異世界カフェ1――転生した主人公(前世女、今世男)がチート能力でもって異世界でカフェを開くお話です。
主人公がオネェっぽい? ので苦手な人はご注意ください。でも、オネェではありません。
は~い、皆さん、初めまして。実はあたし、前世の記憶ってーの? があるみたいなの。
いやいや、何痛いこと言ってんの? って感じかもしれないけど、本当なのよぉ。お願い、信じてv
前世では、“あたし”は地球の日本に住んでいたのぉ。名前は、蓮水美琴、性別は女よ。あら、なぁに? オネェかと思ったですって? 失礼ねぇ、れっきとした女の子よぉ。ただ、周りの人から、どぉにも話し方がオネェっぽいとは言われたけど。それで、お仕事は……まぁ、ナイショにしとこうかしら。その方がミステリアスでしょ?
それでねぇ、お仕事中に倒れちゃった“あたし”は、運び込まれた病院で重ぉい病に侵されていることを知らされちゃったの。病の進行状況が深刻で、もはや打つ手はないって沈痛そうな表情のお医者さんに告げられたわぁ。やっぱり、お酒をたくさん飲んでいたのが良くなかったのかしら。あと、不規則な生活ね。
運び込まれてから、一月もしないうちに“あたし”の人生は終わりを告げた――と思うんだけど。だってぇ、最後の方は意識が朦朧としてて、起きてるのか寝てるのかもはっきりしない状態だったんだもの。
でも、お仕事で出会ったお友達が、野太い大きな声で泣き喚いていたのは聞こえたわぁ。もう、キャサリンなんて恐竜の雄叫びじゃないの。
それで、気が付いたらオギャーと盛大な声を上げていたのよぉ。
状況が全く読めなくてぇ、胸がもやもやするままに泣き喚いていたら、お湯で洗われ布で巻かれて、暖かくて柔らかいものの上に置かれたのよ。背中をそっと撫でる手が心地よくて、しきりにかけられる穏やかな声に安心して、あたしはその相手が母親なんだと本能的に分かったのぉ。あたしってすごいわぁ。
まぁ、だからって、自分が生まれ変わったなんて理解するには、しばらくかかっちゃったけどねぇ。
でも、びっくりしちゃうくらい美人のママちゃんと、厳格そうだけど目が優しい、しかもいいオトコなパパちゃん、それに二人の兄らしきお子ちゃまに囲まれて、お世話をされてるうちに、記憶にある“あたし”とは別の存在になったんだって分かってきたのぉ。それにしても赤ん坊って不思議よねぇ。別に泣きたくないのに、何かにつけて泣き叫んじゃうの。お腹空いたーとかおしっこ出たー、とか。なんだか段々楽しくなってきちゃって、思う存分泣き喚いたわよぉ。いいわぁ、ストレス発散になるわね。やだ、これでも結構混乱してたのよ、あたし。ストレスだって溜まっちゃうわ。
それでね、今のあたしって本当にすごいのよ。まず、部屋にあった姿見を見た時の衝撃ったらないわぁ。ママちゃん譲りの淡いキャラメル色の髪に、深い海のように濃い青色の瞳。顔もママちゃんに良く似ていて、幼いながらに将来はかなりの美形になることが保証されたような顔立ちだったわぁ。今でも天使のような可愛らしさなの。自分でもうっとりしちゃうわぁ。
あとね、この世界には魔法? っていうのかしら? があるの。このことが分かったとき、まるで物語の中の世界みたいだわって思ったの。あたしだって本くらい読むわよぉ。なんて言うの? 異世界?
