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色々おかしい異世界召喚〜異世界珍人録〜  作者: とある吟遊詩人
第一章:愚する勇者は魔人と踊る
11/13

11.司書《リリー・ベルリッツ》





僕らが異世界に来てから1ヶ月半くらいが経った。


グリモニア王国では特に異常は見られないそうだが、冷静に考えてみれば上層部や他のダンジョンには行ったことがない。


領民がどんな暮らしをしているのか分からないのだ。


数少ない領民との交流は、主にハディーテ巨大神殿に隣接された宮殿だったり、兵士の修練場だったりしかない。


しかし、約1ヶ月半経った今日。


僕は『図書館』を見つけた。



偶然だった。知り合いは誰もその存在を知らないし、後で考えると見つけることは難しいだろうと思ったからだ。


それにしてもこの宮殿、やたらと隠し通路や隠し部屋が多い気がする。


空間魔法という物であるらしいが、とても難しいので、一般に伝聞からの情報しか伝わってこないグリモニアでは詳細も掴めない。


この神殿の建設に携わった肝心の魔導師は3人居たらしいが、1人以外全員行方不明とのこと。本当は行方不明どころか消息も分からないのだそう。


その消息の掴めている魔導師は、現在はこの宮殿の『どこか』に居るそうなのだが誰もその所在を知らない。


で、何故こんなことを話すかと言えば。目の前に当該の人物がいるからだ。


時間は数十分前に遡る。




☆☆☆




司書さんは、黙々とカウンターの上に積み上げられた本を読んでいる。かなり近寄りがたい雰囲気だ。


僕が今立っているのは、図書館の入り口から数歩先。正面はだだっ広い通路で、周りは通路に沿って、広めの読書スペースやベンチが並べられており、その奥に目測で5メートルはありそうな本棚が所狭しと連なっている。

ちなみに上を見上げると吹き抜けになっていて、その階層が数え切れないので、余程この図書館は高いと言うのがわかる。

司書さんのいる位置は正面の通路の先だ。特別大きな半円状のカウンターに座っていて、顔を上げればすぐに僕と分かるだろう。ちなみに後ろも本棚のようだ。


ちなみにここに来てから既に二、三分経ったのだが、一向に気づく素振りすら見せない。

こっちくんな、ってことだろう。と謎の配慮をして、僕は挨拶もなしに目的の本棚を探すことにした。


気がついたらここにいて、暫く呆然としていた訳だが、歩いてみて分かる。

この図書館広過ぎる。

まるで夕日に向かって走るかのような錯覚を覚える。先ほどはだだっ広い通路と言ったが、そんなレベルじゃねぇ。


と、考えてるうちに本棚の近くに来れた。まるで小人になったかのようだ。

せっかく図書館に来たので、何か本を読まないと損ってやつだ。適当な歴史書とか魔導書が無いものか。


「………とはいえ、どうやって探したものか」


司書さんに聞くのが早いんだろうけど、あんな威圧されてちゃあなぁ。


「本を、お探しですか?」


「うわぁぁあ!!」


び、びっくりした。あの司書さんだ。いつの間に。これでも気配察知はできる方になってきたはずなんだけどなぁ。


「本を、お探しですか?」


「え、と」


「本を、お探しですか?」


「は、はい」


何だろう。この違和感。この人、これしか喋れないのかな。


あぁ!繁華街とかで客引きのために日本語を無理やり覚えた外国人みたいな反応だコレ!!


「………何の、本を、お探しですか?」


何だろう。言葉自体は平静を保ってるんだけど、態度が全てをぶち壊してる。イライラしてる態度がひどく威圧感たっぷりなんだが。


「ま、魔導書や歴史書などを………あ、あの……喋れないんですか?」


この時ほど、何でこんな質問をしたんだろうという後悔をしたことはない。

それが原因か、彼女はひどくイライラしているようで、何語かわからないがブツブツ呟いている。


直後、とんでもない吐き気と共に大声の呪詛が聞こえてきた。



【おーい、聞こえてんのかこの○○○(自主規制)!!!。聞こえたら『ハイ』と返事しろよ】


「は、ハイ!」


【違うよクサレ脳ミソ。『念話』で話してるんだからそれで返すのが基本じゃないかい?おたくは年賀状をSNSで返すのが基本と思ってるクチかい?】


ひどい言われようだ。


念話って何だ。


目の前の司書さんはブチ切れ寸前という表情をしている。何故だ。


【念話できないって正気?あんまりこのリリー・ベルリッツをナメるんじゃないよ。ノックもアポもなく、更に挨拶もなしに人の城に上がりこんで、本棚を物色かい?来世はどんなのがいい?うん?】


………こわい。


そんな感想を持って戦慄及びドン引きしていると、司書さんはひとつ、盛大な溜息をついた。


【…………………毒気抜かれちゃったよ。ゴメンね、まさかここまで悪意なく私の逆鱗に触れることしてたからつい怒っちゃった。念話できない、言語分からない、どうしてこの場所に来れたのか分からない、なんて三重苦とはね。消し炭しなればいいんじゃないかしら】


