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とある魔王

薄い本……なぜ厚い本はないんでしょうか。

書き手に根性がないんでしょうか。


 ヴァルはその薄い冊子から顔を上げて、げんなりとテーブルに突っ伏した。

「行儀悪いよ」

 窘める親友も、しかし似たような顔つきだ。さもあらん、この本を読んだ男ならば、年齢国籍問わずだいたい悲しい気持ちになるに違いない。ついでに種族属性問わず悲しい気持ちになっている。

「いや……わりと免疫ついたつもりでいたんだが……」

「むしろ慣れた方がいやだよ。BLなんだから」

「……お前慣れてるじゃねぇか」

「ぜんぜん。現実逃避してるだけ」

 そう。

 通称薄い本。正式名称十八禁指定図書。主に漫画だがごくたまに小説も出回っている。あとだいたいにおいて、ある作品の設定やキャラクターなどを用いてそっち方面へ話を引っ張っていく私的出版本。平たくいうと同人誌。

 日本という国の経済を影で支えているとも囁かれる、文明の一端がここにあった。なぜか。

「これすごいぞ。ペンとペン入れだそうだ」

「ああ、擬人化って奴ね。今はやってるらしいよ。戦国武将と城とか」

「節操ねぇな。ってか無機物持ってくる時点でわからん」

「ほら、今さらうるさくなってきたじゃない。権利がどうたらって。無機物、しかもどうやったって権利主張できないあれやこれやならやりたい放題ってことじゃないの?」

「なるほどなー」

 と、日本サブカル界における問題を論じてみたりしているのは、ただの逃避である。ヴァルにはすでに、薄い本を再びめくる気力は残されていない。

「おおーい!」

 なにやら元気のいい声がしたかと思うと、二人がまったりしていたテーブルに向かって、すごい勢いで近づいてくる少年がいた。

「ん? あれ? あんた達誰?」

 あっけらかんとしている。年頃は十代後半といったところ、剣を手にしているが、城の警備兵か何かだろうか。

「いやぁ、ここのくまたちの用事でちょっとね。さっきまで次女の姫君がいたんだけど」

「え? そうなんだ。悪いな。あいつどうせそんな感じの本のことで忙しいんだよ」

 そんな感じの本から心持ち目を逸らして、彼は言った。何が書いてあるのか、読まなくてもわかるらしい。

「ごしゅじん~~」

 たふたふと、どこからともなくくまが現れて少年の足下にもふっと抱きついた。

「おー、ただいま」

「おかえりなさいなのじゃ~」

 少年はくまを抱き上げ、頭や身体を撫でている。くまはとても嬉しそうだ。

「ところで、くまの用事って何だ?」

 懐くくまをだっこしたまま、少年は向き直る。これにはルーが答えた。

「そろそろメンテ……定期検診の時期だっていうんでね。身内が来る予定になってるんだけど、忘れ物したんで届けに来たんだ。そしたらまだ到着してないっていうから、申し訳ないけど待たせてもらってたんだよ」

「そうだったんだ。ライムどこ行ったんだろうな。お客さんほっぽって」

 恐らく腐的な用事だと思われたのだが、ヴァルもルーもあえてとぼけた。

「魔王の次女姫呼び捨てにするってことは、あんたもしかして――」

「ん、ああ。ライムは妹だよ。俺はセロ・ファーレン。よろしくな」

 ファーレン。それは魔王の姓にしてこの辺り一帯の地名でもある。

「つまり王子様ってことか」

「やめてくれよ。そういうの気にしてないんだ」

 少年は屈託なく笑ったが、ヴァルは相応の礼を尽くすことに決めた。彼の妹にも、同じようにしたからだ。

「名乗りが遅れたな。俺はヴァル――ヴァルディエル。そしてこいつは」

 視線で、示す。親友の翠玉の瞳がその一瞬、違う輝きを見せたような気がした。

「ルシファー。こことは違う世界の魔王だ」

 悪魔達の長、かつて天上で最も光り輝いていたといわれる存在。

「よろしくー」

 そんないかめしい経歴や肩書きをすべて嘘くさくする緩い笑みと口調で、ルシファーはひらひらと手を振った。 


足にくまつけて、セロさん登場( *´ー`)

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