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第三話 殺意&好意的感情

 全員が終わると体育館から教室へ戻ってきて学校のしくみや超能力の説明などをうけた。だが、今の海斗(放心中)にはそんな話をきく気力がなかった。クラスで自己紹介をするときがあったが、当然まともにできるはずもなく、『一条海斗です……よろしくおねがいします……』の二言で終わった。


 学校は午前中で終わり、海斗は必然的に大河と帰ることになった。

 大河のせいで朝走らされた道を海斗はふらふらと歩く。


「なあカイト~」

「……なんだよ」

「そんなにしょげるなよ~、もしかしたら明日になったら使えるようになるかもしれないしさ~。別になくても生きていけるだろ~?」と大河は笑いながら言った。


 大河の言葉が海斗の身体に刺さる。


(明日になったら? 俺はもう使えないって言われたんだぞッ…!)


 しかも使えない以前に手に入れることすらできていないんだぞ? クラスのみんなには慰められてばっかだし。お前は手に入れられたからいいかもしれないが、俺にはもう一生超能力を使うことができないんだぞ? お前にはこの気持ちは絶対にわからないだろうがなぁ!!

 ……という心の声を爆発させることもできず、海斗は冷たい言葉で大河に話しかける。


「……そういうお前は楽しそうだな」

「なぁに! 人生、楽しく生きたもん勝ち、ってよく言うだろ? だから俺は人生を楽しく生きているのだ! はっはっは!!」


 今の海斗には大河のいい話は耳に入ってこない。


「はいはいわかりましたよ」

「ってかさ~、めっちゃ腹減ったんだけど! カイト、どっかで飯食わねえ?」


 話の展開変わりすぎだろ、と海斗は心の中で突っ込みを入れた。


「あー、ごめん。また親が旅行いってるからさ、妹の昼飯作らないと」

「そっか~、また海斗の両親旅行行っちゃったのか~、今回はどこに行ったんだ?」

「今はハワイだってさ」

「ひゃー! いいな~ハワイ! いつか俺も行きたいな~! またカイトのお母さんの旅行話聞きたいな~!」


 中学のころから時々家に遊びに来ていた大河は俺の母さんのことを知っている。もちろん海斗の母も大河のことは知っている。そして、大河は家に来ると毎回のように母の旅行中の話を聞いて帰るのだ。ひどいときは、新しく買った新作のゲームをしに来たはずなのに海斗そっちのけで旅行談を聞き続けていたこともあった。母さんは旅行の話をし始めると止まらないのでなおさらだった。あの時のボッチな感じは今でも覚えている。


「まあ、帰ってきたらお前が母さんの話聞きたがってたとは言っとくわ」

「サンキュー!」


 ……まあ、覚えていたらの話だが。



 案の定、家に帰ると既に腹を空かせた華夏が帰っていた。疲れきっていた海斗はささっと朝に残っていた鶏肉をつかってまた唐揚げを作った華夏は「また唐揚げかよ~」などと文句を言ってたが、食べている最中はまるでリスのようにおいしそうに唐揚げを頬張って「やはりこの唐揚げにはなにか隠し味がしこまれているな…。む、この味はまさか! ソフトクリームか!」などとよくわからないことを言っていた。昼飯を食べ、後片付けが終わると海斗は自分の部屋で昼寝をし、華夏は一階のリビングでソファーに横になりテレビを見ていた。

 …………疲れた。海斗はベッドに倒れこみ、現実世界からログアウトした。




 ――――しばらくすると下で、ドスッ、という何かが落ちたような音がした。

 その音に気付き、目覚めた海斗はまだ頭がぼんやりしていた。ゆっくりと起き上がり、背伸びをして現在の時間を確認する。午後5時32分。窓の外には夕日が見えている。そろそろ夕飯の買い出しに行かないと。そう思い、海斗は部屋を出た。

 一階に降りると、華夏がソファーの下の床でぐっすり眠っている。さっきの音は多分こいつだろう。風邪をひかれると困るので海斗は華夏と一緒に落ちていた食べかけのポテトチップスの袋を机に置き、床に落ちている毛布を華夏にそっとかけた。


「……静かにしていればかわいいのになぁ」


と、海斗は華夏の顔をじっと見る。一条海斗の中では自分の妹はかわいいと思っているが、それは外見的に、だ。内面的に、と言われれば少し困る。兄に対する喋り方、文句の多さや口の利かなささなど、大抵の原因はそれだ。まあ、かわいらしいところも昔はあったが、ここ最近はない。


