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9 不完全な露呈

次回姫視点などとウソつきました。ごめんなさい。

相変わらずの王様と宰相です。そして短め。



「リューンのことだと?」

 落ち着きのない様子を見せる宰相に切り出されて、クラウドは滅多に口にしない隣国の事を考える。

「あの山間の小さな国か。確かミスリルの産地だったな。それがどうかしたか」

 リューンを挟んで向こう側には、国力が拮抗していて厄介な相手がいる。緩衝地帯であるリューンとの同盟は、意味があるとは考えているが、言いなりになる国なので外交は全て宰相に全権を委任していて、今まで問題など聞いたことがない。

「来春に戴冠予定の王太子が、明日到着予定なのですが、その前にお耳に入れておかねばならないことが……陛下はミスリルの鎧が献上された当時の事を覚えていますでしょうか」

「先の戦の前だったな」

「はい、もう五年ほど前になりますかと……あの侯爵が同盟を締結したころにございます」

「ああ」

 あの侯爵を処刑して四年、口の端に上るたびに、未だ苦いものがこみ上げる。


顔を顰めたクラウドに怯みつつも、宰相は意を決して切り出した。

「鎧の献上と共に、新たな側室をお迎えになったことを、陛下は―――――」

「側室だと?」

 言われて初めて思い出した。そうだ、当時宰相が、エイダ以外に側室を持つべきだと唾を飛ばして何度も進言してきた。エイダ以外の女など抱く気にならんと突っぱねたら、後宮に入れて捨て置いていても問題の無い姫を用意すると言われたのだ。




 国内の有力貴族なら、無視しても周囲が仲を取り持とうと躍起になるし、エイダの身にも危険が及ぶ、しかし弱小国の姫なら何もできないので最適だと説かれた。

『後宮にエイダ殿おひとりという状態が長く続けば、貴族たちからの不満も出てきましょう。迎えた姫に手も付けない陛下を見て、娘の後宮入りを企む気も起きなくなることでしょう』

『なるほど』

 正妃だけではなく、他の側室をという周囲の声にいささかうんざりしていた頃だった。幼少の頃より自分の教育係を務めていた宰相は、クラウドの心中を一番よく解っている、エイダの身を案じての意見なのだと、当時は思って頷いた。

 隣国から側室が到着した日は、執務が立て込んでいて日中は会っていないはずだ。それでも形だけは初夜を済まさねばなるまいと、嫌々後宮に足を運んだ時に、後宮付きの侍医が入室を止めたのだった。

『姫様は熱があるご様子、病が分かるまでは陛下の御身を近づけるわけには参りませぬ』

 その言葉に気が軽くなり、踵を返してエイダの部屋で夜を明かした。

 翌日、疫病の恐れがあるので城から出して療養させると、宰相から報告を受けてそれきりだった。離宮でも好きに使うがよいと言ったが、流行を怖れた宰相が、王都から離れた館を用意するというので任せた記憶はある。



「宰相の処刑後、リューンより行方を尋ねる文が何度も届いて、捜索したのですが、領地のどこにも居られなかったのです」

「なんだと」

 眉を顰めるクラウドに宰相が身を縮こませる。

「そのような報告を受けた記憶は無い。なぜ隠していた」

「隠していたわけではございません」

 宰相の口調が慌ただしいものになる。激高すると手が付けられないクラウドの気質を、現宰相は厭になるほど見てきている、特に前宰相失脚当時は、周囲全てを斬りつけようとせんばかりに、若き国王は尖っていたのだ。

「あの頃の陛下は、側室という言葉を出しただけで怒鳴るほど荒れておいででしたので……何度かお話は試みたのですが、最後までお聞き届けてくださったことが無く。……やはりその件は伝わっていなかったのですね」

「……そうか」

 クラウドにも非はある。確かに当時は女の話など聞きたくも無かった。エイダが死してからすぐに代えを進める貴族たちを、何度となく叱責していた。宰相が“側室”“姫”“王女”などと言おうものなら、立ち上がり剣を抜くくらいの事はしていただろう。


「リューンが良く黙っていたな」

「黙っていたわけではありませんが、黙らせたというのが正しいかと。あの国に駐留させていた中隊を引き上げると言えば声高に抗議も出来ませんでしょうし」

「それはまた、非道なことを。こちらの手落ちであろうに」

「我が国も混乱していましたから、表面化だけは避けたかったのです。王女の命に報いるために、ミスリルの買値を極限まで上げまして、しぶしぶ納得させて今に至ります」

 

