13.魔石乱獲②
主人公は章ごとに切り替わる予定です。
まだ無双しないよ。
「ここで引き上げるか…………それとも 、この『計画』の真の目的を知りに行くか。どっちもは、なしだぜ?」
「真の目的、ねぇ」
唐突に何を言うかと思えば、どうやらこの魔石を乱獲する計画には、裏があったらしい。
工藤といい、この計画といい、どうりで胡散臭いわけだ。
「そうさ。まぁ、俺としちゃあ良い子は寝る時間だから帰って欲しいんだが」
「じゃあ何で聞いたのよ」
「で、どっちにする?帰る?」
いつもの事だが、果たして工藤は会話する気があるのかと疑いたくなる。
「逆よ。折角だし、ついて行くわ。そこで死にかけたんだし、当事者だから知る権利はあるはずよ。何より、私の見えないところでコソコソしてるのが気に入らないのよ」
「強かだねー。よっし、じゃあとっとと見てもらったほうが早いな。こっちへおいで」
そう言って工藤は、私が先ほど紫色の光を放っていた方へと歩いていく。
その後に私も続く。
すると、その先で見たものは、1メートル程の宝石が無造作にポンと置いてある光景だった。よくギネスで見るカボチャレベルの大きさだ。私が拾った光結晶と同じ色をしている。そして相変わらず、ずっと眺めていたくなるような『魔力』を感じる。
「おっと、あまり直視しちゃダメだよ」
「ぅえっ!?」
変な声が出たが、それは工藤がいきなり目隠ししてきたからだ。
油断ならないわねこいつ。
「あーっと。これはこのダンジョンの魔石だよ。ただし、呪われてるけど」
「………いい加減外してもらえないのかしら」
「ゴメンゴメン。でも、あんまり眺めてると『取り憑かれる』から、注意してね」
取り憑かれるって何に!?魔石に?ないとは言い切れないわね。気をつけないと。
「それで、呪われてるってどういうことなの?」
「恨み辛みとかの呪いじゃなくて、変質させる呪術を施されてるんだ。多分、さっきの魔人はかなりのやり手なんだろう。後はこれを埋めるだけだぜ」
「呪いに種類があるのは分かったけど、具体的にどうなってるのよ」
「簡単に言えば、迷宮化ってやつ?」
そして、工藤に迷宮化について説明を受けた。呪術の内容は具体的にはよく分からないらしいけど、罠やカラクリが魔物と共に出現するようになるとか。
罠にはミミックというよくあるものから、具現化した洞窟の魔物、そして新たなエリアの出現という大掛かりなものまであるそうだ。
なんでそんなこと知ってるのかは教えてくれなかった。
そして工藤君が何か気づいたようで、顔を顰めて何かを考えている。
「これは…………欠けてる?」
確かに、工藤君が呟いた通り、その魔石は少し欠けていた。不自然な窪みがあったので私でもすぐに気づいた。
「…………ねぇ、石田ちゃん」
「何かしら」
「どうやって最奥まで一直線で来たんだい?」
工藤君の顔はとても真剣だ。先ほどまでのおどけた表情など、とっくに消えていた。
確かに不可解ではあった。
グリモニアに多数存在するブランチダンジョンと言うものは、ブランチの名の通り、無数に枝分かれしているのだ。そして、最奥と呼ばれるボスが住まうエリアには普通、最低10回引き返して漸く正規ルートという、果てなきトライアンドエラーを繰り返すはずなのだ。
しかし、石田は現に一発で到着したのだ。
実に不可解だろう。
「そうね…………確か、拾った光結晶が割れちゃったんだけど、その後光結晶の粒子が飛んでいったの。怪しいと思ってそれについてきたら、ここに着いたの。藪蛇だったけどね」
「間違いないな。…………これ逆だわ」
そう言うと工藤は納得がいったような顔を浮かべ、いつもの飄々としたものに戻る。
「逆って?」
