とある魔改造
前回短かったので。今回はちょっと眺めです。
本当にちょっとですけど。
津川とコラボ設定が入ってます( *´ー`)
「こっちぞよ~」
「おそいぞよ~」
「ざんぞうぞよ~」
「くそー! だまされた!」
ぬいぐるみの残像にだまされるなよ、という突っ込みは、誰からも為されなかった。みんなスルーすることに決めているのだ。無駄だから。
「ぬいぐるみ~ず、腕を上げたな」
「見事な足さばきだ」
幻とケインは、無駄に批評コメントをしてみている。しかし勇者については一切触れない。
「いずれ天下も夢じゃないな」
「そうだな」
「闘いはこれからだ」
打ち切りになった少年漫画みたいなことを言っている。
「あの数体はリミッターが解除されているな」
が、見ているところは見ていたようで、ケインは従兄の呟きに首をかしげた。
「リミッターって?」
「本来、ぬいぐるみの機能は八歳児程度に設定してある。成人男子に追いつけないような移動速度はあり得ないし、ましてや交通事故で人は飛ばない」
「ふーん」
ケインは今一反応が鈍い。畑違い故だろうが、幻はしかたなく噛み砕いて説明した。
「緊急事態において、初めて力や速度等のリミッターは解除されるようにしている。家にいるのはあんな動きはしないはずだ」
「ああ、確かに」
ぽんとケインは手を打った。
エリー館のぬいぐるみ~ずは確かに非力だ。
たとえば、重いものを運ぶときは数体で協力しているし、ぬいぐるみ~ずが全力疾走している(らしい)横を、家族の大人達が楽々追い抜いている様も何度か見たことがある。
足にもぶつかられたが、撥ね飛ばされた事もない。
「他ので試してみよう」
幻は、その辺でもふもふ遊んでいたうさうさを数体つまみ上げた。
「はなしてほしいぞよ〜」
じたばたするぬいぐるみを再び検品し始めた幻は、しばらくして薄く笑みながら唸りはじめた。
「どう?」
少し不気味な様子に若干引きつつも、ケインには幻が面白がっているのは判っている。何がしかが彼のツボに嵌ったのだろう。
なにしろ付き合いは長い。それこそ生まれる前、胎児の頃からだ。
しかし、普段恋人の前でさえめったに笑わない男が低い笑い声を響かすのは、正直かなりおどろおどろしい。
「イルクのやつ、結構やるな」
満足げに顔をあげて、幻はやっと不気味な含み笑いを止めた。
「こいつらイーちゃんの製造品?」
ケインがぬいぐるみを覗き込むと、紫の瞳が一瞬鮮やかな碧い光を放つ。
これは、彼に内蔵された探索スキャンが作動した事を教えている。
彼の体は、とある事情によって親から貰った生身を無くして幻謹製のソフトシェルなアンドロイドボディだった。X線も超音波スキャンもお手の物だ。
「うん……確かに、幻のメカじゃないね。元素還元炉が見たことない形だし、そもそも君が付けるDVマークが付いてないや。代わりのこのマーク。どう読むんだい?」
スキャンの一瞬、表情を削ぎ落とした無機質な気配を纏ったケインは、まばたき一つで元に戻る。
閖吼とお茶してなにやらからかわれているらしいブラウや、未だうさうさの幻影に翻弄されているメイズが見たら、違和感を感じるだろう人間味の欠如した無機質さ。
幻はそんな事は気にせずに肩をすくめた。
「ファーレンの意匠化だな」
それは、この魔王領を治める王家のファミリーネーム。つまり、魔王領製そのまんま。
「第一、あいつが連れて帰ったぬいぐるみ〜ずは、一通り一体づつだし、こっちで造るのが目的だったんだしな」
ケインのナンパにはただの一度もなびかずに、作業する幻の一挙一動を食い入る様に見つめていた、黒髪の留学生を思い出す。
魔法の世界で最大の魔力を誇る家の長女に生まれながら、全く魔力を持たない不幸を背負った少女。
彼女が魔法以外の力を求めて、とある伝手を手繰り津川家にやって来たのはどれほど前だったか。
十年程の留学を終えてイルクが実家に帰ってからも、技術交換や情報交換に盆暮れの贈り物や何かのおすそ分け等々。次元を超えた交流が続いている。
彼女は幻に心酔していた。色恋ではなくその知識と技術に。
アンジェラが嫉妬と無縁な聖少女で良かった。本当に。
「つまり、造って増やしたのか」
納得しつつ首を傾げる。じゃあ幻は、何が面白かったのだろう?
「ずいぶん得意げに、メンテナンスに来いなんて連絡が来るから、何かあるとは思っていたが……な」
拾い上げたうさうさの目を覗き込む。
「このぬいぐるみ〜ずは、食った物を未知のエネルギーに変換して動いている。つまり、元素還元ならぬ魔力還元だな。これはこの世界だからこその技術だ。よくもここまでオリジナル化させたものだ」
弟子の成果に、幻はかなり嬉しそうだ。
( *´ー`)そして温泉の従業員になるのです。
人参も量産なのです。




