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4 謎だらけの娘

 今回は二日にわたって行ってみるかと、クラウドは考えた。

 狩猟場の湖に眠る、夜明け前の水鳥を狙うのも一興と。

 森の娘の事は、心に引っ掛かるものの、あの陰鬱な夜会を経た今では、女の事を気にするなど愚の骨頂とも思えてきた。



 他国との謁見を終え、執務室に向かうクラウドに、護衛をしているウィルが声を掛けた。

「ずいぶん退屈なさっていたご様子で」

「ああ、まったくだ」

「政務はともかく、王族との謁見は陛下にしか務まりませぬから。側近が代わるわけにも参りませぬ」

 大国と外交関係にある国は多い。それらとの折衝を全て国王が行っていたら、身体がいくつあっても足りない。関係が安定している国については、宰相や大臣に実務を任せ、それでも形ばかりの儀式は避けられない。クラウドはこの世界でも多忙な国王であると言えよう。


「そろそろ気晴らしにも行けそうだから、我慢だな。狩りにはまたお前を連れて行くとしよう」

「あの森ですか?」

 少し驚いて、クラウドはウィルを見た。

「お前の方が気になってはいないか?」

「まあ、元の領主があの侯爵ですから……危険が全くないとは言えませなんだ」

「たかが女ひとり」

「僭越ながら、あれから少し調べました」



 執務室に戻ったクラウドは、侍従に茶を頼んで、腰を据えウィルの報告を聴いた。

「生活の様子では、完全に自給自足というわけでもなさそうなので、森の向こうにある村あたりと接触があるのではと考えまして」

 休暇を利用して行ってみたとウィルは言う。

「ほう」

「定期的に物を運ぶ商人は見つけました。長く彼の地で商いを行っている年寄りにございます。店の方は隠居して息子の代になっていますが、森の家だけは、自分が通っていると」

「それで住人の素性が分かったか」

「いえ、それが全く」

「なに?」



「その年寄りがまだ若い頃、成人前からの付き合いだそうです。取引の仕方も少々変わっていましてな」


 年寄りの要領を得ない話を纏めて、ウィルはクラウドに伝えた。

「毎月一度、満月の翌日、ロバに小さな荷馬車を引かせて、森の家に向かうそうです。途中牧童が使う手鐘を鳴らしながら。すると門が開けられていて、家はもぬけのカラ。テーブルに並んだチーズやジャム、ピクルスなどの瓶を引き取り、石盤に書かれた翌月の注文を確認して、持ってきた品を置いていくことになっているようです」

「直接は会わんということか」

「取引の最初から、そのような決まりだとか。初めに話を受けた男は父親だったので、既に死んでいて相手の事はどこの誰かもわからないと」


 金も介さず、物々交換とは。しかも一度も姿を現さずに。

 ますます謎だらけ、ということか。




「年寄りが話していたのはそれだけか」

「いえ、僅かな手掛かりでもと思いまして、根掘り葉掘り訊いてまいりました」

 骨が折れましたぞと、ウィルは軽く笑う。


「年寄りの話では、五年ほど前に小麦や塩の注文がほぼ倍になったそうで、この時期はあの家に二人住んでいたのではと。それから二年と半ばが過ぎたころ、家の奥、寝室に人の気配を感じて一度だけ、そっと覗いてみたそうです」

「それで?」

「奥のベッドに誰がが眠っていたのは分かったようです。それからしばらくして、小麦の注文が減ったので、おそらく一人亡くなったのだろうと。それからは特に変わりなく」

「ふむ」

「身体もいうことを聞かなくなりつつあるので、そろそろこの仕事も息子に引き継ぐかと考えているようですが、月一の楽しみで止められないと言っていましたな」

「何故だ?」

 森の中に入り、誰にも会わぬ取引が楽しみとは。


「ああ、こう申しておりました」

 ウィルがまた笑って話す。

「テーブルには商品と別に、昼食が置いてあるそうで。それがなかなかの味で、息子に食わせるのが惜しいと。時には菓子の包みもあって、孫の土産にちょうど良いと話していました」

「ふむ」

「森に行ったばかりなら、チーズを売ってもらうことも出来たのですが、既に売り切れていまして。魔女の手作り品や薬草は評判も良く、高く売れるので良い取引をさせてもらっていると笑っておりましたよ」

 魔女の住む森に近づくと祟りがあると言われていて、中に入るのはこの商人だけらしい。


 


 魔女の言い伝えは昔から、いつの間にか代が替わって今は若い娘か。

 何故一人で、あんな辺鄙なところに若い娘が住むのか、クラウドには想像すらつかない。

 これは、面白い。

 失った興味が、また湧いてきた。

 泉で見た娘が幻で無いのなら、今一度見てみたいと思う。



「そうだウィル、民の衣服を用意してくれ」

 警戒されぬにはどうしたらいいか考えるのも、城の生活に食傷気味なクラウドには、いい気分転換だった。



 そして数日後、クラウドはまた森の中にいた。

 村の狩人を装い、ウィルは待機させて、良く慣れた猟犬を連れて森の家に向かう。


 鳴子をやりすごし、けもの道を抜けて、気配を消しつつ犬を待たせて塀の中へ忍び込んだ。

 畑に人影がひとつ。


 いた。


 灰色の布を頭から被っていて、顔も髪も見えない。

 年寄りか若いのかすら分からぬ小さな後ろ姿に向かって、クラウドは歩を進めた。








連続更新もここまでかと思います。土日はちょっと忙しいので。

今後は週二回ほどの更新頻度かと。ご了承ください。

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