 買い物には、いつもなら華夏も一緒に行くのだが、ぐっすり寝ているのを起こすわけにはいかないので今日は一人で行くことにした。『晩飯を買いにスーパー行ってくる。なんか要るものがあるなら電話しろ』と書置きを机に残し、家を出た。自転車を駐車場から出してきて、かごにエコバッグを投げ入れる。そして海斗は颯爽に坂道を降りて行った。




 いつものスーパーに着くなり、海斗は「今日の晩飯は何にしよう」と考えていた。

 ショッピングカートを押しながら、様々な食品が並ぶショーケースの中を眺め続けている。

 なかなかきまらず、野菜の並ぶところに足を運ぶと、『人参! 安い!』という大きなワープロ文字が目に入ったので「カレーにするか~」となんとなくで決めてしまった。

 カレーに必要な材料をそろえていると、電話がかかってきた。画面を見ると『華夏』と表示されていた。目が覚めて、書置きを見たのだろう。海斗は電話をとった。


『もしもし?』

『あ、お兄ぃ? 手紙よんだぁ~』

 とても眠そうだ。電話越しで寝起きだとわかる。

『んで? なんか必要なものあるのか?』

『…~んん? ひつようなものって、なにが?』


 相当寝ぼけているようだ。


『いや、電話かけてきたってことはなんか買っといてほしいものがあるんだろ?』

『……なんで?』

『……はい? なんで、ってお前がかけてきたんだろーが。ちゃんと読んだのか? 書置き』

『ん~、わからん』


 話が噛み合わなさすぎてこっちがわからんわ。寝ぼけてちゃんと書置きを読んでいないのだろう。


 とりあえず、切るか。


『んじゃ、あとでな~』

『ほ~い』


 そういうと、華夏のほうから先に電話が切られた。


 電話の意味は全然理解ができなかったが、とりあえず買うものは決まった。あとはカレーのルーを買ったら終わりだ。

 海斗がカートを押していると角からすっ、と誰かが出てきた。よそ見をしていたので海斗は気付かなかった。


 ガシャン! と鉄と鉄がぶつかり合った甲高い音がする。横に置いてあったス

ナック菓子が入っている段ボールにカートがぶつかり、幾つかの商品が落ちる。


「あ、すみません」海斗はそそくさとお菓子を拾う。ぶつかった相手も拾ってくれている。「こちらこそすみません! よく見てなかったもので…」下を向いていったので顔は見ていないが声で女性と認識した。

「いやいや、迷惑かけてすみませんね~」と海斗が言うと、「いえいえ! ほんとすみません!」と答えてくれた。やさしい人だな。そう思い、ふとその女性の顔を見る。

 するとその顔はどこかで見たような顔。その茶髪。私服だったからすぐには分からなかったが、海斗は段々と思い出した。


 あの子だ。


 あの子はお菓子を拾い終わり、入っていたケースに戻す。「ありがとうございます」と深々と頭を下げる。彼女は顔を上げて海斗の顔をしばらくみて、「あーっ!」と声を上げた。


「ど、どうも」

「あれだよね! 同じクラスの! えっーと…名前は…」

「い、一条海斗です!」

 海斗は顔を赤らめ、大声で名乗った。


「そうそう一条君! あの『エラー』の子だよね!」


 グサッ! と海斗に言葉の矢が刺さる。


(『エラーの人』か…。みんなにそんな感じで俺は覚えられてたのかぁ…)


「ごめん…あのことはあまり言わないでくれ…ショックが結構デカい…」

「あはは! ごめんごめん! まあ、クラスでは一条君だけしか超能力使えない人いないからね~」


 琴美さんは笑いながら言った。


「まあそうだね。あと一条君ってなんか堅苦しいから海斗でいいよ」

「オッケー! じゃあカイトで! 私は上原琴美だよ! てか一人で買い物? 他に誰かいないの?」

「あー、いつもなら妹がいるんだがな。さっき寝てたから一人で来たんだ」


 海斗は今、とてつもない幸福感に満ちていた。今、この場で琴美さんと気軽に話せることが。


「カイトには妹がいるんだ~! 何歳なの?」

「今年で中二になったところ。今十三だよ」

 