だから物騒だからそういうのやめて欲しい。


けど何となく理解してきたぞ。

ここは普通の人は入れないが、何故か僕が迷い込んだこと。

ここは普通の人が入れないような機構を組んでいるから、この司書さんが許可しないとこの図書館には来れないこと。

そして司書さんが只者ではないこと。

最後に、日本語が通じないことだ。


念話ってどうやるんだ。


【………漸く理解したようね。アンタは正直言って異常よ。で、日本語だったかしら。最近は外を見てないけど、グリモニアでは………ううん、この世界のどこだって日本語なんて使われない筈よ】


「え?は!?何だとぉ!?」


【喧しいッ!館内では私語を慎みなさいッ!】


は、はいぃ。


司書さんの勢いにタジタジな訳だが、衝撃の事実だった。

そして「じゃあ、何で神父とか平然と日本語使えてたんだ?」という、当然の疑問は俺の頭に瞬時に浮かぶ訳で。


【神父?………まさか。ねぇアンタ。念話は、頭で念じればできるから質問に答えて。一々脳内覗きたくないのよ】


嘘だろ。

ここにはプライバシーの概念は無いそうだ。


【えっと、こうですか?】


【あー、よしよし。一発で出来るとは中々いいじゃない】


喜怒哀楽が激しい人だな。


【さて、尋問タイムの前に、軽い自己紹介をするわ。私はリリー・ベルリッツ。しがない魔導師で、見たとおり、現在はここの司書をやってるわ。最近の悩みはメガネが消えたこと。はい、君は?】


いきなり自己紹介始まってるし。てか尋問タイムかよ、この後。


【僕は、山城 圭って言います。なんか勇者として召喚されました。最近の悩みは何か忘れやすいってことです】


【宜しい。じゃあ、始めましょうか。尋問タイムをね】




☆☆☆




数十分後。




【成る程ねぇ。アンタ、哀れだね】


ド直球とかいうレベルじゃねぇ。


【な、中々に酷いですね】


【先ず、さ。夢見がちなお年頃の高揚してる現在の立場を貶すようだけど。勇者って言うのは、体の良い戦争の兵器だからね?】


【は?】


何言ってんだこの人。じゃあ何で僕らはここにいなくちゃならないんだ。


【魔王とか悪魔とか、元よりこの世界には存在しないんだ。それよか人の弱みに付け込んで私服を肥やす悪人どもの方が 悪魔らしいね。たまに魔力の暴走で自我が無くなり暴徒と化す魔導師がいるけど、そいつは魔王と呼ぶべきかね】


【そんなことはどうでも良い!なら、何で僕らは召喚なんてされたんだ!今までやってきたことは何だ!!】


【落ち着きな】


一瞬リリーさんの指が光ったかと思うと、体から力が抜ける。


ザ・平常心。


………心が、穏やかだ。


【………ありがとうございます。今のは?】


【強化系魔法、鎮静化さ。今作った】


【………おおお?】


変な声が出てしまった。

ひょっとしたらこの人、めちゃくちゃ凄い魔導師なんじゃなかろうか。


魔法と言うものは、先人たちが血反吐を吐くような研究を重ねて魔法陣や詠唱式などを調整、添削した後に出来るものだ。間違ってもポンと作れたりしない。


【まぁ、この神殿の建築に携わった魔導師の1人でもあったから、このくらい余裕だよ】


マジか。………え?待って何年前の話だ。


【それ以上考えたらチリに変えてやるよ】


………こわいこの人。


【アンタ、ヘタレって言われたことない?】


何故だ。何故バレた。

うっ、幼き頃初恋のあの子に勇気を持って告白しようとして緊張したあげく走って逃げ帰ってその次の日に見たあの子が冷ややかな目で僕を見てきた、という過去のトラウマがぁぁぁぁ。


【………元気だしなって】


同情の眼差しが追撃してくる。


【まぁ、運が悪かったんだね。全部。そんな女を好きになったこと、召喚されちまったこと、全部】


【ぜ、前者はもういいだろ。これから僕はどうすれば】


【お、みんなには言わないんだね】


【無理に決まってるだろ!その話が本当なら、恐らく言いふらした瞬間に遅かれ早かれ僕は死ぬ。神父だか法王だか両方だか知らないが、計画を邪魔されることは誰だってイヤだろう。それも権力者となると、僕程度楽に始末できる筈だ。寝込みは無防備だし、毒なんて感知できないんだからな】


