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とある道端で

こいつらは、「無敵勇者一歩遅れる」に登場するアリィの実家の連中です。

閖吼はお月様の方で活躍中。

「うさくまぶたぷーけろりんにゃん♪」

 春麗らかな魔王領の街道に、陽気な歌が木霊する。

「みんなの友達、いつでもいっしょ~♪」

 名調子を朗々と響かせるのは、日差しにキラキラ光る赤毛の青年。ストロベリーブロンドとか云う毛色らしいが、ふわふわの髪質は脳みその出来具合に合っているようだ。

 整いまくった甘いマスクへ更にとろけた笑みを乗せて、彼は上機嫌で隣の二人へ手を振った。

「さぁいっしょに~さん、はい!」

「……恥ずかしいから、横を歩くな」

 とてもとても嫌そうに呟いて、わざわざ半歩下がったのは、長身で黒髪の青年だった。

 長閑な日差しに天使の輪っかが煌めいた、ちょっと長めなワンレン髪を一括りにして肩に乗せている。

 顔立ちはかなり渋めの美形だ。眉間の皺さえ様になるのだから、美形は得だ。

「この歌は一世を風靡したCMソングじゃないか!」

 彼の苦情にさもショックを受けた顔をして見せた赤毛の青年は、信じらんないとばかりに首を振る。

「今も銀河系を席巻する人気ぬいぐるみ~ずの設計者として誇らしく歌えよ、(ゲン)!」

 たかが変な歌に文句を付けられた程度で、ここまで悲壮な声を出す事もあるまいに。彼はどうにもオーバーアクションが過ぎるようだ。

「ケイン。暇なら歩け」

 幻は取り合う素振りもない。

「ひどいや、それが愛する従兄弟にいう言葉?」

 両頬に手を当てて"ムンクの叫び"をしているお気楽青年に、幻を挟んだ向こうからクスクスと軽やかな笑い声が寄越される。

 背を流れ、膝まで越す長い黒髪は艶やかを通り越して煌びやかに光を弾き、細面な容貌に浮かぶ少し寂しげな儚さが強調されていた。二人よりは小柄な細い姿態を紫紺の紬で包み隠し、帯は銀黒のめくら縞。片羽千鳥に結ばれていたりして。胸に抱えた友禅の風呂敷包みと相俟って、こんな田舎の街道を歩くには奇妙な程に完璧な訪問着の麗人だ。

「マミーまで笑わないでよ」

 む~っと拗ねた顔をして、ケインは足元の石を蹴り始めた。

「いいもんいいもん。どうせ僕なんてみそっかすなんだ」

 ぶつぶつ文句をこぼす息子に、和装の麗人は更にクスクス笑う。

「君が幻をからかうからでしょう? あの歌が鬼門なくらいよく知っているでしょうに」

 麗人の言葉に、ケインがてへ☆と舌を出し、幻の眉間にしわが深まる。

「だってさ、アンジェラとアザゼルとレーイに樹歌が歌ったんだよ。可愛かったなぁ……」

 うっとり。

「清楚なアンジェラ、妖艶と神聖が同居するアザゼル、可憐なレーイに愛くるしい樹歌。全年齢向けに取り揃えた完璧美少女達軍団が歌うCMが、老若男女を魅了したんだよな~」

「ノアとヘンリーに拝み倒されて出演したんでしたね」

 麗人のため息混じりなしみじみとした口調に、幻のこめかみに青筋が浮き上がる。ピキピキと音までしてきそうだ。

「そうそう。一回だけって約束だったのに、もう一度ってヘンリーがうるさかったよね。挙げ句の果てにグラン・マ(おばあちゃん)まで出てくれ、な~んて言い出すし」

 どうやら彼らは、メディア垂涎の美少女や美女が家庭内で賄えるらしい。

「……ファンクラブだのストーカーだの自称恋人(思い込み野郎)だの守る会だの見守る会だの。妙な輩が涌いたな」

 ボソッと幻は低い声を出す。

 春麗らかな街道は、その近所だけ薄暗く、温度が下がった気配がした。

 少し離れた林から、一斉に小鳥が飛び去っていく。

「良いじゃん良いじゃん。家の門は、幻が見張って侵入者撃退してたんだし、塀をよじ登っても空からでも、家には入れないんだしさ。レーイもアザゼルも自分で蹴散らしてたし~」

 ヘラヘラと笑うお気楽青年に、地の底から響かせる様な声が追撃する。

「アンジェラは買い物にも事欠いた」

 アンジェラとは幻が溺愛する恋人である。

 そもそも話題となっているうさくまなんちゃらとは、彼が可愛いもの好きな彼女の為に設計制作したぬいぐるみ型ロボットなのだ。

 兎型のうさうさ。熊型のくまーん。豚型のぶたぷー。蛙型のけろりん。猫型なにゃんみー。

 つまり、うさくまぶたぷーけろりんにゃん。と、いうわけだ。

 八歳程度の知能を持ち、飼い主に合わせた個性を発揮した会話ができる。低速ながら自立歩行に軽貨物運搬で家事のお手伝い。動力源は通常の食事で、お菓子大好き。野菜も喜ぶという幼児の知育にも役立つ親切設計で、よく転ぶアンジェラの為に、緊急時には稼働リミッターを解除して、大人を抱えて迅速に運搬もできる。

 なかなかどうして、可愛いだけではない優れものだった。

 彼らの家をよちよちと歩き回るぬいぐるみ~ずを見た、とある財閥の御曹司兄弟が、是非とも自社から販売させてくれ、と幻……ではなくアンジェラに頼み込んで大々的に売り出された訳らしいのだが、以来動くぬいぐるみは子供だけではなくメルヘン&要介護な大人の心の友達として不動の人気を誇っているらしい。

 まあ、何にせよ。今現在彼らが踏みしめている大地の住人には、全く関係ない家庭の事情であるのだが……

「買い物に事欠くアンジェラを守って、ストーカーを千切っては投げ千切っては投げ。大活躍だったじゃないか~さすがは我が従兄弟」

 気温が更に下がった。よっぽど思い出したくないのだろう。

 隣を歩く麗人が、小さな苦笑を浮かべ、ケインはニコニコしたまま前方を指差した。

「あ、行き倒れだぞ」

 棒読みなのは、からかいすぎた自覚故か。

 とりあえずみんなで前を向き、幻が鼻を鳴らす。

「一キロ先から見えていた」

 視線の先には、街道端に重なるように横たわる二人の人影。見事な行き倒れだ。

「いやん、幻ちゃんったら目がいいんだから」

「お前も同じだろうが」

 あくまでもおちゃらけるケインに、ため息を吐きつつ律儀に答えて、幻は麗人を見た。

「どうする?」

「行き倒れを見捨てたら、職業倫理に反しますねぇ」

 反しなかったら見捨てる気満々な返事をして、麗人はケインに視線を送る。

「お昼休みの準備をしましょうか?」

 麗人の微笑みに赤毛の青年が軽い敬礼を返す。

「らじゃ」

 そして、笑顔の残像を残した長身がそこから消えた次には、既に二人の行き倒れを担ぎ上げていた。


( *´ー`)ひろわれたのはもちろん

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