とある捕われ貨物
( *´ー`)いきなり登場。
彼は自分が簀巻きになっているのに気がついた。
後ろ手に縛られ、なんか葦簀によく似た粗く草を織ったものにくるまれた上からぐるぐるに縛られて、やたらに揺れる床に転がされていた。
目はしっかりと目隠しされ、ついでに猿轡までされているから、肌や身体に感じた事で推測しただけだが……
ガタンと床が揺れ、一瞬浮き上がって強か身体を打ち付ける。
「ぐぅ!」
思わず声が出た。
もう何度転がる丸太な気分になった事か。そもそも顔から落下して目が覚めたのだ。
ここがトラックの荷台だとしたら、道が悪路かかなり運転手が下手かサスペンションがいかれているか。
でも彼の耳と鼻は、全く違う情報を伝えてくる。
カポカポと多少不規則に響く音と、ブルルと鼻を鳴らしたり荒く息を吐く生物的な音。ガラガラ転がりギシギシ軋む木材の音。音に連動する破壊的な振動。
遠くから鳥の鳴き声らしきものが聞こえ、土埃と花や草の匂いがよく乾いた木板のと混じって嗅ぎ取れた。
とある事情から家族で最も鼻と耳が良い彼には、これらの音の響き具合や匂いの流れでほぼ現状の正確な全体像が解る。
それはもう獣レベル。
本職である銀河連邦警察捜査官の捜査中など、K9要らずでかなり便利だ。
色々弊害もあるから、あまり嬉しくは無いけれど。
とりあえず自分は、軽トラくらいの木製の荷台に簀巻き状態で放置され、荷台には布製の覆いがあり、陽光を遮り干物の未来から守ってくれてはいる。蒸し暑いから外はかなり過酷かも。直火じゃなくて良かった。しかし、同時に外から荷台は見えず、誰か善意の救い手が現れる可能性も遮断している。
台の下にはサスペンションも無い木製のシャフトと木製の車輪が付いていて、現在稼動中。
荷車の動力源は奇蹄目らしき大型動物で、時折放屁する体内ガスの匂いから草食系だと解る。
蹄が踏みしめる路面は、舗装もされていない田舎道。ついでに整備もされていない。きっと轍くっきりタイプな道に違いない。おかげで打ち身だらけだ。
まあ、数分で痛みも多分痣も消えるけど。
紐状のものが振られる音は、御者が暑さに苛立っているのを教えてくれる。
つまりなんだ。
彼はかなり前世紀の乗り物で運搬されているらしい。
こういうの、なんて名前だっけ?
確か科学文明排泄主義者が集まった、最近気合いの入った古代生活が認められて無形文化財に指定された、火星のフォークロアコロニーで、義理の従兄弟夫婦が使っていた、馬に牽引させる車。
ああ、馬車だ。
乗り物の当たりを付けて、彼ははて? と首を傾げる。
自分は家に居たはずなのに、なんでこんな事になっているのだろう。
何だか煩くなってきた心臓の音を必死で無視しながら、彼は事のはじめを思い出そうと息を整える。
心臓の音が知らせる、一人で居るという恐怖を意識しないように。恐怖に自分が負けないように。
恐怖に負けて自分の制御を失ったら、大変なことになるから。
荷台の床に跳ね飛ばされながら、彼は記憶を手繰っていく。
( *´ー`)さて、コイツは誰でしょう?
ヒント。津川系の連載物にもう出ています。