3.召喚考察②side南雲
その日までは、宇宙人だとか、超能力だとか、魔法、タイムスリップといったものは信じてなかった。
いつもと同じように、朝起きてすぐにベッドメイキングをし顔を洗い朝食を摂り株価を確認し歯を磨き排泄し昼飯を買い最低限必要なものを持ち学校へHRの時間1分前に到着し授業を受け放課後になりすぐに帰宅し洗濯を済まし株価を確認しバイトに行き帰って夕飯を作って食べて株価を確認し勉強して風呂入って寝る。
という一連の営みを、俺は望んでいた。
ーーーそれなのに。
俺たちは恐らくだが、こんな目にあった元凶は、目の前にいるこの胡散臭さを体現したかのようなクソジジイにあると確信している。
俺、南雲 晴人は高校一年だ。中学時代、高校は都内の割合有名な進学校へ行こうと躍起になってたのだが、何の因果か母方の田舎へ引っ越してきた。
好きなものは金融についてだ。金が大移動するときがある種の興奮というか、下手な物語を読むよりも面白い。度が過ぎて高校になってからは多くのバイトを掛け持つようになった。効率厨と呼ばれることもあるが気にしない。好きだからやることに異論は唱えさせない。
しかしおかしすぎる。奴らは、タイミングも、服装も、そしてこんな事が起こることがさも想定してたかのようなその態度(現に俺らのことを勇者などと呼んだ)も、訛りのない日本語を話すくせに奴らは皆顔つきが西洋風なのも、この巨大建造物も。
中世ヨーロッパの騎士みたいな奴らが側近として侍らせてふんぞりかえってるクソジジイは、時代錯誤も甚だしい、その謎建造物の如何にもな大扉を開き、その中へと入って行く。側近どもがこちらへ入るように促し、謎建造物の中へと入ることになる。
頼むからやめてくれ。家へ返せ。
「どうかしてるぜ全く………」
「そうだな、ブッ飛びすぎてもう理解が追いつかない」
「………本当な、中世かと思えば超科学かよ」
俺と話している親友を紹介しよう。最初の反応を示したのが佐久間 志貴だ。
育ちも生まれも地元。幼い頃から空手をやっており、部活も空手部で、空手の全国大会に出場するほど実力が高い。不良の湧きやすい田舎ならではの武勇伝が数多く存在してるがここではカットする。
次に、会話のレスポンスが多少遅めの方は、黒沢 飾利。
名前について触れるとキレるので囃し立てるのは止めにした方がいい。過去にそういった輩が何人も謎の引きこもりになった人を沢山見てきた。
まぁ、悪い奴ではない。
「うおおおお!すげぇ!何だこの建物!!でっけえええええ!」
「こ、こんなの見たことない」
「えー!これ絶対エレベーターだよね!!そうだよね!!」
今更になってクラスの1部が煩くなる。確か今のは溝渕、松田、秋元だったかな?
「ハハハハハ、喜んでもらえたようで何よりで御座います。そちらの勇者様の仰る通り、これはエレベーターと呼ばれる神殿の一角で御座います。我らが神、グーリエ様のお導きにより建築した、このハディーテ巨大神殿の移動手段でございます」
マジかよ。世界観どうなってんだ。
☆☆☆
その後、エレベーター特有のGがかかり、エレベーターは20分かけて目的地へと着いたようだ。
やけに長い。手動なのだろうか。いやそれにしてはスムーズだった。
そしてあの神父の誘導の元、そこから開けた外へ出る。
そこは城だった。巨大な城。天高くまで伸びてる塔もある。というか先が見えなくなっている。一体何の為にあんなものを………って、それは置いといて。
あれがあの糞どもが住まう城か。かなり豪華な、少しゴテゴテした感じではあるがそこまで悪趣味ではないようだ。
「こちらが我々の住まう城にございます。こちらが正門になりますが、侵入者対策のため、罠が張り巡らされております。それゆえ、こちらからは転移魔法で一気に場内へと案内いたします。……おい」
「はっ、只今」
どうやらここからは転移魔法を使うらしい。最初からそうしろという話だが、さっき召喚された場所はかなり規制が厳しく、滅多に入れることのない場所なんだそうだ。
………召喚場だから、なんだよな。
にしても魔法か。本格的に異世界のようだな。それとも謎技術か。
「ヒカワミモサジ・グリモニア王城4階、円卓の間!」
カッ!と淡い光が地面から生じ、辺りを包み込むようにドーム状を形作る。光で外が見えなくなった後、俺たちは円卓の間という所にいた。
目の前にはただただ広い空間の中にドーナツ状の歴史でよく見られるようなテーブル、ただし王族仕様なのか黒く艶の入ったなめらかな木と、それに掛けられた赤と金を基調としたシンプルかつ気品のある感じがしている。その周りにある椅子も同様だ。法王と神父のものらしきものを除けばな。
