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とある事故

メイズ君絶好調 (ノ>▽<)ノ


「そうですか、では日本では大学に行ってらっしゃったのですね」

「ああ、まぁな。神官が説明するには、最も清廉で強靭な魂の持ち主が喚ばれる魔法でこの世界にやって来たんだ」

 閖吼がニコニコと相槌を打ち、メイズは調子よく語りまくっている。

 幻は聞き流しながら、横を歩くブラウに視線を流す。案の定その顔には、『来なくても良かったのに』と言いたげな眉間の皺が刻まれていた。

 幻は無言でケインを見やり、従兄弟の視線にケインはごまかし満載の脳天気な笑顔で応える。そしてメイズの名調子が街道に響いていく。

 五人に増えた一行は、先刻からこの歪な緊張感を引きずって歩いていた。

 約一名を除いて。

 この場の空気を全く読まない彼は、ある意味真の勇者だろう。

 ドド……

 ケインの目の端で、ブラウが深々とため息を吐いた。色んな事を飲み込んでるんだろうな、柄にもなくそんな事を思う。

 ケインが気付く事を閖吼が見逃す筈もなく、美味しそうな苦悩の色に形の良い唇が弧を描く。

「そういえば、すっかり聞きそびれていたのですが、お二人は何故あんな場所に倒れていらしたのでしょう?」

 無一文の行き倒れの理由なんて、察してやろうよ!

 いっそう深くなったブラウの眉間を見て、ケインは心で叫んだ。

 ドドドド……

「いゃあ、人助けなんだ」

 照れたようにメイズが頭を掻く。

 ピキッと幽かな音がブラウからしたのは、こめかみの血管か。はたまた握り締めた杖からか?

「山の峠で財布を落として困っている娘さんがいてな、買い物したら家から金持って来るんで貸してくれって頼まれて、返してくれる為の待ち合わせ場所があそこだったんだ」

 どこから聞いても立派な寸借詐欺だ。

「……だからって、五日もバカ正直に待つ必要は無いだろうが」

 ボソッとブラウがこぼす。

「有り金叩いたし、きっと色々事情があって遅れてるんだよ」

 飢餓と脱水で倒れなかったら、いつまで待つつもりだったのか。勇者頭はおめでたいらしい。

 いや。金を諦めないのは、結構しつこいのかも知れない。

 付き合うブラウもどうかと思うが。きっと色々事情があるのだろう。

 ドドドドド……

「でも、そいつ何で峠に居たんだ?」

 幻は思わず突っ込んだ。市場ならまだしも峠に店はそうないだろう。

「材木の買い付けだそうだ」

 詐欺の極意に突拍子もない話の方が食いつきが良い、とかいうのがあるらしいが、これを信じるメイズの脳みそがかなり心配になってくる。

「それは良いことをなさいましたね」

 閖吼がにっこりと煽り立てて、おめでたい勇者は我が意を得たりと目を輝かせた。

「そりゃそうさ、俺はこの世界を護る為に喚ばれたんだからな!」

 ドドドドドド……

「この世界には、魔王っていうすっげー悪い奴がいてな、そいつが聖教国や色んな人々を苦しめているんだ」

 メイズは腰に履いた剣をスチャっと引き抜き天に掲げた。金髪碧眼と今日着ている緑の服とが相俟って、緑の長い帽子が足りない気がするヒーローっ振りだ。

「この聖剣で、俺が魔王を倒す!」

 (スカイ)掲げ(ウォード)(ソード)を見上げながら、彼が決意を高らかに宣言する。

 しかし幻もケインも、陽光に煌めく剣など見ていなかった。鞘からの抜き方から腕の返し方、掲げる動作の全てに眉を幽かに顰める閖吼を見ていたからだ。

 その視線は、『なっていません』と、今にも竹刀で手と肩と腰を叩いて指導を入れそうな雰囲気が満ち溢れていて、『富士山コース』だの『地獄百景』だの言い渡されるのは確実だった。

 なにしろ閖吼は、和風美女の楚々とした姿からは想像つかない居合いの達人だ。いざ訓練となれば、確実に鬼と化す。

 特にケインは、息子としてその剣技を伝授されるに至るまでの恐ろしい日々を思い返して、ぶるりと背をふるわせた。

 ドドドドドド……

 因みに、『地獄百景』や『富士山』は、彼らの家の広大な庭に造られた超ハードな特訓コースの事である。

 小さい頃からそこで扱かれてきたケインや幻には正に庭だが、素人がいきなり放り込まれたらさぞかし地獄を見ることだろう。

 ドドドドドドドド……

 決めポーズで悦に入る勇者の足元を緑と赤の群れが走り抜けた。

「ん?」

 サワサワと脛を撫でるモノに目をやれば、それはたわわに葉を茂らせた赤い根菜類。金時人参によく似た何かだった。

「何で人参が走ってるんだ?」

 ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

 メイズが首を傾げたのと、今まで遠くに響いていた地鳴りの様な音が背後に轟いたのと、ケインが閖吼を、幻がブラウを抱えて高く跳躍したのが同時だった。

「え?」

 慌てて振り返ったメイズの目に飛び込んできた光景は、白やら黒やら茶やらブチやらのモコモコな固まりが高速で自分に向かって来る様で……

「退くぞよ~」

「危ないぞよ~」

 気の抜けた警告を聞いた時には、彼の体は宙に舞っていた。


制限速度は守りましょう。

そうです。この子らは温泉の従業員です

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