それで、三歳になるとこの国では、神殿みたいなところで神様の祝福を受けるのが一般的らしいのよ。さらに、その際に、魔力量を調べてくれるんですって。その結果で、将来の職業や、伸ばすための方法なんかのアドバイスをしてくれるそうよぉ。
ドッキドキの私の結果は、測定不能だって。三台くらいの計測器を使ったんだけど、どれでも測定不能。不思議ねぇ。三台目のは最新型の測定器だったみたいなんだけどぉ、なんか時計の針みたいなのが一周して止まっちゃったのよ。あら、壊れちゃった? って首を傾げてたら、計測ができないだけだと言われたわぁ。体内に魔力の気配はあるから、魔力が無いってことではないみたぁい。ということは、測定できないほどの量を有してるってことらしいんだけど。
うーん、それってどういうことぉ?
さっぱり分からなかったけど、パパちゃんもママちゃんも驚きながらもとっても喜んでくれたし、まあいいか、ってことにしたわ。周囲で一部始終を見てた人達は、大騒ぎだったけどねぇ。
その後、パパちゃんが言葉を砕いて一生懸命説明してくれたんだけど、とりあえずすごいんですってぇ。でもパパちゃん、あたし三歳だからそんな難しいこと説明されても分かんないわぁ。ママちゃんは、頑張ればどんなお仕事でもできるってことよ、って笑ってるし。
お仕事かぁ。前世では色々あってお仕事なんて選べなかったしなぁ。あ、もちろんあれはあれで楽しかったわよ? いい人も多かったし。でもやりたいことだってたくさんあったの。いっぱい働いて、お金を溜めて、さあこれからってときに倒れちゃったのよねぇ。
うん、そうねぇ。だったら前世では出来なかったことをめいっぱいやろう、やりたいことは全部やってやるわぁ、って、一気にテンションだだ上がりよぉ。
ただ、困ったことが一つあるのよね。あたしの今の名前は、カイン・エウ・カリスローベルっていうのぉ。今までの話の流れから分かった人もいるかもしれないけど、男の子なのよねぇ。これには戸惑うことも散々あったわ。色々と人体の神秘を見た感じよぅ。
でも、まだお子ちゃまだからいいけど、これから成長期に入って大人の体になったらどうすればいいのかしらぁ。キャサリンみたいにお髭が生えたり、毛がもじゃっとしちゃうの? お手入れが大変になるわねぇ。でもまぁそのうち慣れるかしら。
後は、恋愛相手ねぇ。家のメイドちゃんにも可愛い子とか美人ちゃんとかいるけど、見ても可愛いなーとか綺麗ねぇとか思うだけで、恋愛感情っぽいものなんて生まれてこないし。幼稚園の先生に憧れたのって、何歳くらいだったかしら。しかもねぇ、前世のあたしは男の人が好きだったけど、今は男の人を見ても、この辺りは体に引きずられちゃうのか、やっぱり恋愛相手とは思えないのよぉ。もし男の人を好きになっちゃったら、マーガレットが控室で読んでた本みたいになっちゃうのかしら。男の子同士がにゃんにゃんしてるの。奥深すぎて、あたしにはよく分からない世界だったわぁ。
このままだと一生独身かもぉ。それはそれで構わないんだけど。だって、前世でだって結婚諦めてたしねぇ。う~ん、どうしてもってときは、偽装結婚に協力してもいいって女の人でも探そうかしら。まあ、それもまだまだ先の問題よねぇ。
さて、あたしにだって憧れの男性像があるんだから、せっかく素材が良いんだし、こうなったら色々と頑張ってみちゃうわよぉ! 容姿端麗・頭脳明晰・文武両道ってやつを目指すわぁ!