「参ったなー、計画狂ったー。うわー、でもまぁ想定内だな。Bに移行しよう」
工藤君は、人の話をまるで聞いていない。
「あ、ゴメンゴメン。説明するね」
彼自身、そこにある魔石が呪われているのは知っていた。それを解呪してから持ち帰るという算段だったらしいのだが、その魔石が欠けていた。
一般に、欠けた魔石は何故か魔力の持ち味が悪くなり、呪術をかけても効力はほぼ無くなるそうだ(まぁこの魔石の場合はそれを補うほど大きいのだが)。その所為で取引値は無傷に比べて半額だ。しかし強度は抜群で常に需要があることから値段は減るが、それでも高値だ。
閑話休題。
つまり迷宮化を目的としていた魔人が持ってきた魔石にしては、品質が悪すぎる、と。
「つまり、本気で迷宮化させようとコソコソしてるんなら無傷なものを用意するはずだから不自然って言いたいの?」
「まぁ、それはそうだけどね。引っかかってたんだよ」
「勿体振るわね。それは何?」
「一つは、何故こうも暗躍していた魔人が1人しか居なかったのかってことと、もう一つは、魔石がダンジョンに埋まらずにポンと置いてある状態で見つかったことなんだ」
つまり、工藤はこう考えたのだ。
仮に、魔人を纏めるテロ組織みたいなのがあったとして。ダンジョンの迷宮化という破壊工作をしようとした場合。それが大規模で人員が多ければ、かなり懐具合は良いはずであり。こんな高価な魔石を、かつそんな作業を1人にやらせるなんていうのは、リスクを考えた場合、まずあり得ない。
逆に小規模なら人員が少ないのは分かるが、この実行役以外に見張りも誰もいないとなると、少数精鋭の組織といえよう。
また、先ほど見た魔人は、明らかにこのグリモニアに存在する人種ではなかった。グリモニアは閉鎖的な国である。外来からの移民などないし、出て行く者も限られている。
そして、ここは下層部だ。外からの侵入者など隠れる隙も無いし、下層部に来てまでテロ行為とは個人の犯行だとは考えにくかった。
したがってかなりの少数精鋭な組織の仕業であるとみて良いだろう、と。
そして、魔石がそこに鎮座しているということ、石田が魔石に導かれてこの最奥まで一直線で来れたこと。そして魔人が1人。ここから推察できることは、魔人が実行役ではなく見張りであること。魔石は侵入者がいないか、その性質を利用して警報装置代わりにしていたこと。そして魔石が露出して置いてあるのは、もう用がないからだろう。
何の用か。
その呪術式を読めば分かる。迷宮化は、ダンジョンの魔石に呪術を掛ければ、再び埋めた時に変化をもたらすものだ。そして、迷宮化を解除するには、ダンジョンをただの竪穴にするのと同じく、魔石を掘り出せば良い。
そして、魔石は土の外に出ている。
「簡単に言うと、とっくに迷宮化されてて、隠れた部屋のどこかに魔人が隠したいナニカがあるんだ」
「つまり、実行前に来る筈だったけど逆に実行され尽くされた後だったって訳ね」
「流石秀才。パッと言ったことを直ぐに理解できるとは」
「馬鹿にしてる?」
「いやいや、してないしてない」
半笑いなのが、どうにも嘘っぽい。
「ま、事の真相は、本人に聞いた方が早いだろうね」
「え?」
そういうと工藤は先ほどの岩陰に歩いて行ったかと思うと、徐に足元に咲く花に話しかけた。
「ハァーイ。聞こえる君ィ?ブランチダンジョン下層部という場所に似つかわしくないお花にされた気分はどうだね?さっきまで女の子甚振ろうとして優位に立って悦に浸ってたのをどん底突き破って地獄に叩きつけられた今ってどんな気持ち?ネェネェネェ、どんな気持ち?ネェネェネェ、クールキャラ装ってたくせにお花のコスプレとか目障り通り越してネタだよ君々ィー」
