とある遭難者
マ○クではなくマ○ドであると主張します。
「まさかハンバーガーで感涙されるとはな……」
春麗らかな街道からちょっと外れた林の木陰。そこにはウッディなキャンピンクテーブルが置かれて、五客のディレクターズチェアが囲んでいた。
呆れた声をもらしたのはその内の 一客に座った幻で、彼は『春の桜フルーリー』を啜る。実は甘党なのだ。
「ケインが、メニュー全制覇などというお馬鹿をしたのも、おかげで意味ができましたね」
にっこりとアイスティーを飲みながら微笑む麗人の前には、こんもりと盛られたハンバーガーの山。包み紙には誰でも知ってるまぁるいMマーク、言わずと知れた若者の胃袋の親友だ。
「先見性と言って欲しいなぁ。二人も助けたんだから」
ニコニコとテラ○ックをパクつくケインの横には、二人組の少年が物凄い勢いで紙ゴミを作っている。
「うみゃいうみゃいうみゃい」
金髪の少年が意味不明なうなり声を上げつつ滂沱の涙を流しながら、ハンバーガーとポテトにチキンを一緒くたに口に押し込み飲み込んで行く。
その横で、亜麻色の髪の少年がゆっくりと三っつ目のハンバーガーを噛み締めていた。
「あまりいきなり食べ過ぎると、胃には良くないんですよ」
麗人の苦笑混じりの忠告に、彼はうっすらと頬を染めた。
「その……助けていただいて、ありがとうございます」
何か悔しいのか、僅かに翠の目を眇めて、彼はまずは礼を言った。
気難しそうな少年を気にする風もなく、麗人は笑みを深める。
「どういたしまして。医者として、当然のことです』
あ、ターゲットロックオン。
幻とケインは同時にそう思った。
麗人は、亜麻色の髪の少年のようなプライド高そうで警戒心満載のタイプをからかうのがとてもお気に入りだから。
幻は自分の少年期と重ねて心の中で十字を切り、ケインは親の底意地が悪いのは知っていたが、お人好しなのも知っているから、大して心配はしなかった。見た目同様に対照的な二人である。
「ところで、お名前を教えていただけますか? 僕は津川閖吼。この子はケインと幻です」
「津川ケインだよ、よろしく~」
「竜造寺幻だ」
この名乗りに反応したのは、金髪の少年だった。
ぴょこりと顔を上げて三人を見回し、おもむろにコ○ラのLカップを掴むと一気に吸い上げる。
ちゅぅ~~~~~~~
ほっぺパンパンにものが詰まっているはずなのに、その吸引力はすごかった。
ごっくん。
そして全てが飲み込まれる。
幻は食道の柔軟性を調べてみたい興味に駆られ、ケインはくまーんみたいだと和んだ。やはり対照的な二人である。
「もしかしてあんたら、日本人か?」
何やら期待に目を輝かせて身を乗り出した少年に、麗人=閖吼はたおやかに頷く。
「ええ、そうですよ」
とことん和装な黒髪麗人の微笑みに、金髪少年は更に身を乗り出す。
「マ○ドに着物だもんな、もしやとは思ったんだ。これまだまだ温いし、この世界に来たばっかりじゃないか?」
なにやら一人で納得し始めた金髪少年の横で、亜麻色の髪の少年は嫌な予感満載な表情でこめかみを押さえている。
彼にとってはかなり迷惑な道連れらしい。
と、なれば、閖吼の方針は決まったようなものだ。
「ええ、そうですよ」
閖吼は実に当たり障りなく、真実のグレーゾーンギリギリな返事をした。間違いないし嘘でもない。
『ばっかり』をどれぐらいの時間幅に設定するかの違いだ。
彼らは三時間ほど前にこの地にやって来たからだ。ハンバーガーが時間を止めたようにアツアツだったのは、この際触れないでおこう。
「少々手違いがありまして、人里に向けて歩いていたところです」
幻の額にうっすら青筋が浮かび上がり、同時にケインの口元が引きつった。
亜麻色の髪の少年はそれだけで何かを察した様だが、金髪の方は頓着しない。多分他人を気遣う技能は無いのだろう。
「よし、あんたら運が良いぜ!」
少年はおもむろに立ち上がると、胸を反らせてそこに自分の親指を突き立てた。
「同郷のよしみだ。この勇者メイズが、あんたらをきっと地球に帰してやるぜ!」
ドドーン。
少年の脳内で、効果音が効果線と共に輝いたに違いない。
そう確信できるドヤ顔だった。
( *´ー`)どどーん