そうと決まれば、まずはお勉強ね。昔はあまり好きじゃなかったけど、本とかたくさん読むわよぉ。勉強も誰かに教えてもらわなくっちゃ。それから、魔法? っていうのを使えるなら使ってみたいし。魔法ってすごいらしいのよぉ。手から火を出したり水を出したり、風でものを吹き飛ばしたり出来るんですって。あたしも使えるようになれば、タバコに火を点けるのだって、フロアーの掃除だって簡単にできるようになるわぁ。困ったお客様も、即お引き取り願えるのね。
それから、この世界では剣術も男の嗜みなんですってぇ。かっこいいわぁ、強い男って素敵よねぇ。昔はあまり力が無かったけど、男の子の体だし大丈夫よね。騎士になってお姫様を助けたりなんかしちゃって。うふふ、剣術だって他の武術だって、がっつり身に付けちゃうんだから! 女の本気を舐めちゃ駄目よぉ! あら、今は男だったかしら。
他にはぁ、健康に気を付けて、美容にも気を配らないとねぇ。エリザベスが美容健康オタクだったから、たくさん気を付けること教えてもらったし。今思えば、ちゃんとエリザベスの言うことを聞いておけばよかったのよねぇ。エリザベス、ごめんなさぁい! これからは、ちゃんと三食食べて、お野菜もお魚も摂るわ。睡眠時間だってきっちり守るし、お肌のターンオーバーが行われる時間にはしっかり寝るわねぇ。
理想の美青年になっちゃうんだから! キャサリンにもマーガレットにもエリザベスにも、会わせてあげられないのが残念ねぇ。
あ、あと気を付けるのは態度ね。昔みたいになよなよしてたら、オネェだって言われちゃうわ! 今回の生だったら、本当にオネェになっちゃうわねぇ。喋り方も注意しなくっちゃ! キャサリンが熱く語ってた、優しくて紳士で男らしい男性を目指すわよ! みんなぁ、応援しててねぇ!
そう燃え上ったあたしは、五歳になる頃には、家の書庫にある本を片っ端から読み漁り――文字自体はすでに覚えていたのよぉ――、パパちゃんに頼んで魔法を教えてもらったり、うちの警備をしているムキムキマッチョな私兵ちゃん達に頼んで剣や武術の訓練に加えてもらっちゃったりしながら、メキメキと理想の男性像への道を邁進して行ったわぁ。あたしってやればできる子だったのねぇ。
それからは、十二歳で国立魔法学園に入学してぇ、スキップしまくって十五歳で卒業。その後三年間は冒険者として各地を回ったの。本当に世界って広いのねぇ。行く先々で目新しい物盛りだくさんだったわ。拳で熱い友情も育んじゃったし。
次いで二年間は料理や経営の専門家のところに弟子入りして、夢を実現するための準備を調えていったのぉ。なんでもコツコツやるって大事よねぇ。
そうして、迎えた二十歳の誕生日のこの日。
「いらっしゃいませ。ようこそ、カフェ“異世界のカケラ”へ」
あたしは一国一城一店舗の主になったのよぉ。といっても、昔の仕事場みたいなお店じゃなくて、昼間営業の喫茶店ね。
昔からケーキ屋さんやカフェに憧れてたのよねぇ。お菓子を作るのも好きだったし、よくお店やお友達のところに差し入れしたわぁ。
それに、この国ってお菓子の種類が少ないみたいなの。今更だけどぉ、うちの家って王都に屋敷を構える伯爵家ってやつらしく、そんな我が家のデザートでもケーキのようなお菓子は出てこなかったし、王都や他の都市を回ってもお菓子の種類は少なかったわ。もう、頑張って探したのに、あたしの好きなミルフィーユちゃんも甘辛煎餅ちゃんも板チョコちゃんも無かったのよぉ。無念だわぁ。
まぁ甘味料自体が特殊なのもその理由の一つだと思うんだけど。びっくりしちゃったわ、なんとこの世界、砂糖の木、というか、その実を砕いて煮詰めれば濃厚な砂糖水のような液体が出来る樹木があるのよぉ。初めてその実を手にしたときは、つい齧りついちゃったわ。硬い皮の感触しか記憶にないけどねぇ。
それで、その液体をそのまま使ったり、乾燥させて固形の砂糖にしたりして、料理に使うんだけどぉ、その砂糖の木がものすごい秘境にあるのよ。しかも、凶暴で見た目が可愛くない魔物がうようよいるようなところに。だからその木、というか実自体めったに手に入らないし、木の栽培も難しいらしくて、甘味料は非常に高価とされているみたいねぇ。 一応他にも、サトウキビみたいな植物や果物から甘味料を取り出すという手もあるんだけど、やはり栽培や甘味料を作り出す過程が難しく、これも一般的ではないようなのぉ。
だから、甘味料自体が手に入りにくく、お菓子の発展が遅れているみたい。
でもねぇ……うふふふ、あたし頑張っちゃったわ! 何と、冒険者時代――かっこいい響きでしょ?――にたどり着いた秘境で、隅々まで探し回ってようやく見つけた砂糖の木を持ち帰って、栽培に成功したのよぉ!! ここに来るまでに血の滲むような苦労があったけど、私は諦めなかったわぁ! そう、全ては夢、そしてミルフィーユちゃんと甘辛煎餅ちゃんと板チョコちゃんのために!
