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第十二話 どんくささは命を落としかねない

「……おい」

「ん?」

「どういうことだ」


 海斗は今ものすごく戸惑っている反面、怒っている。

 この男がなぜいるのか。

 そして寒い。


「なにが?」

「『なにが?』じゃねえよ!なんで俺はこんなところにいるんだよ黒滝!!」


 事の発端は海斗が琴美を家に送って帰っている途中だった。だが家の前で謎の男に背後から薬を嗅がされて気を失ってしまった。するとあら不思議、目の前にいつぞや闘った男がいるではありませんかッ!!

 そして気が付けば高層ビルの屋上で両手首に見たことのある赤い魔法陣が突っ込まれており、空中に磔にされているのである。


「いやいや、こんなことをしたわけには深ーいわけがあってだな、話すととてーも長くなるのだがいいのか?」

「まとめて短く話しやがれ!!」

「そうだな――」


(今更闇討ちか!? 復讐か!? やばいやばいやばい俺まだ身体完全には治っていないんですけど大丈夫なんですかねこれ、生きて帰れますよねこれ!?)

 海斗に緊張が押し寄せる。


「まあ様子見に来ただけなんだが」


「…………はあ?」

 緊張して心拍が上がった身体から気の抜けたような声が漏れ出る。

「最近元気? 身体直った?」

 まるで親戚のおじさんが久々にあった息子に話すような言い方だ。

「いやいやいや! 普通敵同士ならそんな心配事なんかしないでしょ! 普通!」

「うるせえよ、別にもう俺ら敵同士じゃないんだからいいじゃん」

 はぁ!? と海斗が叫ぶ。

「で? もう傷は治ったの?」

「治ってねーよ! 筋肉痛ひどくて今は薬で痛みをやわらげてるぐらいだぞ!」

「なんだ、そんなぐらいか」

「そんなぐらいってなんだよ!!」

 まあまあ動かないで、と黒滝は言いながら海斗に両手を腹部に差し出す。


「――――はっ」


 その体勢は目に焼き付くように覚えている。

 手のひらからあの炎の球体が放出されることを。

 黒滝の手のひらが赤く光ったとき、海斗は身体全身の毛が逆立つ。


「おいおい止めてくれ!! 頼むから殺さないでくれ!! やめてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!! ……ってあれ?」


 海斗は身体をよじらせて抵抗を試みたが手首の魔法陣が消えない限り動けない。

 だが。

 見事に海斗の腹にぽっかり穴が開いたわけではなく、赤く光る魔法陣からなにかを注ぎ込まれているようだった。

「だ。このままじゃ正々堂々と闘えないからな」

「……っ、は?」

 訳が分からない。闘う敵が怪我をしてたら魔術の世界では治療をしてあげるのが常識なのか?

「ほら、終わりだ」

「痛って!」

 動きを封じていた魔法陣が消えて、海斗は地面にドスンとしりもちをついた。

「どうだ? 身体の動きに何か異変は?」

「薬飲んでるからわかんねえよ」


 海斗は周りを見渡す。ビルの屋上なのか視界がとても開けて見える。風が地上より強いから少し寒い。海斗は黒滝に質問をする。

「それよりここどこだよ?」

 意識が飛んでいた間に連れてこられたため、家からどうやってここに来たのかが分からない。

「お前の家の近くの大型スーパーといったところだ」

 立ち上がって海斗は屋上の周囲を囲んでいるアルミ製のフェンスの間から外を覗く。その景色は見たこともない場所で家の近くではなかった。


「(こいつ、どこまで来やがったんだ…?)」

 見たことのない街並みに驚いた。

 海斗は携帯を起動させて現在位置を調べる。すると海斗の立っている地点は全然家の近所ではないことが分かった。


「……ん?」


 海斗は今いる場所が間違っていないか何度も位置情報を更新する。だが表示されているポイントから一ミリも動かない。


「ちょっとまて! 黒滝お前家の近くだって言ってたけど全然違うじゃねえか! ここ『東京』じゃねえか!! 一体どうやって来たんだよ!?」


 海斗は後ろから接近してきた黒滝に叫んだ。

「は? 移動魔術《ワープ》だけど」

「……あ、はい」

 海斗は当然のように答える黒滝に何も言えなくなってしまった。


 確かに超能力でも簡易的な瞬間移動のようなものがあるので納得できるが、魔法ってものはこんなに遠くまで来ることができるのかと少し感心していた。

 海斗はなんでこんなことになったんだろうと思い、大きくため息をつく。


「…てかさ、お前結構信じるんだな」

 黒滝が珍しそうな目でこちらを見る。

「何がだ?」

「この国には超能力ってものがあるから、誰かがそういう力をつかっていてもそこまで驚かないだろう。だが俺が使っている力が魔法だって言ってもたいていの人は信じないだろうが。それなのにお前は特に気にしていないように見える。それにその力だってそうだ」

 海斗の腕を指さして黒滝は話を続ける。

「お前の力を狙って俺はお前を殺すために現れた。俺がその力は魔術だと言った。だがそれをお前は否定しなかった。だけど俺が現れなかったらその力を超能力だと思っていただろう。それにその力を側の力と思うか、側の力と思うのだってそうだ」

