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10 回顧

またしても姫視点繰り延べ。次回、かな?





 凍り付いたクラウドに、宰相が怪訝な声を上げた。

「陛下?」

「狩猟場近くの森、そこで娘を見たという話を、覚えているか」

「ああ、はい。魔女の森でございましたか」

「そこに娘が一人いる。髪は光に青く透ける銀――――」

 宰相の目が見開かれた。




 すぐにでも、自ら迎えに行きたかった。しかし夏至祭を間近に控え、国王が執務を放り出し王城を離れると、大事となってしまう。


 隣国の王女を五年もの間、放置していた。


 この事実は公表すべきものでないと、クラウドは判断する。同盟の綻びを他国に知られてはならない。宰相も同じ意見であった。

 さしあたりは王女の身柄を保護しなくては。ウィルを呼び、小隊を指揮させて森へ向かわせることとした。


 詳細を伝え、指示を出した時のウィルの顔も、日頃には無い険しさだった。

「なんとまあ……おいたわしいことで」

「丁重に頼む」

「畏まりました」


 あの身なりで、森からすぐに王城に迎えることは出来ない。一旦宰相の屋敷に留め、衣服を改め姫に説明をして、リューン王太子の謁見後に王城入りし対面というシナリオを描いた。忙しい宰相に代わり、屋敷に居る夫人に一部始終を伝え、姫の世話を頼む手筈も整えた。一刻も早くとウィルが出て行ったあと、宰相と向かい合い、同時に息を吐く。

 

「いずれにしても、入城後の姫の対応で、露見する可能性は否めませぬな。惨めな生活を長く強いた我が国に、敵意を抱いていても仕方がありませんから」

「己の立場は自覚している印象を受けた」

 夫がいる、と叫び指輪を差し出したのが、その証拠だ。ただし国王であるクラウド本人には、指輪に関する覚えは全く無い。何か理由を付けて言い含めるために宰相あたりが持たせた物だという察しはつくが。




 夏至祭を前にして、いつもより過重な執務や会合の合間を縫って、この日クラウドは前宰相が遺したリューンとからの書簡と、現宰相が持っていたリューン国王、王太子からの手紙を読んだ。

 庇護を望む隣国に対しての、宰相の対応は狡猾そのものだった。危機感を募らせ、望む結果を引き出す手腕は、幼少の頃より間近に眺め、自らにも教えられたものだが、相手側の立場に添うと、無慈悲な物だという感が強い。

 ミスリル製の鎧を献上することで、同盟を望むリューンに、それでは足らぬと何度も言い募ったのだろう。書簡には成人前の娘を案じる父の思いが透けて見えた。

 そして現宰相への手紙には、こちらを刺激しないように細心の注意を払いながらも、娘の行方を尋ねる父と、それに倣いながらも自らが赴き探したいと訴える兄の苦悩が綴られている。


 一連の出来事を、宰相が勝手にしたことだと言うほど、今のクラウドは愚かではないつもりだ。気付くきっかけは何度もあったのだ。小国とはいえ一国の姫を、はなから(ないがしろ)にする話に、乗ってしまったのは他でもない、国王たるクラウドだ。

 そして腹心と寵姫に裏切られ、憤りながらも対応に追われていた頃、その姫について思い出しもしなかったし、女の話などと周囲の声も無視し続けたのもクラウド本人。


 さぞ恨まれていることだろう。父王にも兄である王太子にも、そして姫本人にも。


「ましてや、あの所業だ。……無理だな」

 つい出た独語に、傍らに控える文官がは?と声を上げた。なんでもないとクラウドは首を振る。

 森での自分の行動も、褒められたものではない。頭に血が上ると抑えが利かない性質は自覚があるが、初対面で剣を振り上げたことも、最後に無理やり口付けたことも、後から悔やんでも取り消すことは出来ない。そんな男が、今の境遇の元凶だと知ったら―――――


「陛下」

「朝からずっと働きづめだ、しばし休む」

 執務室を出てクラウドは日暮れ間近な庭園に向かった。城の中では息が詰まる。外の清浄な空気を吸い込み、東屋に腰を落ち着けても、気分が晴れるわけでは無いのだが。

 日中は貴族たちやその子女が行きかう場所だが、この時間ではさすがに人影は無い。

 首を巡らせると、白い薔薇が目に付いた。あの日わざわざ持って行った物と同じ花だ。

「母が好きな花と、言っていたな」

 近付くと微かに、青さが混じった甘い香りが鼻をくすぐった。花を見てわずかに和んだあの時の顔が、今も目に焼き付いている。


 このまま行けば、彼女は自分の側にいることとなる、唯一の側室として。リューンの国力からいって、それを拒むことは難しいだろう。

 だがそれは、彼女が望んだわけでない。それをクラウドは忘れるべきではない。

 国王の立場に傅く者が、クラウド本人を慕っているわけでないことは、厭になるほど学習している。


 数日経てば美しく着飾った彼女が、目の前に現れる。その時が待ち遠しくもあり、少々怖くもある。濃い青に混じる紫、侍医が「紫紺」と言ったあの色がクラウドに向けられたとき、どのような感情が透けているのか。自分に都合の良い考えが浮かぶほど楽天家ではない。



「陛下!陛下!」

 遠くからの叫び声に、控えていた護衛が反応する。

「どうした」

 姿を見つけ近寄ってきたのは、騎士の一人だ。

「ウィルの部下だったか。なんだ、急ぎの知らせか」

「は、はい!」

 馬を飛ばしてそのまま駆け込んできたと見えて、息が上がっているのを無理やり落ち着けて話し出した。

「森の家に入りましたが、察知されたようで既に逃げ出した後でした。今夜はトウル男爵と部下一名が家に残り、他の者は森の周囲や村などを探っています」

「そうか」

「それほど遠くへは言っていないようですと、男爵が申しておりました」

「だろうな。路銀は持っていないはずだし、何よりあの髪色だ。目立つことは間違いない」

 ウィルの指示に従うようにと返して、騎士が離れたところで、護衛が鋭い声を上げた。

「誰だ!」


 薔薇の木の向こうから、一人の男が姿を現した。服装から見るに貴族、あるいはどこぞの王族。緩やかな巻き毛の色は陰り始めた陽に輝く淡い金。そして目の色は―――――

「失礼、立ち聞きするつもりはありませんでしたが、このような場に陛下がいらっしゃるとは思いもよりませんで」

 正面に立ち優雅に片膝をついて礼を取る仕草は、この上も無く洗練されていた。

「申し遅れました、わたくし、本日リューンより到着しました者にございます。明日の謁見を前に、陛下の御前失礼いたしますれば」

 上げられた顔の中でも印象に残る紫紺の瞳が、まっすぐにクラウドを射抜く。彼女に良く似た優しげな顔立ちの中で、その光だけが異質だった。

「リューン国王太子、リチャードと申します。以後お見知りおきを」

 ところで陛下、と言った王太子の目が、細く(すが)められた。


「目立つ髪色の娘とは、いったい誰の事でしょうや」

 


王族の名前って長いですよね。スペイン王室なんか覚えきれない。なのでフルネーム割愛。そういえば大国の国名も出てないし。あとで考えときます(笑)


ここまで書いてこれでいいのか悩み中。詳しくは活動報告で、ご意見ちょっと訊きたいのでお時間のある方は読んでみてください。

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