 琴美が「ほおほお」というような顔をしている間、少し会話が止まった。

 何となく、もう少し喋りたい。そう思った海斗は琴美に話しかけた。だってこんなチャンス二度となさそうだし。あとで大河にこのことを自慢してやろう。


「こ、琴美さんも、一人、なの?」

 緊張しているのが声にまであらわれている。ばれてなければいいのだが。


「うん! いやさ~、父は単身赴任で東京に行ってるし、母は仕事で海外をとびまわってるんだよね~。だから最近は一人が多いかな!」


 今の俺と似たようなものか。海斗は琴美に少し親近感が湧く。


「え! じゃあご飯とか琴美さん一人で作ってるの!? 大変だね!」

「そうかな~?」などと言いながら琴美さんは少し照れていた。その表情はとてもかわいらしい。海斗はそんな彼女を見ると、嬉しくて顔がほころぶ。


「あ、さっき『琴美さん』って言ったでしょう? あたしもカイトって呼ばせてもらってるから、カイトも琴美って呼んでよ!」

「え!?」


 いきなりすぎて驚いた。そこまで仲良くしてもいいのだろうか。そんな親しくしているところをクラスの誰かに見られたらどうなってしまうのか。大河にはなんて説明したらいいのか。そんな不安感が押し寄せてきたが琴美さんは心配そうな顔をしてこう言った。



「…………だめ、かな?」



(ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!)

 海斗の萌えパラメーター値がゲージの枠をぶっ壊してグングン伸びていく。


(やばいやばいやばい! こんなに可愛い女子をみるのは初めてだ! そんなのダメじゃないに決まっているじゃないか! 大河なんか関係ねえ!! そんなのお安い御用、何度でも呼ばせていただきます琴美さん!! いや、琴美!!!)


 脳内で騒ぎまくっている海斗のように答えるはずはなく、照れ臭そうに返事をした。


「い、いいよ」

「やった! ありがとうカイト! うれしい!」


 また琴美の笑顔を見ることができた海斗は今、恐ろしいほどの幸せに満ちている。


「ところでカイトは今日の晩、何作るの?」

「カレーだよ。そっちは?」

「ん! レトルトカレー!」


 そういって琴美は海斗の前にレトルトカレーの箱を差し出した。


「ほんとは作ろうと思ったんだけど、作ったらけっこう残るからさ~」

「はあ…」

「いやー、久しぶりに作ろうかと思ったけどやっぱり手抜いてしまうな~」


 琴美はそういいながら海斗をチラチラと見る。


 え?


(なにこのわざとらしさ感。もしかしてこれドッキリですか? まさか自分が「うち来いよ」って言ったらクラスの奴らが看板もってどこからか出てきたりしないよな? 多分今そんなことされたら俺はいろんな意味で死ぬぞ)


 周りを見回すがそんな気配はない。周りにいるのは海斗が行くときに毎回会うおばあちゃんと、店員くらいだ。

 ということは本当に俺の家でカレーを食べたいのか? まさかそんなことはないだろう。

 そう思っているが、琴美の表情に嘘をついていたり、なにか企んでいる様子はない。だからといって、家にご案内したとしてもそこには華夏がいる。あいつが絡むと面倒なことになりそうだが……などと海斗は思考する。


「へ、へえ~。そうなんだ。確かにカレーって作りすぎて残ってしまうときあるよね~」

「だよね~、前なんか、三日間カレーのときだってあったんだよ!」

「それはさすがにつくりすぎだよ~」


 琴美に嘘をついてる感じはまったくない。


「さて! おなかも減ってきたし、帰りますか!」

「ああ…そうだな!」


 琴美はレジに入っていった。海斗もその隣のレジに入る。

 やはり本当に何もなかったんだ。そう思いながら海斗はエコバックに買った商品を入れて、お金を払い、外に出る。

 海斗は自転車のかごにエコバッグを突っ込む。

 遅れて出てきた琴美が海斗に駆け寄ってきて、

「じゃあ、また明日! 学校でね!」と言った。


「ああ! またあし――」


 別れを告げようとしたとき、誰かの視線を感じた。


 海斗の正面奥にいるフードを被った不審な男。先程からこちらを向いて立っている。暗くて表情がよく見えないが、その男が右手を前にしたとき、笑っていたのが見えた。


 それは、とても不気味な表情で恐怖を感じた。


 その瞬間、男の右手から大きな炎の塊があらわれ、それがこちらに向かって飛んできた。


「あぶねえ!!」


 咄嗟に琴美の手をつかみ、横へ飛び込む。琴美がけがをしないように海斗が抱くようにかばう。火の玉が海斗の横をゴッ!といいながら後ろに飛んでいった。熱い。これは正真正銘本物の火だ。


「誰だ!!」


 そういって振り返ると、目の前には先程いたフードの男は見えず、飛んできた火の玉が無数に飛んできていた。海斗はその光景を見たとき、よけきれない、と思った。


 せめて、琴美だけでも。


 そう思った海斗は琴美の身体を覆うようなかたちになる。すると琴美が「すこしどいてね」といい、火の玉の方向に向けて手を出した。なにをしだすのか。海斗は必死に守ろうとしていたので、周りのことなんかどうでもよかった。


 すると。


 パンパンパンパン!! と大きな風船がたくさん割れたような衝撃音が、海斗の前方から鳴り響いた。


 火の玉は……こない?


