思議と違和感はない。そんな戯言いいそうだからな。
なんて、昨日までの俺ならそうは言えたんだがな。
召喚されたらしい俺らはグーリエ教という宗教のハゲ野郎とローマ法王に連れられて、違うそうじゃないと言いたくなる異世界情緒なエレベーターに乗車し、ダサい転移魔法で食事会場へと誘われたのち、異世界人(勇者)のステータス開示を強要され、クラス一同に為す術もないにも関わらず会議でグリモニア王国に協力する傍らで元の世界に帰る手がかりを探すように決まった。
そして割り当てられた部屋に流れで一泊。何故か木戸に起こされる意味不明な出来事のあと、俺とクラスメイトどもは再び円卓の間へと集合、そして冒頭の感想に戻る。
この上なく分かりやすいファンタジーだな。立地と文化を除けばだが。
「ーーーと言うわけでして、この世界には魔素という概念が存在する以上、魔物やダンジョン、魔法が存在するのでございます。勇者様方には、ブランチダンジョンにてステータスを増強して頂き、予言通りの事態に対応して下さい。
その前に、ある程度皆様に武器などの訓練を設けようと考えております。女性の勇者様方や男性の一部の勇者様は武器を使用したことがなさそうだとお見受けしました。
それでは、専門の者を付かせますので、彼らの指示に従ってもらい、各自訓練を始めていてください」
マジでこれ社の慈善事業強制参加な感じなんだな。どこのブラック。
まぁ、この変な特別扱いなんかにはもう慣れた。早一日だが、気にしていても面倒なだけだろう。
「はじめまして勇者様。私はこのグリモニアの国防軍総司令部人事課のレオリオ・ロッソだ。早速だが、これから少し上層にある使われなくなった闘技場で訓練をしたいと思う。着いてきてくれ。」
顔に縫った痕のある厳ついオッサンが扉を開けて入ってきた。
来るなり外へ行こうとは、忙しい奴だな。それが仕事か。
にしてもこのグリモニアって国は地下に文明ができてるんだよな。ビックリだぜ。東京なんかも地下の開発が半端ないらしいが、これはその比ではない。なんと地下300階まであるそうだ。それも一階ごとの広さは計算上、日本の経済水域含めた領域全てすっぽり収まるくらいには大きいんだよな。さらにこの巨大寺院は最上層から最下層まで貫く大きさを誇るそうだ。正直言って頭おかしい。超高層ビルだとかスカイスクレイパーだとかそんなチャチなレベルじゃあ断じてねぇぞ。
そんなに深く掘ったら日本じゃあ温泉が湧き出たり、溶岩脈にぶち当たったりするもんだろうが、この場は鉱石しかでなかったらしい。更に、その階層を取り囲むようにダンジョンができているそうだ。
ダンジョンは、魔素という、おそらく素粒子の一つが存在することにより魔物を生成する洞窟のこと。
ブランチダンジョンとは、そのダンジョンが、階層ごとに複雑に入り組んだ形をとり、四方八方に伸びているため、枝のように見える事からそう呼ばれるとか。まぁ他には竪穴ダンジョンとも呼んだりするらしいから案外適当なんだろう。
「近衛君?ねぇ、行かないの?」
とか考えてるうちに、木戸に声をかけられる。
あー、移動するんだったか。面倒だな。
「あぁ、すまんすまん。ちょっと考え事しててよぉ」
「………何考えてたの?」
「いや、今更だがこの国の立地やべえなって」
「本当。地下なのにどうしてこんなに明るいのかしらねー。太陽神のお恵みとか言うけど絶対光が鉱物間で光ファイバーみたく送られて来てるんだって」
「あー、うん。わかったわかった。どれ、上層のコロシアムだったか?」
たまに木戸が喋ることが理解できん。藤沢あたりの影響なのか?あいつ物理屋だからな。
そういやあいつまだ医務室なのだろうか。確かあいつ風邪も捻挫も気絶も経験したことないとか豪語してるくらい健康な筈だったよな。
………まぁそのうち起きてくんだろ。しぶとく生きる根性してるからなあいつ。
あ、それと雲林院だが、あいつはこの巨大寺院から居なくなってるらしい。行方不明ともいう。
砂糖齧りに行ったついでにこの世界の甘味でも食べあさりに行ったのだろうか。
………あり得る。ヤツのことだ。
「今思うと、私たちすっかりあの人たちのこと何も警戒しなくなってるけど、そうとう私たちピンチともとれるよね」
「あー、何か悪事に利用されてくんじゃねぇかって?」
「まぁ、そんなとこかな。………私が危険な目に遭ったら近衛君、ちゃんと助けてよね」
「あいよー」
「………軽いなぁ」
とか言ってるうちに目的地へと到着したようだ。
どうやら移動はやはり俺らが最後だったようで、皆は既に武器を選んでたり、指導を受けたりしてる者がちらほら見られた。
「さぁさ、こちらへ。どの得物をお使いになられますか?」
「無難に片手剣で」
「レイピアがいいです」
「了解しました。早速ご用意致しましょう」
剣道とか齧ったこともないからな。喧嘩なら自信はあるが、力ってものは汚いイメージがあるから綺麗な理由で武道はやりたくなかったんだよな。
あくまで個人的な理由だが。
☆☆☆
その後、初めて握った装飾のない、無骨な片手剣をぶら下げながら、目の前の長身の兵士と訓練を始めて早一週間が経過した。
特筆すべきことは特になかった。普通の訓練が順調に行き過ぎてた。
俺の剣筋も大分板に付いてきたようで、剣のスキルも手に入れていた。