てかさっきの謎の呪文はなんだ。
「……なんか、すごくダサいんだな、魔法ってやつは」
「転移魔法だからじゃないか?」
佐久間が答えるが、最後の部分が明らかに座標を指定していたものであるので、その線が強いだろう。
一行は、円卓に学校の時のような出席番号順に座るなどをすることなく、思い思いの場所に席に着いた。ちなみに右隣が黒沢で、その更に右が佐久間である。糞どもは俺と中心角90°離れた左側に座っているため、俺は奴らを自然に視界に入れることはない。
それにしても、わざわざ円卓なんてて用意して、一緒に飯でも食べようというのだろうか。
「さて、勇者の皆様。歓迎の印として、こちらでささやかながらこの国の料理を御用意しました。その後に、我々が勇者様方にお伝えしなければならないことをゆっくり時間をとって話させていただきます。それではどうぞ、召し上がってください。もし、お代わりなど御座いましたら、近くの者に自由にご注文ください」
予想は的中したようだ。
直後に円卓の上に「豪勢」という表現がぴったりな御馳走の数々が出現する。急な出現に驚いた物は最早少なくなっており、皆もう動じないようだ。うるさいクラスメイトがいないでもないのだが。
そうして皆はいい匂いに触発されて腹が減ったのか、各々の食べ方で料理を堪能し始めた。貪り始めたと言った方が正しいのか。堪能している様子ではないし。
「何だ南雲、黒沢、食わないのか?」
「いやさ、なーんか嫌な予感がするなってだけだ」
「………左に同じく」
だって怪しすぎるだろ。胡散臭すぎる神父と法王が用意してるだけでも怪しいのに、何もないテーブルの上にいきなり料理が出現するとことか何か仕込んでそうでなー。
ビビるとかそれ以前に生命の危機を感じてるんだが気の所為かな。
「あれ?広瀬、お前もか?」
「ちょっとお菓子食べちゃってて………ね。私食べないから佐久間君、食べちゃっていいよ」
「あっ、はい。頂きます」
クラス一の人気を持つ広瀬 睦美だ。様々な噂も散見されるがここでは触れるべきではあるまい。
ちなみにスタイルも抜群だ。
結局お腹いっぱいという理由で食べなかった広瀬と気絶してる藤沢を除いて、俺たちクラス全員はたらふくテーブル上の怪しい料理を食べた。
普通に美味しかった。
一息ついたところで神父が立ち上がって話し出す。
「さて勇者の皆様、お腹も膨れたところで、我々が何故勇者様方を召喚したのか、そもそもここはどこなのか、そして我々は何であるか、知りたいものと存じます」
そりゃあな。当然だな。
「それでは順を追って説明いたしましょう。まず、ここはどこであるか。
………端的に申し上げますと、勇者様方からは異世界と呼ばれる場所でございます。おそらく、気候、風土、文化など見たこともないようなものが数多く存在するものと思われます。
また、この世界には大陸は七つ存在し、それぞれに異なる文明が栄えています。ここはその一つ。神聖なるグーリエ様のお導きにより誕生し、この日まで安寧を保ち続けた国、グリモニアにございます。その歴史は深く、700年前から王朝が続いているのです。この神殿も先ほどお見せしたエレベーター、通称バンブロッドも全てがグーリエ様のお導きによるものでございます。全てはグーリエ様による恩恵でこの国は成り立っていると申し上げてもいいでしょう。それほど、神、グーリエ様は偉大なのです。
しかし、グーリエ様は現在この世界には存在しておりません。天上の世界に住まい、日々世界を管理しているのです。そのため、我々神父らがグーリエ様の言葉を天上より賜り、代行者としてこの国にグーリエ様の意思を伝えているのです。
今回、グーリエ様は世界に蔓延るであろう最大の悪に対抗すべく別世界からの勇者ーーー勇者様方の住まう世界にございますーーーを召喚した。との言い伝えでございます。故、勇者の皆様、どうか、この国、ひいては世界を、お救いください」
ふむ………ブン殴ってやろうかそいつ。
成る程、俺がなさなきゃいけないのは神殺しだというわけか。
神話かよ。ないわー。
てかあのエレベーターの固有名詞バンブロッドって言うんだな。
話が逸れたな。
にしてもグーリエって野郎をかなり押してきてるな。なんなんだこれ、新手の宗教だろうか。
いやエレベーターあったしなぁ。そういえばあのエレベーターどことどこを繋いでるんだ?天井なんてものはエレベーター乗る時はなかったはずだが。あれ?技術力半端なくない?目の錯覚なのだろうか。
まぁそれはさておき、これで俺らがここに来た理由も、こいつらが何なのかも分かった訳だな。
いや、これを信じるしか情報がないだけなんだけどさ。
………これ、どうしたもんか。