 海斗はバッ、と頭を上げると目の前にあったはずの無数の火の玉が無くなっていた。


「……チッ」


 男は舌打ちをすると、走って逃げて行った。

「まちやがれ! ……ってくそ!!」

 足がすくんで動かない。海斗は自分で足を殴る。


(誰だ? なぜ俺を狙った? もしくは琴美か? 狙いは何だ? 金か? まず炎を出してきたから超能力所持者だよな?)

 海斗は脳内整理をしていると、


「あのー、カイトー? そろそろ退いてくれないかな?」と琴美は言った。


 はっ、と我に返った海斗は琴美の声がした地面を向いた。


 そこには頬を桜色に赤らめている。そしてなにより二人の体勢。海斗が四つん這いになり、琴美が海斗の下で寝ころんでいる。周りには「大丈夫か?」とスーパーの客が駆け寄ってくる。海斗もその状況に段々と恥ずかしさがこみあげてきた。


「っご、ごめん!! 必死だったから…」

「…別にいいよ」


 両者共顔を赤くして下を向いたまま地面に座り込んでいる。


「てか、さっきの奴、完璧に俺らを狙ってたよな?」

「確かに。でもわたしあんな人知らないよ?」

「俺もだ」


 琴美も知らない…となれば、ただ事ではなさそうだな。周りにだんだんと人が集まってきた。そろそろ動かないとややこしいことになりかねん。そう思い海斗は立ち上がった。


「とりあえず、今日のところは帰ろう。このことは学校に一応報告したほうがいいのかもしれないし」

「そうだね…じゃあ、ってぎゃあああ!! 私の今日の晩御飯があああーー!!!!」


 尻尾を踏まれた猫のように琴美が叫ぶ。

 飛んできた火の玉が琴美の持っていたポリ袋を跡形もなく燃やしてしまったのだ。残っていたのは取っ手の部分だけ。おそらく海斗が琴美を引っ張ったときにちぎれたのだろう。琴美はいまにも泣きそうな顔をしている。


「これは…商品交換するわけにもいけないな」


 海斗は袋の中身が一つも残っていないことに気付く。


「えーっ!! じゃあ今日の晩御飯なしってこと!? いやぁ、いやだ! いやー!」と言ったその時、琴美のお腹がなった。

「……お腹減ったよぉ~」


 琴美は涙目になっていた。海斗だって腹は減っている。だが、どうすることもできない琴美を放っておくわけにもいけない。


 ……大丈夫かな。


「よかったらうちで飯、食う?」




 家に帰ると、昼同様腹を空かせた華夏が玄関で待っていた。


「おっそい!! 今まで何してたのよ!!」


 ……お前は俺の母さんか。


「あー、まあいろいろあってだな」

「いろいろってななによ! こっちは腹減ってるんだけど!」


 こっちは死にそうな目にあってきたんだけどな。

 海斗は玄関前でもじもじしている琴美を呼ぶ。


「おーい、早く入って来いよって…どうした?」


 海斗からしたら琴美はとても緊張しているように見えた。先程から「カイトのお父さんとお母さんに会うんだ、でもどうしよう、別にカイトとは今日知り合ったばかりなのに、なんでこうなってるの、てか……」とぶつぶつ呟いている。琴美は海斗の親に会うと思っているのか、自分の身なりを気にしている。


「今、家には両親いないよ。海外旅行行ってるからさ」


 そういうと琴美は「え!?」と声を漏らし、「ほんとに?」と訊いてきた。


「ほんとだよ、俺と妹だけ。嘘つく必要ないじゃん」


 海斗がそういうと一気にに緊張がほどけたのか、安堵の笑みをうかべる。


「なーんだ! それを早くいってもらわないと困るよ~」



 先程までの元気な琴美に戻り、元気よく玄関に入ってきた。

「こんばんは~!」


 玄関に入ってきた琴美を見て「……っは? この人だれ?」と華夏が訳がわからなさそうな表情に変わる。


「ああ、こいつは妹の華夏。んで、こっちが――」

「上原琴美でーす! よろしく華夏ちゃん!」

「…………は、はあ。って、え!?」

「ほれ、華夏も挨拶しろよ」

「…………」


 華夏は固まったままだった。


「…おーい」


「…………」


 晩飯を買いに行ったはずの兄がなぜか女の子をお買い上げしてきた、という衝撃ニュースがこいつの寝起きの頭の中に入ってきたからだろう。恐らく、情報処理が追い付かないからだ。


