1:どうやら転生したらしい
転生しました。
綺麗な女性の手の中で、それは形作られて行く。
昔着ていたお気に入りのドレスを破いて、白い布地を丸く切り取って縫い合わせていく。
あの子はどんな子が好きだろう?
白い布地に黒い髪をくっつけて、右目はドレスのボタン、左目は、命が宿る青い魔石を付けてあげよう。
あの子は青が大好きだから。
服はあの子がお気に入りの絵本に出てくる勇者様のように。
紺の上下に黄土のポンチョ。そして黄土の帽子を被せて、最後にまじないをかけた赤い石のマチ針を頭に刺せば、これで完成。
あの子の新しいお友達。
とても可愛くて、かっこいい青い目のお人形。
「アナタの名前は『ニール』よ。これからあの子のことをよろしくね」
そうお願いすると、あの子の新しいお友達は、困ったように首をかしげた。
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「アナタの名前は『ニール』よ。これからあの子のことをよろしくね」
そう聞こえて、俺は目を覚ました。
もう朝か…。仕事に行かないと…。
いつものように近所のスーパーで買った食パンにバターを塗ってコーヒーを飲む。
朝の少し笑いを交えたニュースを見ながら身支度をし、務めている会社から電車で二十分ほどのマンションから入社二年目の会社へと向かう。
それがいつもの俺の朝…。
そこまで考えて、俺はさっきまでのことを思い出す。
たしか俺は、屋上から飛び降りようとしていた女を助けて、しかし疲労から逆に俺が落ちてしまって…?
ではここはどこだ?病院か?
しかし、目の前にいるのはなにやら金髪緑目の綺麗な外人さん。
しかもゲームや映画でしか見たことのないような細かい装飾品の散りばめられた高そうな、しかし質素なドレスを着ている。
そして、ベッドに寝ているのは俺ではなくその女性。
俺といえば、その女性に抱きかかえられている。
…というか、この女性デカくないか?
顔が俺の体くらいある来がするのは気のせいだろうか?
やだめっちゃ怖いんだけど。
「あら、アナタ、私の声がきこえるの?」
「え!?あ、はい!聞こえます!!」
思わす敬語で返事をすると、女性はとても楽しそうにクスクスと笑った。
「すごいわ!エラルドの言っていたことは本当だったのね!」
「え…えーっと…?」
状況が全く飲み込めない。
なんだ?一体あの後どうなったんだ?
「あの…すみません、俺にはなにがなんだか良くわかならないんですけど…?」
「あらあら、ごめんなさいね、ひとりで盛り上がってしまって。
えっと、アナタはニールよ。私がレナータのために作った、お人形のニール」
「に、人形…?」
ちょっと待て、どういうことだ!?
俺は慌てて自分の手を見て、愕然とした。
そこには、本来あるべき肌色の肌がなく、あるのは白地に縫い目のあるふわふわとした布の塊だった。 手だけではない、体も足も、そして顔も、全てがまるで…いや、本物の人形そのものになっていた。
しかし、不思議と違和感はなかった。
指がなくても親指に該当するものはあるし、握ったり開いたりも可能だ。
女性に言ってベッドの上に下ろして貰えば、立つことも歩くこともできた。
「これは一体…?」
「アナタは、左目にはめた魔石と、私がまじないを込めたマチ針のせいで、どうやら命をもってしまったみたいね」
「ませき…?」
聞きなれないワードに首をかしげると、女性がサイドテーブルから鏡を取り出して俺に向けてくれた。
うん、どこからどうみても、手作りの人形にしか見えない。
「アナタの左目に、青い宝石があるでしょう?それが魔石よ」
「魔石って…ちょっと待てよ、そんなゲームみたいなものが現実にあるわけ…」
そこまで言って、自分が今、ひどく非現実な状況にあることにようやく気がついた。
死んだはずの俺は、今人形としてここに存在している。
魔力やまじないといった、まるでゲームのようなワード達。
「これは…夢?」
「残念ながら、私にとっては現実なのだけど?」
女性は落ち着いた様子で、俺の一言一言に答えてくれる。
まるで、混乱する俺を落ち着かせるように。
「…なぁ、ここはどこだ?日本じゃないよな?」
「ニホン…?聞いたことがない名前ね。アナタの国の名前?」
「は…?」
日本を知らない?そんな馬鹿な話があるのか?
なんだかだんだん嫌な予感とワクワク感がごっちゃになってきた…。
「じゃあ、ここはどこ?」
「ここは北の大都市『フィルコニック』って呼ばれているわ。
そして、今アナタがいるのはそのフィルコニック領の領主の家よ」
フィルコニック…聞いたことがない。
大都市なら、テレビとかでやっていてもいいはずなのに。
「アナタは今目覚めたばかりだろうから、何も知らないのも無理は無いわ。
簡単に説明すると、この世界はみんな『ヴィルジーナ』と呼んでいるわ。
八つの大陸といくつかの国があるの。人間以外にもたくさんの知的種族が暮らしているわ」
「…魔法とかは?」
地球の大陸は大きくわけても八つじゃなくて六つだしそもそもヴィルジーナなんて呼んでる人に会ったことがない。
そして知的種族なんていい方はしない!!
「あるに決まっているじゃない。
ただ、魔法を使うにはその魔法に合った魔石が必要だけれどね。
ほら、アナタの目みたいなのよ」
そして魔法はあるに決まっていない!
魔石を使って魔法を使ったりはしない今は科学と機会の時代だぞ!?
うん、これはあれだな。
俺は屋上から落ちて死んだんだ。これは間違いない。
それで、何らかの方法でヴィルジーナという世界に来てしまった。
ヴァルジーナなんて名前聞いたこともないし魔法を使えるということはつまり地球ではない。
異世界だ…。
これは、よく小説とかで見る異世界転生というやつだ。
結論、俺はどうやら異世界に転生したらしい。
しかも人形に憑依というなんとも言えない状況に。