第四話 何気なくない生活
「おいしいね華夏ちゃん!」
「はい! こんな兄いが作ったもので申し訳ないですが、お口に合いましたか?」
お前が料理作れないからこうやって毎日作っているんだろうが! と海斗は心の中で華夏に叫んでいた。
「とってもおいしいよ! 華夏ちゃんいつもこんなおいしいの食べれて幸せだね~!」
「いやいやとんでもない! 今度琴美さんの手料理食べてみたいです!」
「いいよ~! また来た時には作ってあげる!」
「…………」
「どうしたの兄い? さっきから元気がなさそうだけど」
華夏がにやにやしながらこちらを向いて言ってきた。
「……いや、なんもねえよ」
私、一条海斗は先程この妹華夏に濡れ衣をきせられ、華夏の隣にいる上原琴美に頬を平手打ちされた始末である。
「カイト、さっきはほんとにごめん! カイトはそんなひとじゃないってわかってたのに…」
「べ、別にいいよ! 悪いのはこいつが訳の分からないことを言い出すから――」
「あれ~? さっきはまんざらでもないような顔してたくせに~?」
華夏がにやにやとしながら水を差してきた。
「うるせえ! 勝手にお前が妄想して顔赤くしてただけだろ!」
海斗が立ち上がるなり、華夏も立ち上がる。
「はぁ!? そんなんじゃねえし! 顔赤くしてなんかないし!」
「いーや! してたね!」
海斗と華夏にまた火が付きそうなところを琴美が抑えようとする。
「まあまあ別にわたしは怒ってないから! カレー食べよう? ね?」
「……ああ、そうだな」そう言って二人は椅子に座った。
「でさー、結局琴美さんは兄いとどういう関係なの?」
華夏が改まって琴美に聞く。
「え? ただのクラスメートだよ~」
「でも、今日知り合ったんでしょ? しかもついさっき!」
「え、そんなこと言われるとちょっと困っちゃうな~、ねえ?」
そういいながら、琴美は海斗に視線を向けた。華夏の話し相手が海斗にバトンタッチする。
「さっきも言っただろ~? 晩飯のメニューが一緒だったし琴美の家は今一人しかいないから、じゃあお前含めて三人で食べたほうがおいしいだろ?」
「……まあたしかにそうだけどさ~」
華夏はまだなにか疑っているようだ。
「そういえば兄い、今年からなんかうちの中学さ、東京のあの超能力開発学校と同じように超能力を使う授業科目が増えるんだって!」
そう、今年からこのあたりの地区はすべて超能力開発学校になるのだ。勿論、華夏の中学校だってその対象の一つだ。
「そっか。俺の学校もだぞ」
「え!? じゃあ兄い今超能力《アルス》使ってよ!」
……まずい。墓穴掘ってしまった。
華夏の隣にいる琴美に視線を向けるとそっぽを向いた。
「どうしたの兄い?」
「いや? 何でもないですよ?」
「…もしかしてお兄、超能力使えないの?」
「……い、いやー、今日はまだそんな段階じゃないからさ、明日とかじゃないの?」
こんなことで妹になめられたくない。そう思い海斗は嘘をついた。もしも華夏に超能力が使えたら兄としての威厳がなくなる。
「いま兄い、嘘ついたでしょ?」
「ついてねーよ!」
「じゃあ使って見せてよ! 今この場で!」
こうなってはもうどうしようもできない。
「はあ……っかえねーんだよ」
海斗は小さくぼそり、と呟いた。
「はあ? なんか言ったぁ?」
「だからぁ、つかえないんだよ!!」
なぜか海斗はまた立ち上がった。
「…なんで?」
「わかんねーよ! つかえると思ったらエラー扱いされるしよ! もう超能力なんて知らねーよ!」
既に諦めている海斗からしたらもう超能力のことなんてどうでもよかった。
「……だっさ」
グサッ!! と海斗の心に響く。今日一日でどれだけ海斗の心に傷を負っただろうか。
「おいおい……お前今ダサいって言ったな?」
そろそろ海斗の堪忍袋の緒が切れそうだ。
「そうだけど?」
しれっと華夏が答える。
「お前…いい加減に――」
「きゃっ!!」
バッシャーン! というなにか大きな塊が水に落ちたような音と琴美の悲鳴が家の奥のほうから聞こえた。
海斗が華夏に苛立っている間に、琴美はリビングから姿を消していた。急いで音の響いた場所に海斗は向かう。音がしたのは洗面所の奥にある風呂場だ。なぜそんなところに琴美がいるのかわからないが、とりあえずなにをしているのか様子を見に行く。
