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グレイル・アイズ  作者: 九六式
冥海の使者
9/11

オルカ・アタック




 中に入ると、少し進んだ先にさらに扉がある。


 おそらくその奥が、仮想戦闘に使用する区画だ。


 扉の前まで来ると、彼女は裾から何かを取り出し、室内に投げ込む。


 べちゃりと液体が付着する時の様な音が聞こえる。


「何をしてるんですか?」

「お(まじな)いみたいなものね」


 御神酒みたいなものだろうか。ただ、科学の発達したこの時代でどれ程の効果が得られるのか。


「さ、入って」


 釈然としないが、どっちみち武器のない僕には従う以外の選択肢は無い。


 せめて何か戦闘向きの能力があれば良かったのだが。


 ガチャンッと扉が閉められる。僕を密室に匿って、彼女があの化け物を迎え討つつもりなのだろう。


「(待機状態のシュミレータールームってこんなにも殺風景なんだな……)」


 暗くてよく見えないが、ボンヤリとボールを内側から見た様な天井が。所々にある光を反射してる物体は、仮想空間を発生させるための装置だろうか。


 部屋の中央に向かって歩く。


「(そういえば、終わった後のこと聞いてなかったな)」


 あの様子だと勝つ自信がありそうだったが、怪物を倒したら呼びに来てくれるのだろうか。それとも、何も言わずにいなくなって、様子を見て帰れば良いのだろうか。


 まだ争っている様子は無いし、聞いてみようか。


 そう振り返った時だ。


「ばぁっ」


 心臓が跳ね上がる。


「(何故?どうして?)」


 後退りしようとして躓き、尻餅をつく。


 先回りされた?いや、さっきまでこの部屋には僕以外誰もいなかったはずだ。


「ああ、あの小娘の事なら諦めなさいな。今頃お外で空っぽのお人形と遊んでいるわぁ」


 バクバクと心臓が警笛を鳴らしている。逃げなきゃ、じゃなきゃ殺される。


「(でも何処に?)」


 辺りを見渡すが、出入り口はただ一つ。目の前の化け物の背後にしかない。


 今度こそおしまいだ。


 右目が熱くなる。涙だろうか。恐怖のあまり、僕は泣いているのだろうか。


「こんな所まで逃げてとは思ってなかったけど、態々自分から袋の鼠になりに来るとはねぇ」

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」


 そんな様子を見て目の前の化け物はケタケタと笑う。

 

 それと同時に、妙なものが目に入る。


 説明し難い何か。眠気が酷い時の様に、本来一つの筈のものが重なって見える。


「アッハハハァッ!これよこれ!上げて落とす!この快感が堪らないのよ!助かったと安堵した奴を絶望に叩き落としたこの瞬間が!」


 しかし、重なって見えるものは全く同じものでは無い。

僅かにずれている。


 早い方の怪物は胸から青白い光を撒き散らし、遅い方はそれを追いかけるように


 ドズッ


「同感ね」


 同じ様に、青白い光が迸る。それと同時に胸から刀の切先が飛び出す。


「油断し切った間抜けを背後から刺す時ほど、愉快な瞬間はないもの」


 その背後には、あの黒いローブの少女が立っていた。










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