プロローグside藤沢
実験作につきお手柔らかに。
「あー、ねっみぃ、だっりぃ」
「なーに朝からそんなにだらけきってんだよ蓮也」
俺こと 藤沢 蓮也は高校一年生である。世界線は60A1.02451。今日もいい天気だぜ。春の陽気に眠気を誘われる……
「その陽気は絶賛稼働中のヒーターだしそれに今冬真っ只中だし外吹雪いてんだけど!?」
「まぁー、いいじゃないの」
「適当だな」
「適当さ」
もはやこのテンションの落差は我々の恒例行事的なサムシングであり、すっかりスルーされても何も言われなくなって来た今日この頃。
「にしても暇だなぁ」
「……あと1時間あんのかー」
「どうしてこんな早く来たんだろうな?」
「さぁ?」
「………お前ら早いな」
ガラッと教室のドアを開けこちらを見ている人物、それは我が盟友(仮)の山城 圭である。特筆すべきことはなし。強いて言うならヘタレ。
「いやー、目覚まし四重にセットしたくせに全部ぶっ壊れてたっておかしい話があってよぉー」
「お前それ、3日前の大遅刻の時のネタだろうが!!今日は博士小太郎の『情熱新大陸』目覚ましに聞いて、ハイになったから田舎道15kmを全力ランしてきたんだろ?」
「待て待て話がかみ合わないし何言ってるかさっぱりなんだが?」
「あ、ありのまま「やめなさい」………はい」
博士小太郎というのは有名指揮者であり作曲家だ。
情熱新大陸ってのはその心躍るソングスのアルバムの一つでありグレートにヒットしている今ツイートアプリなどで話題の一作なのだ。
ちなみにさっきから俺と話している片割れは雲林院 和磨。うじい、と最初読めなくてうんりんいんと読んだのは記憶に新しい。即処分だ。
………えーと、そうだ。こいつは特筆すべきことといえば甘味狂いだということくらい。それ以外は何ら普通のマジキチだ。
「田舎道15kmってまさかあの道?マジかよお前」
「こんなド田舎、どこも田舎道っちゃあ田舎道だけどな」
「まぁそれはこのクラスの半分からしたらそうなんだろうな」
「あんなことがあったんだもんな、仕方ないさ」
そう、言い忘れていたがこの学校、ド田舎に 立地している。
その癖今年の偏差値が特段低い訳でもないのはやはりあの震災ーーー東日本大震災ーーーが影響している。その年の前までは地元の中堅下位として悪評を買っていた。が、その震災によってそれまで居た県民達は県外県内総じてシャッフルされたと個人的に邪推してる。
具体的に言えば、発電所の事故で強制避難を余儀無くされた人々が遠縁の実家に帰ってきたり、発電所の除染や現地調査などで赴任してくる役員とその家族が来たり、それらの需要により進出してきた企業の派遣社員や工場そのものや、果ては謎の巨大樹の探索などなど理由は人により十人十色である。
そうそう、何故今年に限ってそんな偏差値が上がったのかだが、それは単に県民が総シャッフルされたからだ。地元を受験する高校生の偏差値が測定不能になり、その後の模試で偏差値75で有頂天の少年少女達が絶望の表情を隠せなかったということがあったとかないとか。
まぁつまり県内全ての学校の偏差値が測定不能になるという伝説の年になったのである。
なので特に意味もなく県外勢、県内勢といった自己紹介の仕方が一時流行った。
「もうその話題やめようぜ」
「田舎道の話?」
「デフォでボケてんのかこいつ」
「だって蓮也だぜ」
「ひっどいなーおい」
総スカンを食らった。
何故ボケ倒しちゃいけないのか。
誠に遺憾である。
ポイズン。
そして再び教室の戸が開いた。
「ウッス、藤沢、雲林院、山城」
「おはよー近衛。彼女は?」
「え?」
「いや、何でもない」
「そういやお前ら珍しいな。山城はまぁいつも通りだとして、まだ朝のHRまで三十分もあるぞ」
こいつは近衛 紀太郎。かなり厳つい名前だがそれに影響してか性格もかなり厳つい。何が厳ついのかと言えばキレやすいの一言に尽きる。天才型だし仕方ないのかなー、なんて楽観してる訳だがな俺は。
あと一瞬寒気がした彼女の話題についてだが、まぁキレやすい以外はイケメンの近衛に惚れてる女子は沢山いる。校外からもだ。
しかしその中でもズバ抜けてアプローチを仕掛けている残念美少女がいる。犯罪者もビックリなその所業を知る者は俺と雲林院しか居ないがな。その子については後回しにしよう。
「あぁ、ちょっと暇でな」
「そうか」
「いやいやさっきまでの下りはどこにいった!?」
「話さなきゃダメなのか」
「ダメって訳じゃ「聞かせろ」」
「ようし分かった。あれは今から一億数千万………間違えたかな。多分6億数千万年前だったかなー」
「いつからそんな超大作になってんだよ!?」
と、何とかコント続けているうちに近衛にさっきの15kmランの話を山城の時より臨場感溢れる説明をしてやった。「解せぬ………」とか言ってたが俺は知らん。
「成る程、盆地に降り注ぐ朝日が霧に反射し、それはそれは幻想的な白と青が織りなす光の造形を楽しんできたというわけか。」
「めっちゃ詩的表現多用されてたよな。その力の入れ加減は何なんだよ一体」
「いやぁ性ってヤツさ。ボケ倒さずにはいられない」
「どうしようもないな」
「いいか?ボケというのはな」
語り出そうとしたところで朝練を切り上げてきた運動部の面々が教室のドアをくぐってきた。
近衛ェ、開けっ放しだったんかよ。どおりで寒いわけだ。
入ってきたのはクラスのイケメン二人組、松田 悠斗と田母神 龍太郎だ。熱血系とクール系の二人は赤青コンビとも呼ばれる。それ以上語ることはない。語りたくない。イケメンは滅べばいい。ちょっと性格も黒いところ多いし。
「興がのらない。やめた」
「いつの時代の偉い人だお前は」
山城の鋭いツッコミが冴えるな。
さっきまで雲林院もツッコミをしていたが山城にその権利を譲渡したようだ。あ、コーヒー飲んでる。近衛は………直ぐに寝た。
俺の周り自由なヤツ多くない?