「おい琴美、お前何してってえええええ!?!?!?!?!?!?」
風呂場に入ると、そこには制服を着たまま、浴槽の中でこけたのか、底にしりもちをつき右手で頭を押さえて、「えへへ」と海斗に笑いかける琴美が見えた。もちろん、後で風呂に入るため、浴槽にはお湯がはってある。
「おいおい!! お前何してるんだよ!!」
「いやー、さっき気付いたんだけど琴美ちゃんの髪の毛めっちゃいい匂いするからさ、シャンプー何使ってるのかな~、と思って見に来たんだよ。でも水ですべっちゃって転んじゃった!」
「『転んじゃった!』じゃねーよ! どうやったらそんな芸人みたいなことできるんだよ! てか華夏に聞けばいいじゃねーか!」
「でもさっきまで華夏ちゃんとカイト喧嘩してたじゃ~ん」
口を尖らせて琴美が話しながらゆっくりと立ち上がる。
「ちょ! ちょっと!」
海斗はあわてて両手で目を隠した。
「ん? どうしたの? ってきゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」
今の状態に琴美自身が気付いた。浴槽に全身浸かって濡れた服。それによって身体のラインが丸見え。少ししか見てなかったがシャツも透けていて、ブラも見えていた。色は……赤だ。
「…………見たの?」
前のほうから琴音の声がする。両手で視界を遮っているので前を見るわけにもいかないし、まず見たらまた平手打ちが飛んでくるだろう。それはもう御免だ。
「……見てません」
「…………うん」
信用してくれたのか、疑っているのか分からない。
「……と、とりあえず俺拭くもの持ってくるから、そこで待っといて」
「……わかった」
海斗は両手で視界を遮ったまま後ずさりする。すると風呂場の扉あたりで海斗のおしりに何か当たった。海斗は後ろを振り向き、視界を遮っている手を放す。そこには口元をひくひくさせている華夏が立っており、その手には華夏がテニス部でつかっているラケットを持っていた。そして華夏はこう言う――。
「とりあえず、死のうか?」
にこっと笑いかけつつも、その笑顔には殺意がにじみ出ている。華夏は海斗が「まてまてまて!!」という声を無視して顔面にラケットの円形の枠の部分で思いっきり振り下ろした。
次の日。
海斗と大河が教室に入ると、クラスの男子がまた昨日と同じあたりで固まっていた。大河は鞄を置いた後、どこかへ行ってしまった。海斗は自分の机に鞄を置いて、奥でひそひそと話し合っている男子の会話に入る。
「――やっぱりさ、あれがすごいよな」
「そうそう! お前もそう思うだろ!」
「だよな! ここじゃあ結構でかいもんな!」
……『あれ』? 『でかい』?
会話の途中から聞き始めたので海斗には何の事だかわからない。
「おお! お前は確か、海斗、だったよな! お前もこれ書いてくれよ!」
男子の輪の中心に座っている奴がシャーペンを渡してきて、一枚の紙を海斗に差し出した。そいつは、身体ががっしりしていて、薄く日焼けをしている。こいつの名前は確か……なんだっけ? まあいい、後で大河に聞こう、と考えるのをあきらめた海斗は差し出された紙を受け取り、そこに書いてある文字を読む。
「ええと? 『C組かわいい女子ランキング』ぅ? なんだこれは?」
そこにはクラスの女子の名前が書かれていて、隣に男子の名前が書かれてある。
「やっぱり一番は琴美ちゃんだよな!」
「あったりまえだ! 他の女子もいいが、あの人が一番美かわいい! そしてあのおっぱい!」
さっき『あれ』や『でかい』と言ってたのはそれのことかと海斗は呆れる。
「お前らさー、こんな小学生がするようなことして恥ずかしいと思わないのか?」
「なんだと!? じゃあカイトは女子には興味が無いのか!?」
「やばい、海斗はホモだ」「ゲイだ」と周りの男子がざわざわと騒ぎだす。何でもかんでもすぐに口に出す小学生みたいだ。
「俺はゲイでもホモでもねえ! 普通に女の子が好きな、健全な男の子です
よ!」
「じゃあ海斗殿は誰がかわいいと思うんだよ!」
座っている奴の後ろに立っている、牛乳瓶の底がついた眼鏡をかけて、背が高く細長い、いかにも勉強頑張ってますよ、というオーラのある男が聞いてきた。海斗は先程の人物と同様、この人の名前も憶えていない。