あ、どうして喫茶店にしたのかって、気になっちゃう? うふふ、それはねぇ、色んな国に行って都市や街を見てきたけど、喫茶店、というかお菓子を売ってる店ってまったくと言っていいほど無かったのよぉ! お菓子はせいぜい貴族やお金持ちの家で、シェフが作るくらいなんですってぇ。それって大変なことでしょう? だって、体と心の癒し、甘く蕩けて至福の時を与えてくれるスイーツちゃん達を、なかなか食べられないってことだもの。疲れた時やイライラしている時なんかはやっぱり甘い物よ。エリザベスみたいに、泣きながら大食いするのも良くないけどねぇ。
だから、あたしがみんなにささやかな幸せを届けちゃおうって思ったの!
他にもやりたいことはたくさんあるけど、徐々に手を伸ばして行くつもり。
お店の場所は、王都のど真ん中にある噴水広場に面した一角で、噴水広場を行き交う人を眺めることができるガーデンスペースも併設してあるわぁ。ここは王都の一等地で、どうしてこんなところにお店が持てたのかというとぉ、資金の問題だけじゃなくて色々な事情があるんだけど……それはまた今度ということにするわぁ。しいて言うなら、あたしの魅力のおかげかしら。
お店の外観は、本当は可愛らしいカントリー風にしたかったんだけど、ほら、今のあたしって落ち着いた雰囲気の洗練された美青年じゃない? だからあんまり可愛いのは似合わないかなぁと思ったの。だから、どちらかというと落ち着いた雰囲気のお店にしたわぁ。そんなお店のカウンターに佇む美青年……うっとりしちゃうわねぇ。
お店の左隣は食堂で、右隣は雑貨屋さん。他のお店も、宿屋やパン屋、肉屋に青果店などが、噴水広場をぐるりと囲むように設置されているの。時々屋台も出てたりする、すごく賑やかで、良い所よぉ。
その後、王都初――というか国初、もしかしたらこの世界初かしら?――のカフェは連日かなりの大盛況。あたしの悲鳴が止まらないわぁ。
季節の果物の乗ったタルトちゃんや定番のショートケーキちゃん、ふわふわのシフォンケーキちゃんにクリームたっぷりのロールケーキちゃん等、たくさんの種類のケーキ達が店内で食べられるようになってるのぉ。それに合わせて、それらのケーキや、クッキー等の焼き菓子の持ち帰りもできるわよぉ。
座席数も、四人掛けの席が店内に五席、ガーデンスペースに二席、あと二人掛けのものが店内に二席とガーデンスペースに一席あって、それからカウンター席が五席ほどなの。それらの席は常にほぼ満席だし、持ち帰りのお客も引っ切り無しなのよぉ。
朝のうちにかなりの量のお菓子を作って、前の世界のイメージで作り上げた冷蔵庫に大量に保管しておかないと、あっという間に売り切れちゃうの。想像以上の大反響に、お店開いて良かったぁと充実した気持ちで日々過ごしてるわ!
キャサリン、マーガレット、エリザベス、そしてお店のみんなぁ、あたしはこの世界で精いっぱい生きてるわよぉ! だからあんた達も、道端の雑草のごとく図太く逞しく生きるのよぉ!