と言っても、スキルはそれっぽいことしてれば簡単に手に入るようだ。
そして現在のステータスはこれだ。
<近衛 紀太郎 ( Konoe Kitarou )>
種族:異世界人
年齢:15
性別:男
HP(耐久力):A
MP(魔力保有量):B
STR(総合筋力):A
CON(総合代謝):B
DEX(精密動作):C
POW(総合魔法力):B
スキル:【剣:1】【殺人衝動:3】【衝動抑制:6】【見切り:2】【縮地:1】
霊魔:<レディオ・ヘッド>
まぁ、細かいとこは気にすんな。
ここで、スキルの説明をしよう。受け売りだがな。
スキルは、その人の行い、言わば人生の結晶のようなものだ。簡単に言うと、やったことは全てスキルなって現れる。ゆえに種類は千差万別で、それでも数えた猛者によれば当時は1000を超えるスキルが存在していたそうだ。
また、やっていたことを専門的ではなく、普遍的にやれば、その範囲に応じたスキルになるらしく、数えた中でも同じようなスキルや互換性のあるスキルもあるそう。具体的には剣、刀、空裂、剣作成、魔剣製作、魔剣化、魔剣封印、剣聖などだ。今のは剣というカテゴリのみで言ったが「魔法」や「体術」なんかにも存在するのでスキルは果てし無く増えて行くだろうとのこと。
また、スキルはレベルが存在し、その上昇率は指数関数的に難しくなって行く。具体的にはレベルMAXまでに人族の一生涯がかかると言われるほどだ。
ちなみにレベルMAXは数値的には20だな。5あれば専門家、10あれば修羅、15からは人外というほどだから、レベルMAXなんてのは果てし無く遠い道だということが理解できるだろう。
霊魔については今だによく分かっていない。文献なども皆無だそうで、おそらく異世界人特有のスキルなんであろうとのことだ。
だったらなんでわざわざスキルの欄にないんだろうな。意味わからん。
そうそう、今日からブランチダンジョンへと向かうようだ。本気で面倒臭い。何がって、ステータスにAなんて項目があるゆえに、他の奴らから期待と羨望と嫉妬の眼差しが向けられるからだ。一度つい怒鳴ってしまって、ポロっと出た電撃魔法により付近の奴らをビリビリさせてしまったが反省はしていない。
というわけでさらに面倒臭くなり、俺は正直やりたくない。しかしやらねば居心地は最悪だ。国外へ行こうにもバンブロッドの規制は厳しく、上層部のスラム街からは俺らは立ち入り厳禁だそうだ。どうしたもんか。
「なあ近衛ェ、どうにかしてステータス上げらんないかな」
「ん?努力以外ないんじゃないか?俺が言うのもアレだが」
実際【剣】のスキルはレベル1のままだからな。
「まぁ知ってたらみんなと更に引き離すもんね」
「そうだな。手伝ってやりたいのは山々だがコレばっかはよくわかんねぇなぁ」
「うーん。………ねぇ木戸さん、ここ一週間で何かわかった?」
「私たちが情報規制されてて国の操り駒にされつつあることくらいかな」
「うん、何をしたんだ何を」
「木戸はいつもこんな感じだからな。気にすんな。多分いつかきっと役に立つだろう」
「………それ役に立つ確率ゼロに等しいよね?」
「神の味噌汁だァ」
「この世界の神じゃないだろうけどね」
「そういえば神様って、実在してるんだよね」
ボケがスルーされるが藤沢の受け売りがポロっと出ただけだから大したダメージはない。本当だ。
「グーリエだっけ?この神殿とかバンブロッドとかの設計」
「そうよ。細かく言うと、グーリエは風雷神。神の時代より、人族に厚く知恵を授けてくれて人族の繁栄に着手した神らしいね」
「だから木戸さんのその情報はどこから」
「フゥン、風雷神ねぇ。てことは他にも神がいるんだな?」
最早山城の言い分は総スルーだ。
「ええ、他にも神は存在すると言われていて、総計7神。上から順に創造神 エリス、太陽神 ソラリス、雨天神 ヘルガ、風雷神 グーリエ、運命神 エレニア、豊穣神 ヘレーナ、海洋神 タルカス。………面白いのはそれぞれが濃いキャラクターを持ってるところね」
「例えばどんな?」
「そうねぇ………。まぁ色々あるけど、形容するなら汚染した川の六価クロムを取り除くためにカドミウム入れるくらい馬鹿馬鹿しいわね」
「………ごめん、程度が全くわからない」
「まぁ、木戸だしいいだろ」
とかなんとか喋っていると目的地に着いたようだ。
目の前には松明でほんの僅か整備された大口、竪穴がこちらを静観していた。まるで何かを待ちわびてるようであり、来る者を選別するような印象を受ける。
洞窟はとても広く、 トラックが通っても平気そうな幅と高さがある。代わりに奥行きが無限に続いてるようにも見え、闇が広がっている。
「これは………すげぇな」
そんな感想がポロリと出る。いやはや。
「………オホン。それでは、勇者様方。各パーティーに分かれていただいて、今日からここで、レベルアップを図っていただきます。加えて 、深部になりますと魔物が強くなるだけではなく、松明や地面などの整備がなされてない場合があるので、その辺を慎重にお願いします。崖や落盤などが危険ですので。
それでは、各パーティーはブランチダンジョンに向かって下さい。」
とのことだ。
俺のパーティーは、俺、木戸、山城の三人に、兵士が一人付く。
…………何もなきゃいいんだが。