「名前とか顔とか、まだ覚えてねえからわからねえよ!」
「いやいや、ただ海斗が周りを見て、『あ、この子かわいい!』って思う子をかいてくれたらいいんだよ」
今度は座っている奴が言う。お前らはなぜそんなに俺に答えさそうとするんだ! と、ここで言うとまた、男が好きなのか!? などと言われるのが目に見えたので海斗にはこの質問に答えるしかなかった。
「はぁ……」と海斗があきらめて、ペンを握るとざわざわと周りが騒ぐ。
(……誰って言われてもなあ)
海斗はすぐに自分の名前を書き終えた。まわりから『おぉ~』という声があがる。
海斗の名前は『上原琴美』の横に書かれていた。
「やっぱりお前も琴美ちゃんか~」
『やっぱり』というのはどういうことだろうか。
海斗としてはまず最初に見た時からかわいいとは思っていたのがひとつの理由。もうひとつはさっきも言ったが、他の女子とはまだなにも喋っていないし、顔すら覚えていないという理由である。
「んで? 琴美ちゃんのどこが好きなんだ?」
「どこって言われても…」
なんと言ったらいいのか言葉が詰まる。すると後ろで「おはよ~!」という女子の声がした。
入ってきたのは琴美だった。周りの琴美好き男子が「おお~、今日も琴美ちゃんは可愛いな~!」とざわつき始めた。琴美は海斗に気付いたのか、こちらに向かってくる。するとまた、「お、おい! こっちに来るぞ!」と男子の誰かが言った。
「おはよう、カイト!」
間違いなく海斗に話しかけてきた。名前を呼ばれた時点で振り返る。
「お、おう…」
「あとはい! これ、昨日華夏ちゃんから借りてた服! 昨日はありがとう! 晩御飯ごちそうさまでした!」
今の時期は夜は少し冷えるので、風邪をひかないように華夏が貸したのだろう。琴美がそう言うと、後ろで「なに!? 呼び捨てだと!?」「しかも今、『昨日はありがとう、ごちそうさまでした』って言ってたよな!? どういうことだ!?」とまた騒ぎ始めた。
「ああ。別にいいよ。また困ったときあればいつでも手助けするよ」
そう言って、海斗は華夏の服が入れられている紙バッグを受け取った。
「ありがと! 華夏ちゃんにもよろしく言っといて!」
そう言って琴美は席に戻った。海斗は自分の席にもらった紙バックをかけに行こうとすると「おい、ちょっと待つんだカイト」と大河に引き留められた。
後ろの男子全員が『どういうことだ?』という目で睨んできている。もちろん、大河もだ。
「カイト、これはどういうことだ?」
大河が男子を代表して言ってきた。
一条海斗の顔がひきつる。
「えーと、これはですね、成り行きといいますか、俺が誘ったといいますのか、わかりませんが――」
「では家に連れ込んだのか?」
「え、えーと、それはだな――」
「答えろよカイト!」
周りの男子がにじり寄ってくる。
まずい、この数は逃げるしかない。
「まあ、そういうことになりますねええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
海斗が『なります』と言った時点で一人が飛びかかってきた。海斗はそれより先に脱出態勢に入っていたので気付いた瞬間に扉めがけて走りだした。逃げ出す海斗を男子が追いかける。
「待ちあがれぇ~!! 海斗ぉぉ~!!」
「ひいい!!」
海斗は必死に廊下を走り抜ける。廊下にはほかのクラスの人がいるが海斗が走ってくるのを見て、道を開けてくれる。だが、この学校に来て二日目、校舎の中すべてを知り尽くしているはずがない。分からない道を右往左往としながら逃げていると、海斗は運悪く階段の前でこけて、壁に激突してしまう。
「いってぇ!」
すぐに立ち上がるが、男子の大群はすぐそこまできていた。
「カイトぉ~!! 覚悟しろぉぉ~!!」
大河が一番最初に飛んできた。まずい。このまま捕まったら、海斗はぼっこぼこにされるだろう。あいつらの目は殺しにかかっている。
いやだ、殴られたくない! そう思った海斗はすぐさま階段に走る。だが、このままでは大河に押しつぶされ、あっけなくゲームオーバーだろう。
(もっと! もっと早く動け俺の身体!)