 黒滝は真剣な表情で海斗を見みている。

「…つまり何が言いたいんだ?」

「お前はどう思っているんだ? 殺されそうになって、こんなところに連れてこられて闘う羽目になって、自分の力は超能力の力じゃないのかって思っているんじゃないのか?」


「……わからねえよ」


 海斗は黒滝に背中を向けて言い放った。


「あんたと闘って初めてあんな力使えたとき正直びっくりしたよ。あんな剣を自分で振り回している時とか特にさ。それに痛かったよ。怖かったよ。でもあの時の琴美の姿をみて、守らなきゃって思ったんだ。逃げることもできたと思うし、隠れていることもできたと思う。だけどこの力で自分の何かが変わった気がするんだ。だからこの力には感謝してる。魔術だろうと超能力だろうと、みんなを守れる力があるのが自分でも嬉しいんだ」

 海斗は夜空を見上げている。

「…そうか」

 黒滝がぽつりと呟いた。

「でも闘うって誰が誰とだ?」

 海斗は振り向いて言った。

「はあ!? お前言ったじゃねえか!!」

 黒滝は驚いていた。先程とは全然違う表情で海斗に怒鳴った。

「え?」

 海斗には全く覚えがない、というより忘れているのだ。


「あの時俺に『お前のお偉いさん呼んで来い』って言ったじゃねえか! 忘れたとは言わせねえぞ!」

 それを言われたときにふと思い出した。


「ああ、俺そんなこと言ったっけ」

「おまえ…本気で忘れてたのか!?」

「うん」


 まじかよ…と言いながら黒滝は膝を落とし、ぶつぶつと独り言を述べている。

「じゃあどうすんだよ…急いで支度しているのにこれじゃあ意味ねえじゃん…。もうすぐアナさんだって来るし…」

「ん? アナさんって誰のことだ?」

「お前が呼んだ人だ。もうすぐこちらに来られるはずだ」

 黒滝は腕時計を見るしぐさをする。その行動を見て海斗に悪寒が迫ってくる。


「え…いまから来るの!?」

「だからそうだって!!」

「じゃあなんでお前がここにいてるの!?」

「先に来たんだよ!!」

「ちょ、ちょっと待てよ! じゃあなんで俺の怪我直したんだ!? ふつう逆だろ! 寝ている間に袋叩きにしたりとかできただろ!!」

「それは…」

 黒滝が言葉を詰まらせた。何か理由があるに違いない。


「……頼まれたんだよ」


 黒滝がぼそりと呟く。

「は?」

「あのお方に頼まれたんだよ…お前が怪我で弱っているところを倒しても面白くないからに決まっているだろうが! わかっただろ!! はい、この話終わり!!」

「は!? ちょっと待て、ほかにも聞くことが――」

 海斗が黒滝を問い詰めようとしていると、



 ズドン!! と空から何かが光線とともに目の前に落ちてきた。



「……きた」


 舞い上がる煙の中から人影が見える。

 パキパキと地面のコンクリートが崩れる音と、カツン…カツンと歩くヒールの冷たい音が聞こえてきた。すると風が吹いて、砂煙がすっと動き出す。

 すると――。


「痛った! 目に入った!」


 女性の甲高い声が耳に響いて海斗は飛び上がりそうになった。

「だ、大丈夫すか!?」

 近くにいた黒滝が走って煙の中に入っていった。

「大丈夫じゃないわよボケ!!」

「あだっ! 蹴らないで下さいよ!」

 砂煙が払われて二人の姿がだんだんと見える。そこには地面に横になっている黒滝をヒールを履いた右足で踏みつけている誰かがいた。

「え…?」

 海斗は目を見開いて二人の姿を見る。

 黒滝が踏まれていることに驚いているわけではない。

 海斗の驚きはその女性にあった。



「……………………ちっさ」


 海斗から見た感じでは身長は約一四〇センチといったところか。服は露出度が高く、その身長にはミスマッチな格好をしている。

 腰まである髪は薄いピンク色をしていてツインテールに結われており、髪留めにはピン球ぐらいの球が二つ装飾されてあった。


「あんた、わたしを放っておいて勝手に先に行くってどういうこと!? こっちは日本に来るの初めてなのになんで一緒に行ってくれないんだよ!」

「だってアナさんいっつも準備するの遅いじゃないですか」

「遅くないわよ! あと拠点のなか以外ではその呼び方を止めろ!」


 そう言ってロリ系ぺったん女子は黒滝の横腹辺りを強く踏みつける。


「いだだッ! ヒール食い込んでる!」

「わたしを放ったらかしにした罰よ!」

「あ、あの~…」

 二人が騒ぐ中、海斗はただその光景を眺めているしかなかった。


「もう俺、帰りますね!」


 これはチャンスだ、と思い、海斗は遠くにある屋上の出入口に猛ダッシュする。

 だが出入口の扉のドアノブを触るとバチバチ! という電撃が海斗の身体をはしる。


「痛った! なんだこれ!?」

「――空間を切り離したのよ」

 先程までのお話は終わっており、海斗が振り返ると女の子は腕を組んで海斗を睨んでいる。


「逃げられないようにこの建物全体にはってあるわ。ここから逃げられたら面倒だし。ああ、まだ自己紹介をしていなかったわね。わたしはアナリア・ヴァンス。『パンドラの箱』のリーダーよ」


