とあるぬいぐるみ
もふもふぽてぽて( *´ー`)
ファーファのくまさんより)柔らか素材
「こっちのクッキーのほうがおいしいのじゃ」
「うむ、おいしいのじゃ」
茶色、焦げ茶色、白、オフホワイト……。
同じ系列でも少しずつ異なる色彩の、もふもふした集団が嬉しそうにクッキーを食べている。
舌っ足らずの高い声といい、無心にクッキーを食べる様子といい、どんなささくれだった気持ちの者でも三秒後には和んでいそうな光景だ。
しかし、魔王の次女の客二人、謎の美形コンビにとっては見慣れたものにすぎない。
「遅ぇな」
いらいらと、新しいたばこに火をつけるヴァル。ちなみに、使われているのはたばこの葉ではなくハーブなので、「たばこ」と呼んでいいものかどうか。
「寄り道してるにしても、遅すぎる気がするね」
ルーも、何杯目かわからないお茶のカップをソーサーに戻す。
「様子を見に行ってみようか?」
「とはいっても、気配も辿れねぇしな。あいつらのは探知できねぇし」
「だねぇ」
どこかで、鳥が鳴いていた。
「おきゃくじん」
もふもふの中の一体が、ヴァルのズボンの裾を引いた。
焦げ茶色の、まんまるい顔とまんまるい耳、まんまるい身体の直立二足歩行形態も可能なぬいぐるみ、その名を、「くまーん」という。
名前の通り、くまのぬいぐるみである。
「ごしんぱいなら、わしらがていさつにいってくるのじゃ」
「お前らが?」
「うむ! おなかいっぱいになったから、たくさんうごけるのじゃ!」
一匹が言うと他のくまーんたちも唱和し始める。
「そりゃいいけど、お前らのご主人の許可は?」
「うむ! もらってくるのじゃ!」
「きっとだいじょうぶなのじゃ。そろそろはいたつのおじかんなのじゃ」
「うむ。ついでにていさつしてくればいいのじゃ」
「配達?」
ヴァルは首をかしげた。そう言えば、いつの間にかホステス役の少女が姿を消していたことに、今になって気づく。
「きょうのごほんはどんなごほんなのじゃ?」
「たぶんこのまえのぎじんかのつづきなのじゃ」
「でも、ちょうへんシリーズのつづきもまたれているのじゃ」
「じひしゅっぱんはたいへんなのじゃ」
「……お前ら、どんな用途に使われてるんだよ」
突っ込まざるを得なかった。
ちなみに、この愛くるしいくまたちがなんの運び屋をやらされているのか……。
哀しいことに、ヴァルもルーもすでに知っていた。
だからこそ、二人は優雅に紅茶を飲みながら、口を閉ざした。