飛んでくる大河がもうすぐ海斗に届きそうになった瞬間――
すっ、と自然に身体が動いた。しかも、誰よりも早く。
いつの間にか海斗は階段を数段上っていた。海斗本人にも何が起きたのかさっぱりだった。
「…………あれ?」
後ろを振り返ると大河とほかの男子たちがドミノ倒し方式で倒れ、土嚢のように積みあがっている。あの勢いで走ってきていたのだから、急に止まれるはずもない。大河が一番下で「ぐえっ、重い重い! お前ら早くのいてくれ!」と叫んでいる。だが、上に乗っている者は口を開けたまま、海斗をみてただポカーンとしていた。だがしかし、これは海斗にとっては絶好のチャンスだ。
「じゃ、じゃあな! はやく戻らないと朝礼間に合わないぞ!」
と言い、クラスに戻っていった。
「いたぞ! こっちだ!」
「やっべ! ばれた!」
急いで次に隠れられそうな場所を探しつつ全力で逃げる。次は中庭の茂みに隠れる。
「どこ行きやがった!」
「まだ近くにいるはずだ! 分かれて探すぞ!」
身を潜め、息を止めていた海斗は追いかけてきてた奴らがどこかへ行った後、ぷはっ、と言ってその場に倒れこむ。
「……どうしてこうなったんだ」
「なにしてるの、カイト?」
後ろから声がした。海斗は驚き、慌てて後ろを振り向く。
「うっひゃぁぁぁぁ!!!! …って、琴美か。はぁー、びっくりさせるなよ~!」
さっきまで追いかけられっぱなしだった海斗は少し落ち着いた表情になった。
「どうしたの? 誰かに追いかけられているの?」
「まあな。クラスの男子が今血眼になって俺を探していると思う」
原因はお前だがな、と言ってやりたいが琴美はなにも悪いことをしていないし、責める理由がない。
「じゃあ、いい場所教えてあげる!」
琴美はにこっと笑いかけながらそういうと、海斗を誘導してくれる。まったく、今日もかわいいなぁと、心の中で呟いていた。
「ここ!」
引き連れられてきたのは食堂だった。人が多くて余計に見つかるのではないか、と海斗は思う。
「あのー、ここのほうが見つかりやすいのでは?」
「なにを言っているんだよ! 多いほうが見つかりにくいよ! それにみんなと一緒になって座っていると隠れることもできる!」
言われてみると確かにそうだ。ぱっと見た感じではすぐには分かられないだろう。
「確かにそうだな。ありがと」
そう言って、海斗は食堂の真ん中あたりの位置の席に座った。琴美も同じ席に座る。
「友達のところにはいかなくていいのか?」
海斗は周りを警戒しながら話す。あまり気を遣ってもらうと、こちらとしても気を遣ってしまう。
「いや、いいよ!」
「なんか、ありがとな」
琴美は俯いている。
「―――――――だって、……から」
「ん? なんか言った?」
周りががやがやとしていたので、琴美の声が聞こえなかった。海斗は琴美に視線を向ける。
「あ、いいや! なんにも言ってないよ!!」
「そう?」
「そ、そうなの!」と強く言ってきた。琴美はなぜか顔が赤い。
「それならいいんだけどさ」
海斗はそう言うと、周りの様子をうかがう。二人の間に沈黙の時間が流れすぎていく。
「……あ、あのさ」
先に話しかけたのは琴美だった。
「カイトってさ、休みの日って何するの?」
「え? んー、特に決まっていないからなぁ~。何をするってのはないかもな~」
次は目を離さずに話した。
「そ、そうなんだ……」
先程から琴美の様子がおかしい。座ってからずっともじもじしているし、顔も燃えるように血の色をのぼせている。
「じ、じゃあ今日は帰ったら何するの?」
別に遊びに行く予定や、用事があるわけではない海斗は何気なく答えた。まず
今はクラスの男子でさえ、仲良くなれていないという理由もあるが。
「そうだなー、昨日カレー作って少し余ってるから晩飯は作らないし、なんもすることないかなー」
そっ、か。と琴美が言った後、少しの間が空いた。そしてまたしても琴美が先に話しかける。
「あのカイト! た、頼みたいことがあるんだけど……いいかな?」
海斗は周りを見るのを止め、琴美の顔を見る。琴美の顔の赤さに気付いた海斗はすこし驚いた。
(え、なんでこんなに顔赤くなってんの!? 俺なんか気に障るようなこと言ったかな!? 顔をみて話してなかったからか!?)
「……いいですけど頼みって、なに?」
「い、いや! 頼みってわけでもないんだけどさ、今日行きたいところがあるんだけど、そこについてきてほしいなー、と思って」
「……………………………え?」
「べ、別に変な場所とかじゃないんだけどね? 一人で行くのもちょっと寂しいし、カイトの予定が大丈夫で来てくれるならうれしいんだけど…」
(待て待て待て。俺はいつからこんなにモテるようになったんだ? それに昨日あったばかりの俺についてきてくれって誘うとかおかしいだろ普通。それに、これって、デート、ってことだよな? そりゃ、ある意味嬉しいけど! いや、ある意味とかじゃなくてめっちゃ嬉しいけど!! 俺としてはそこまで仲良くなっていた気が全然ないんだけど!!!)