【………ちょっと見直したね。クサレ脳ミソではなかったようだ】


相変わらず口が悪い。もう運が悪かったということにしておこう。


【はぁーあ。厄介なことになったね。ここまで関わっちゃあ、私も手出ししない訳には行かないか】


【な、何かあるの!?】


心強い味方を得た気がする。


【ある。じゃあ聞くけど、アンタの『ゴール』はどこだい?】


あるのか。そしてゴールとな。


【そうだよ。最終目標ってヤツさ】


そんなの決まりきっている。


【みんなで『日常』に戻りたい】


【宜しい。ならば汝は前へ進まねばならない。足跡は既に波でかき消されているのだから。汝は足跡を辿り、戻ることはできない。故に、先を見るのだ。これは餞別よ】


そう言って一瞬でカウンターまで転移された。

そしてリリーさんが引き出しをガサゴソして出てきたのは、僕らがよく知る、タロットカードのような、絵が描かれたカードだ。


【ここに41枚のカードがある。一枚、好きなのを引いて、そこに置いてね】


指差されたのは星型の紋様が描かれた羊皮紙の中央のペンタゴンだ。


カードを引く。そして置く。


すると、リリーさんは手際よくほかの5箇所にカードを配置していく。


【これで良し。さぁ、アンタがカードを捲るのよ】


これにも意味があるのだろう。魔法があるんだから占いだって信用してやる。


【…………】


【おい捲ったぞ何か言えよ】


【結果を言うわ。ハッキリ言って不吉よ。凄い不吉。アンタ、やっぱり運が悪かったんだわ】


【………具体的には?】


【………これから、アンタが体験することは、人である以上経験してはいけない現象よ。それを体感した瞬間、貴方は人の道を嫌が応にも外れることになる。身の毛のよだつような、恐怖の疼きを味あわせられるのよ。唯一の救いなのが、しっかりと着実に前へ進めるという事なのだけれど。逆に言えば運命から逃げられない、運命が縛られてるような物かしら。死、よりも恐ろしいナニカが、貴方を襲う】


………待ってくれよジョニー。


【で、これがどう『ゴール』と関連づけられるんだ?】


【運命をある程度知ることで、未来への対策が出来るのよ。でもここまで抽象的なのは久し振り。険しい道のりになりそうね】


成る程ね、天気予報で電車が止まるか否かがわかるようなもんか。


【………もう、諦めてる僕がいる】


【これを機に強い男になれって言う啓示って取ればいいんじゃないかしら】


【かのグーリエ様だっけ?】


【いいえ?グーリエ程度がそんな運命を示すとかそんな芸当できるわけないわ】


【そうなのか】


【じゃ、せいぜい生きもがき苦しみなさい】


初めて聞くぞそんな台詞。てかグーリエ程度って凄いな。この国の人だいたい信者だからそんな台詞言ったら縛首とかなんじゃないか。


【だが、具体的にどうすれば………】


【それは貴方が決める事よ。分からないなら帰る手がかりっぽい何かでも探せばいいんじゃないかしら】


帰る手がかり………か。


【………歴史書とか、見たい】


来た最初は、ただの興味本位で見たかったが今は違う。過去の文献を漁れば勇者が召喚された前例が載ってるかも知れない。あとは神話についてだ。グーリエの影響力がここまで強いとなると、他の神々も存在するとしてもいいだろう。


【はいはい、歴史書ね。どんなのをお探しで?】


【この国の勇者についての文献と、外の世界の文献、あとは神話かな】


【偉い偉い。ちゃんと前に進めてるじゃない】


謎の上から目線だが、もう慣れた。

目的の本を告げると、1分もしないうちに五冊の本を持ってきた。


………こいつ、できる。


【そう言えば、何でリリーさんと俺は言語が違うんだっけ】


【しがない魔導師として言わせてもらうけど、多分アンタたち勇者に何かしらの呪いでも掛けられてるんじゃないかしら。支配系は有名よ】


なにそれ。傀儡ってこと?

何にせよ僕たちはかなりヤバい状況のようだ。支配系の呪いのお陰で言語が通じるんだったら、呪いを解いた途端に言語が通じない上に文字も読めなくなるのか。


事実、僕がいま手に取ってる本の題名が読めない。


【………待って。そうなると、この空間では呪いが解けてるってこと?】


【そうだろうね。この図書館は、私の領域(テリトリー)。魔法や呪いは私以外使えないのよ。あ、ちなみに日本語の文献なんてどこにもないよ】


【そうなんだ。じゃあ何で念話なら会話できるの?】


【実際に言語を使って会話してないからよ。私のが異常なだけだけど、念ずる際に全て言語の前の感情で会話しているわ。『顔は口ほどに物をいう』みたいな感じ】


全自動翻訳機なのね、その念話魔法。


【自動翻訳の方はアンタが来た時にパッと作ったけど、同じセリフしか言えなかったのよね】


あぁ、だから「本を、お探しですか」としか言わなかったんだ。


【じゃあ、面倒だから『念話魔法』の発動方法をレクチャーしてあげましょうかね】


【出来ればグリモニア語を教えて欲しいんですが………】


【そんな暇ないわ。本を読むのに忙しいもの。念話魔法は万能よ?本に対してだって効果あるんだから】


本の作り手と念話でもするのだろうか。





そんなこんなで、僕らの秘密のレッスンが始まることになった。


いやらしい展開は、まるで起きなかったです。仕方ないよね。




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