「…………なに、してるの?」
流石にドン引きである。というか途中が早口過ぎて頭が追いつかなかったが、ヤケに滑舌がいいので全て聞き取れてしまった。なんか悔しい。
「あぁ、コイツ、魔人」
「…………は?」
おっと、素で返してしまった。
こいつ、何をほざきよるのだろうか。
「まぁ、後で説明してあげるから今は理解を丸投げしといて」
「え?嫌よ」
「さて君ィ、尋問タイムだぜ?『話せよ』」
『がぁっ、はぁっ、し、喋れる!』
「ひゃっ!だ、誰!!」
「ちょっと石田ちゃんは大人しくしててね」
工藤になんか言われた気がするが、無視だ。誰か他にもいるのかもしれない。
「軽いパラノイアかもな。………いや、みんなそうか」
『お、オレは一体………。こ、ここはどこだ!あたり一面真っ暗だ!』
「ま、また喋った!って、嘘………でしょ?」
私は、声の主を必死で辿った結果、工藤が言った通り、そこの花が音源のようだ。
今までで一番ファンタジーな出来事だ。
「おーい、会話しようぜー。君ィ、まだ自分の立場が分からないのか?『オレが上で、オマエが下だ。何度も聞かせるんじゃねぇぞ』ってヤツだぜェー?」
『そ、その声まさかッ!!』
「さて尋問だ。貴方は何ですか?」
『私は魔軍大将の1人、ニーズヘグ様の直属隊の一員。名前はザキ。…………っ!勝手にオレの口がッ!!』
「喧しいのはあまり宜しくないね。もしまた今度うるさくしたらその花びらを抜かせてもらおうかな」
私はこの光景に唖然とするばかりだ。
「まぁいいや、次。ステータスとスキル、そしてこの任務の内容を全て吐いてください」
最早何でもありだ。
工藤が要求したことを無駄なくテキパキと答えているあたり、本当はこいつらグルなんじゃないかと疑いたくなる。
ちなみにステータスはこんな感じだった。
< ザキ ( Zaki )>
種族:魔人族
年齢:23
性別:男
HP(耐久力):C
MP(魔力保有量):C
STR(総合筋力):C
CON(総合代謝):C
DEX(精密動作):C
POW(総合魔法力):C
スキル:【短剣:17】【暗殺:14】【気配遮断:15】【魔法耐性:10】【闇魔法:9】
そして、肝心の目的はというと。
『この任務は、このグリモニアの最下層に眠る宝を手に入れるため、警備のないダンジョンの中を少しずつ繋げ、直通のルートを幾つも作ることだ』
石田はすこし目眩がしてきた。
自分でついてくると言ったとはいえ、簡単なバイトな筈が、国宝を狙うテロ組織と関わることになるとは。
甘い話には裏があることを身をもって経験し、それを胸に刻んだ石田であった。
それにしてもとんだ薮蛇である。
☆☆☆
あのあと工藤君は、お花に向かって元魔人に身辺調査とか心理テストのようなことをたくさんしていた。
そしてそれが終わったあと、その花の花びらは4枚しか残っていなかった。
あまり考えるのはよそう。
そして、隠された別のブランチダンジョンとの通路を見つけたので、そろそろ帰路につくことにしたのだが、工藤君はやることがあるとだけ言って、どこかへと行ってしまった。
「煙みたいな存在よね、彼」
と、そう納得し、振り分けられた部屋へと戻り。そのあとはお風呂に入って寝た。
そして、次の日。工藤君と、ある給仕の男がその行方を晦ました。
☆☆☆
「こんにちは、木戸さん」
「こんにちは、石田さん。何か用事?」
「うん。工藤君のことと、あとはバイト代?」
「成る程ね。石田ちゃん、工藤はフェミニストで天然タラシジゴロだからあまり好きになっちゃダメよ?」
「待って!なんでそうなるの!」
「あ、バイト代は持ち帰ってきた魔石よ。勝手に使っていいわ」
「あっ」
「ん?」
「…………持ち帰るの、忘れてた」