「どうかされたんですか? 妹さん」

「……いや、ひさしぶりの来客に驚いてるんだと思う。まあ上がって」

「おじゃましま~す」


 海斗と琴美が玄関を離れ、リビングに入ろうとしたとき、華夏のスイッチがパ

チン、と入った。


「あああああああああ兄いががががが女の子をおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?」


 バタバタと華夏がリビングに戻ってくる。まったく騒がしい奴だ。


「な、な、な、なんで、こんな綺麗な人が、お、お兄とい、い、一緒にうちへ来たの!??」

「うるさいな~。さっきスーパー行ったら会ったんだよ。んで琴美も晩飯カレーにするから、じゃあ家に来ないか? って話に――」

「いやいやいや!! だってそちらの琴美さんにも家庭の事情があるでしょうが!!」


 華夏がギャーギャーと騒いでいるが、海斗は軽くあしらいながらキッチンに入

ってカレーを作る準備をする。


「両親が仕事の関係でいないから誘ったんだ」


 琴美が「手伝おっか?」と言ってくれたが、客人に手伝わすのも気が引けるので「いいから座っといて」と言った。


「で、でで、でもこ、琴美さんだってこんな兄いに『家に来ないか?』って言われてなんでついてきたんですか!?」


「『こんな』ってなんだよ!」


 我が華夏はこの状況に相当焦っているようだ。


「えー、別にわたしはおいしいご飯が食べれるなら、カイトの家でもいいかな~と思って」


 そう言いながら琴美はソファーに座った。そんな理由で来たのか…あと味の保障はできないぞ。


「っか、か、か、カイトですってぇー!?!?」


 華夏は顔が真っ赤に染まる。


 息が上がっている華夏はキッチンに入ってきて、海斗を睨んできた。

「……なんだよ」

 テキパキと作業する手が止まる。華夏は『耳を貸せ』というジェスチャーを無言で表現する。海斗は仕方なく作業をいったん止めて、小さな華夏の身長にあう高さまで腰を降ろした。


「で? なんだよ」

「あんた、何する気?」

「なんもしねーよ」


 琴美はただ晩飯を食べにきただけなのだが、こいつは何を勘違いしているのだ?


「だって! お兄が女の人家に連れ込んでくるなんてはじめてじゃない!」

 確かに女友達は何人かいるが、家に誘ったことはあまりない気がする。

「だから~、晩飯を食いに来ただけだっていってるだろ?」

「絶対にちがう! なんかほかになんかあるでしょ!」


 確かに、海斗が女子を家に連れてきたことがない。今まで連れて来たことがあるのは大河や男友達だけだ。


「だから! なんもないって――」



「まさか…お兄……いやらしいことするんじゃないでしょうねぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!」



 一気に海斗の顔が赤くなる。


「馬鹿野郎! 声がでけえ!!」

「否定しないってことは…まさか本当に……!」

「しねーよ! 勝手に妄想するな! 言いがかりはやめろ!!」


 すると後ろから琴美の漏れるような声が聞こえた。


「……え」


 一瞬身体が硬直したが、海斗はゆっくりと後ろを向く。

 そこには、さっきまでソファーに座っていた琴美が立っていた。


「……え?」


 海斗はなんて言ったらいいのかわからなかった。さっきの華夏の声は絶対に聞こえていただろう。だが海斗はそんなやましい思いで家に誘ったわけではない。琴美の買ったものが燃えてしまったのは海斗にも一部原因があると思ってのことだったし、火の玉から救ってくれたお礼もかねて誘っただけなんだ。だが、この状況でこんな理由が通じるのだろうか。


 数秒間、無言の状況が続く。


 ……まずい、何とかしなければ。

「いやいやいや!違いますよ琴美さん! 俺はただ、さっきのお礼として晩飯を食べていただきたいと思いまして…」


 琴美の身体は小刻みに震えてながら下を俯いている。海斗からは表情がみえない。


「えっと…あの…その…」

「………………か」


 顔を表にあげる。

 涙目になっている琴美が口を開いた。


「……か?」

「……か、カイト、の」


 ああ。

 海斗には分かった。これは確実に死亡フラグというものだろう。


「カイトのバカッ!!!!!!!!!!!」


 キッチンで大きな破裂音が一発。その音がした後に海斗は後方に倒れた。仰向けに倒れた海斗の頬には大きな桜色の紅葉がきれいに形作られていた。

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