 名前からして外国人なのだろう。確かにその姿を見るとまさしく魔術師といえるような存在だ。普通という概念が無い、大人びた口調に対しては背が低く、それも魔術の影響によるものだと考えさせられる。

「…随分と日本語がお上手なようで。それも魔法なのか?」

「これは元々からなのよ。わたしの家は勉強に厳しくてね。小さい頃に勉強したから」

「小さい頃、ねぇ……」

 海斗はそういいながらアナリアの頭から足のつま先までまんべんなく視線を送る。

「…ちょっと、どこみてんのよあんた」

 海斗の視線の方向にアナリアが気付く。

「いや~、小さい頃といわれましても今のお姿からもう少し小さくしたらどのくらいのサイズになるのかなと思いまして…」

「あんた、わたしが小さいからって舐めてるでしょ…!」


 アナリアは身体を小刻みに震わせながら拳を握り、口をひくひくさせながら言った。別に舐めているつもりはないが、口調とその身長が合わない以上、どうしても年齢がわからないのだ。


「い、いやそんなことはないですよ!? ただ自分の予想図ではもう少し背の高い人か、すごく威圧のあるような人だと思っていたので! それに俺、今あんたと闘える自身ないので!!」

「あん?」

 言い放たれた一瞬でその場の空気ががらりと変わった。

 無音。

 さっきまで聞こえていた車のクラクションや風の音がまったく聞こえなくなる。先程までの雰囲気とは明らかに違う、アナリアから放たれている殺気に海斗は身構える。


「それにしても随分と余裕そうだね、あんた。こういうのには慣れているのかしら?」

「…いや、これが二回目だ」


 涼しいはずなのに緊張して汗がにじみ出てくる。

「二回目ってことはあいつとわたしとしか組んでないってことかしら? まあそんなことどうでもいいんですけど。今からあなたには死んでもらうか、私の隷属として働いてもらうかしかないんだから」

「隷属…ってのは一生お前の下でこき使われるってことか」

「そうですわね。あなたぐらいの力があればこちらとしても利益はありますし、もしあなたがよろしければ隷属にしてあげてもいいけど?」

「嫌だね」

 海斗は強く言い放った。

 それがアナリアの気に障っていても。


「俺の力がどうだろうとお前らには服従なんてしない」

「…そうですか」

「……?」


(なんだ? 今の表情、……なんか――)


「ならさようなら」


 海斗が気を抜いた瞬間、アナリアが立っている地点から弧を描くようにたくさんの色をした魔法陣が広がっていく。それはまるで目の前にあらわれた虹のようだった。


「奴を串刺しにしろ! 『ヴィルゴット』!」


 アナリアが言い放つと――、

「――――っ、!?」

 海斗に向けて銀色の延べ棒が一斉に飛んできた。


 それは実体が見えないぐらいの高速で移動し、ズドドド!! と激しい轟音を響かせた。


「……ふう」

 アナリアは腰に手を当て、その光景を目にする。

(これで終わったわね。これでもう――)

「アナリアさん」


 後ろからその様子を見ていた黒滝がアナリアに話しかけてきた。


「ああ終わったわよ。あんたあんなの相手にして負けたの? ほんとあんたどれだけ弱いのよ。わたしはもう帰るから後の片づけ頼んだわよ」

 そういってアナリアはよろしく、と黒滝に言ってその場を離れようとする。

「アナリアさん」

「あー、疲れた。やっぱりあんな奴に三本も使わなくてもよかったかも。時間余り過ぎて暇になったわ。家に帰ってなにしようかしら」

「アナリアさん」

「なんなのよさっきから!! わたしに何か文句でもあるの!?」

 何度も呼ぶ黒滝に向かって叫ぶ。アナリアは別に無視をしていたわけではなかった。


「まだっすよ」

「…はあ?」

「だから――」


 黒滝はアナリアにを見ないで、にやっとした表情で言う。


「あなたの闘いはまだ終わってないですよ」

「…………あのねぇ」


 アナリアは鼻で笑いながら話す。


「あんたまじで言ってんの? 魔術も使えない、武器を持っていない、そんな奴がさっきのを防げるわけないでしょ――」

 話している間、黒滝はずっと視線をあわせない。なにかあるのか、と黒滝が真っ直ぐ向いている方向をアナリアも見る。

 地面や海斗の後ろにあった鉄製の分厚い扉には幾つもの棒が刺さったあとがあった。


 そしてただ一人。

 鈍く光る剣を持つものがそこに立ち阻んでいた。


「あいつはそんのそこらの奴とは違いますよ」

 黒滝はにやりと笑う。

「…やっぱり、そうみたいね」

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