☆☆☆
そうこうしているうちに朝のHRが始まるまであと数分となっていた。ドタドタと階段を駆け上がり教室へ雪崩れ込むクラスメイト達。そして直ぐに担任、荒谷が入場してきた。楽しい楽しいHRの始まりだ。
「起立!!」
松田の掛け声の後に、ガタガタッという椅子が引きずられる音がバラバラに聞こえる。そして近衛は爆睡している。
すぐ後に恒例の気を付け礼をし、着席する。
そして、何気なく荒谷が出欠確認を行おうとしたその時、それは起こった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
(な、何だ!?余震か?)
地響きだけではない。外が真っ白に光っている。目なんて開けてられない。
「な、何だコレはァーーーッ!!!!!!!!」
謎の絶叫しながら机の下に隠れる。チラリと見れば皆も同じ反応をしている。
そして、教室は『墜落』した。
その表現が一番適切だった。
ありのまま今起こったことを話すとするなら、教室の外が眩く光り、地響きが起こったかと思えば、収まった時俺たちは山の頂上に居た。
何言ってるかわからないだろ?
俺も意味わからない。
案の定皆パニックだし。
………近衛ェ、まだ寝てんのかよ。
「ヘイ相棒、こいつをどう思う?」
「現実味がなさすぎて今なら人が実は空飛べるって嘘でも信じるぜ」
近衛の寝つきの良さに感服すると同時に、雲林院の余裕綽々な感じが俺を冷静にさせた。
「な、何が起こったんだ?………」
担任、荒谷がポツリと口にする。先生は震災経験してないからやっぱり動揺するんだな。皆も呆然としている。一部全く動じてないタフな奴とかもいるけど。
「みんな落ち着け!!教室から出るなよ!それと、今から出席再確認するから席につけ!」
松田の鶴の一声で、皆大人しく席に着く。周りを見ると今更になって十人十色な反応が見られた。今ので少し安心したのだろうか。いっしょだから怖くないってか。
ふと外を見る。
すると裸眼で視力2.0以上のマサイな超人的マイアイズは何かを捉えた。何やら中世の貴族みたいな人や神官服を纏った人間どもが近づいてくるのが伺える。
今気づいたけど、山の上なのにそこまで寒くない。青々とした高原植物が茂る草原が広がっている。なんか色々推察できるの俺だけかな。
「ねぇ藤沢、なんでアンタそんなに余裕そうなの?」
「そうかな?」
「そうだよ、だって手も足も震えてすらいないし、発汗量とか瞳孔が何の反応も示さないんだよ?」
「お前の観察眼は獲物を狩る鷹か何かか」
「失礼ね、マサイ族の末裔に言われたくないわよ」
こいつは先ほど話題に上がった木戸 美咲だ。こいつはヤバイ。今まで転校などで様々なマジキチを見てきたがこいつはその中でも段違いだ。
パッと見た感じは割と美少女であり、すっかり騙されていた。俺と仲のいい近衛の大ファンであり………狂信者である。
そう、そこが一番重要で、それ以外は普通なのだ。しかもそのヤバさが雲林院以外誰とも共有できないという。徹底的な情報管理である。自覚系ヤンデレというか。いや、皆が本能的に感じ取ってるだけなのかも。
「んぉ」
「あ!近衛君!おはよう」
「ウッス、木戸……」
あ、二度寝しやがったこいつ。
………俺も何故か眠くて仕方ないし、俺も寝るかね。
おやすみなさい。
☆☆☆
次に目が覚めた時、俺は俺らは、身の毛もよだつような恐怖の渦きとささやかな狂気、そして数奇な運命に巻き込まれることになる。