彼女の居ない世界
化け物は夜に活動する。
私が化け物なのをみんなは知らない。
化け物だから、人間には私の気持ちがわからないの。
静岡数菜、17歳。
高校に行かなくなって、6ヶ月。
コンビニと家の間しか移動しなくなって、3ヶ月。
月夜の晩だ。
自転車のサドルに飛び乗って、飛び切り陽気なお出かけだ。
「がお」
限りなく人間の声に近い音で、私は夜空に向かって鳴いた。
鳴いた。
交通事故があったことを知ったのは、その時間から2時間くらいあとだった。
彼女は不注意に路側帯から飛び出しちゃって、夜中でスピードを出しまくってた車にはねられてぽっくりいっちゃったんだって。
それが私だって言うんだから、笑えるや。
お巡りさんが現場を調べてるのを私はぼんやりと見ていた。
最初は誰か事故ったのかなーって、ぼーっと見ていただけだった。
その内、あれ、おかしいな、私どうしてここに突っ立ってたんだっけ、って思い始めて。
そしたら、お巡りさんたちの話が聞こえてきたの。
「女の子」「即死」「遺体」
途切れ途切れの言葉が、次第に糸で縫い合わせるみたいにつながっていった。
そうか、私、
死んだのか。
そして、朝が来た。
警察が呼んだ人たちが、事故現場から壊れた車とか何もかもを運んでいったから、何も残っちゃいなった。
壊れた私も、残っちゃいなかった。
それでも道路には真っ黒に車の強いブレーキの跡が残っていて、それを訝しげに見ながら何人もの人が通り過ぎていった。
その人達の誰とも、目が合うことは無かった。
それからどれくらいたった時だっかな。
お母さんが現れた。
警察の人と一緒だった。
ああ、タチ悪いな。泣いてるや。
私のこと何にもわかってなかったくせに、私が自分の思い通りにいかないとすぐに癇癪起こしてたくせに、泣いてるや。
そしてお父さんは来ないのね、ってそれだけが感想だった。
沙乃美と、路香と、苗葉が花を持ってきたのは、それから何日かしてだったと思う。
そのうちの2人は小学校からの友達で、1人は中学校で仲良くなった子だった。
「どうして死んじゃったの」
って誰かが口にした。
どうしてだろうねって、答えた。
そうして私は、ひとりになった。
死んだ時から1人だったと言えばそうかもしれないけれど。
もうずぅっと、私の知っている人の誰も通りかかっていなかった。
夜だった。
どうしても何かしたくなって、月に向かって、
「がお」
って叫んでみた。
音にもならなかった。そりゃうか。
私の喉はもうここにはないんだから。
がお。がおがお。
それでも繰り返す。
がお。がおがお。がおがおがお。
『私はただの化け物でしたか?』
『取るに足らない人間でしたか?』
世界に問いかけた。
あれ、なんだか眠くなってきたな。
ずっと眠っていなかったものね。
仕方ないか。
段々と、私は自分の思考を捕まえられなくなって。
段々と、私の輪郭はほどけて。
明日は、たぶん晴れた朝の日なの。
直接的な表現はないですが、死ネタを扱っているので念のためR15の記載をしています。