 行方不明の王女は、王太子の同腹の妹。リューンの王は側室を持たなかったので、王位継承権も有しているのだ。

「仲の良い兄妹だったようでして、前宰相に宛てた手紙でも、私に送られた書簡でも、嘆き悲しむ国王の姿を切々と説いておられます。今回の謁見で露骨に言うことは無いでしょうが、陛下にはその事情をお含み頂いたうえでリューン王太子へのお言葉を選んでいただきたく――――」

「手掛かりは全くないのか」

「はい、当時はくまなく調べたのですが、王城を出てからの足取りすらも分かりませんでした」

 クラウドは首を捻った。何故自ら後宮に入れた王女を翌日には城から出したのか。エイダを使ってクラウドを籠絡しようとしていた宰相の意図が掴めない。


「あの晩、侍医が入室を止めたのも不可解だな。後宮勤めの医師は処分していなかったはずだが」

「そうですね、急ぎ探して話を聴きましょう」

 宰相は文官を呼びつけ、当時の医師を調べるように命じた。文官が下がった時点で、またクラウドに話しかける。


「陛下、王太子への件は」

「分かっておる。向こうもあからさまに敵意は出すまい。ただ、このままだと戴冠後寝返られる可能性もあるな」


 前宰相の置き土産は多々あったが、これで終いになると良い。そんな思いとは別に、クラウドは一つの仮定を心から消せない。もしやという思いが、打ち消しても打ち消しても燻っている。

「まさかな、疫病ならもっと辺境の地へ送るであろうし」



 小一時間ほど、他の問題を話し合っていたところに、先程の文官が戻り、宰相に耳打ちした。

「ほう、城内にいたのか」

「はい、現在王族以外の人間を主に診ています」

「後宮侍医だった者の事か」

 クラウドの声に二人が頭を上げた。

「はい、城内で侍医の補佐をしているようで」

「すぐに呼べ。直々に話を訊こう」



 急きょ呼び出されたかつての後宮侍医は、明らかに怯えていた。国王の御前に立った緊張だけではないと、周囲の皆が思うくらいに。

 クラウドは宰相を制して、直々に声を掛けた。

「五年前の事だが、隣国から後宮に入った王女を覚えておるか」

「は、はい」

「着いて早々、王女は熱を出したとお前に言われて、対面もせなんだままだったが」

 侍医の顔は蒼白で、膝ががくがく震えている。クラウドはわざと優しげに問うた。

「真、相違ないのだな?」

「も、も、申し訳ございません!」

 侍医が声と共に這いつくばる。斬られると思うてか、ひ、ひいと小さな悲鳴まで上げて。

「正直に言え。王女は体調を崩していたのか?」

「も、申し訳ございません。エイダ様が」

「エイダが?なんとした」

「エイダ様が、そのように陛下に伝えろと……でないとお前が自分に色目を使うと陛下にお話しすると言われて……」

 国王は嘆息した。エイダが小賢しい女だったのを知ったのは、あの悪夢のような夜からだが、今になってまた思い知らされるとは。

「では、疫病の恐れも、嘘であるのだな」

「それは先の宰相が、口裏を合わせるようにと……申し訳ございません!あの頃は逆らうことなど出来なかったのでございます!」

「なんとまあ、ご無体なことを……一国の王女様に」

 宰相までもが溜息を吐く。



 クラウドは少しの間、沈黙してからまた侍医に訊いた。

「解せぬことが多すぎる。お前、なぜ宰相が、一国の王女をあのように扱ったか、何か知らぬか」

 這いつくばったままの侍医が、僅かに頭をあげて話す。

「は、はい。私にも何が何だか……ひとつ驚いたことは、これは王女様がいらっしゃる前の噂話にございますが」

 話を続けるのを迷う侍医に宰相が「申せ」と促す。

「噂では隣国の王女は、己の容姿を恥じて常にベールを被っていると。美しさではエイダ様の足元にも及ばぬから、きっと陛下も興味を示さぬだろうという話でしたが実際は」

 侍医の震えながらの話に焦れて、クラウドは直に訊いた。まさか、そんなことがあるはずが無いと、自らに言い聞かせながら。

「どんな娘だったのだ」

「は、はい。後宮に入るまでは確かにベールを被ったままで、噂通りと思っていたのですが、診療の為に外していただいて驚きました。噂とは逆に美しいお方で――――」


 次の言葉に、クラウドは驚愕した。


「本当に、類稀な美しさで。抜けるような白い肌も、満月の夜空のごとき紫紺の瞳も、青く輝く銀の髪も…………あの様な不思議な色合いの髪は、私も初めて目に致しました」










顔か、顔なのか----感想欄に頂くこのセリフ、最近のお気に入りです(笑)


急ぎ更新したので、見直しが甘いです。変なところあったら教えてください。

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