だが、答えは一つだった。琴美の頼みを断れるはずがなかろう。むしろ自分自ら志願したいくらいだ。デートだろうが戦場だろうが、どこへでもついて行ってやるぜ!
「いいよ! それで、どこに行くんだ?」
海斗は快くデート(とは言われていない)に行くのを引き受けた。
「ありがとう! 助かるよ!場所はサニーパークだけどいいかな?」
サニーパーク。
たくさんの専門店が入っている総合スーパーだ。最近リニューアルされて綺麗になり、入っている専門店の多くが変わったらしいが、海斗は春休み中ずっと家にいたので新しくなってからはまだ行っていない。
「別にいいよ! こっからだと俺は家に帰るよりそのまま向かったほうが近いけど琴美はどうするの?」
「わたしもそのまま行ったほうが近いからそうするよ!」
海斗は今、天にも昇る気持ちである。放課後が楽しみでたまらない。だが海斗には確認しておきたいことがあった。
「けど、ほんとに俺がついて行ってもいいのか? 他の友達と行ったほうが楽しいんじゃないか?」
嬉しいのは山々だが、このまま自分が行くより琴美の友達と行ったほうが楽しい時間を過ごせるのではないか、と思ったからだ。
「あー、最初はそうしようと思ったんだけどね。なんかみんな体験入部だったり、バイトの面接だったりで予定入っちゃってて行けないみたいだし、ほかの人とはあんまり関わりがないし、それでカイトに頼んでみたんだ!」
自分だけが誘われたと思っていた海斗は、なんだ、そういうことか。と自分なりに納得した。つまり、俺は琴美の友達の代役なのだと。
「そうだったのか~、それでなにを買いに――」
「カイトがいたぞ!! しかも琴美ちゃんと話している!!」
食堂の入口近くで誰かが叫んだ。大河だ。琴美と放課後の話をしていて周りを見ていなかった。
「やべえ、ばれた! と、とりあえず逃げるわ琴美! また後でな!!」
そう言って海斗は大河たちのいない別の入口から飛び出していった。琴美は、頑張って! と言ってくれた。ああ、頑張って逃げるとも。
海斗の後ろを「待ちあがれカイトぉ!! 勝手にいちゃつきやがって~!!!」「絶対に許さん!!」と叫びながら追いかけてくる。
だが、先程まで追いかけられていると一つ分かったことがあった。それはあいつらは全員で海斗を追いかけるときは二手に分かれたりしない。だから先回りされたり、廊下で挟み撃ちにされることがないのだ。恐らく、海斗を一刻も早くぼっこぼこにしたいのだろう。指揮をとっているのは大河だけだし、大河も追いかけているときは周りに指示をしていない。
それが分かればこっちのもんだ。海斗は今日学校中を走り回っていたのである程度の道は覚えている。そこから安全であろうルートを頭の中で走りながら構成する。
(今は食堂をでて下駄箱にいるから……次はこっちだ!)
海斗は下駄箱から外に出て、校舎の裏に入る。ここからぐるりと一周してまた校舎に戻ろう。そろそろ次の授業も始まるだろうし。そう思い海斗は外に出て、校舎の裏に入る。
(よしっ! これなら時期に疲れて追いかけてこなくなるだろう!)
そう思っていると、
「しめた! ここだ!」
と大河が叫んだ。
「お前ら! カイトに向けて超能力ぶっぱなせ!!」
「え!? でもカイトが死んじゃうかもしれないぞ!?」
「さっき習っただろ! 力の加減をしながら前に放出するんだよ!」
まずいことになってきた。今の海斗には相手を攻撃することも、自分を守ることもできない。「そうか!! なら『死なない』程度に殺せばいいんだな!?」
「まあそうだ! いくぞ!!」
『おう!!!』
その掛け声が聞こえた後、海斗の背面ではすさまじい爆発音と爆風が広がる。海斗は後ろがどのような惨状になっているのかも見ることができず、ただひたすらに走り続ける。
「おいおいおいおい!! そんなもん、超能力すらつかえない俺にすることですかぁ~!」
時たまに海斗の横をいろんなものががかすめ通る。それに、ついさっき習ったばかりで慣れない力を使っているので、恐らく加減などできていないだろう。飛んでくるものの大きさがまばらだ。
「うおっ、あぶねえ!!」
海斗の横を大きな火の玉が掠める。しかもあのスーパーの時と同じくらいのサイズ。
「お前ら加減するとかいっといて全然できてねえじゃねえかぁぁぁぁ!!」