オルカ・アタック
中に入ると、少し進んだ先にさらに扉がある。
おそらくその奥が、仮想戦闘に使用する区画だ。
扉の前まで来ると、彼女は裾から何かを取り出し、室内に投げ込む。
べちゃりと液体が付着する時の様な音が聞こえる。
「何をしてるんですか?」
「お呪いみたいなものね」
御神酒みたいなものだろうか。ただ、科学の発達したこの時代でどれ程の効果が得られるのか。
「さ、入って」
釈然としないが、どっちみち武器のない僕には従う以外の選択肢は無い。
せめて何か戦闘向きの能力があれば良かったのだが。
ガチャンッと扉が閉められる。僕を密室に匿って、彼女があの化け物を迎え討つつもりなのだろう。
「(待機状態のシュミレータールームってこんなにも殺風景なんだな……)」
暗くてよく見えないが、ボンヤリとボールを内側から見た様な天井が。所々にある光を反射してる物体は、仮想空間を発生させるための装置だろうか。
部屋の中央に向かって歩く。
「(そういえば、終わった後のこと聞いてなかったな)」
あの様子だと勝つ自信がありそうだったが、怪物を倒したら呼びに来てくれるのだろうか。それとも、何も言わずにいなくなって、様子を見て帰れば良いのだろうか。
まだ争っている様子は無いし、聞いてみようか。
そう振り返った時だ。
「ばぁっ」
心臓が跳ね上がる。
「(何故?どうして?)」
後退りしようとして躓き、尻餅をつく。
先回りされた?いや、さっきまでこの部屋には僕以外誰もいなかったはずだ。
「ああ、あの小娘の事なら諦めなさいな。今頃お外で空っぽのお人形と遊んでいるわぁ」
バクバクと心臓が警笛を鳴らしている。逃げなきゃ、じゃなきゃ殺される。
「(でも何処に?)」
辺りを見渡すが、出入り口はただ一つ。目の前の化け物の背後にしかない。
今度こそおしまいだ。
右目が熱くなる。涙だろうか。恐怖のあまり、僕は泣いているのだろうか。
「こんな所まで逃げてとは思ってなかったけど、態々自分から袋の鼠になりに来るとはねぇ」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
そんな様子を見て目の前の化け物はケタケタと笑う。
それと同時に、妙なものが目に入る。
説明し難い何か。眠気が酷い時の様に、本来一つの筈のものが重なって見える。
「アッハハハァッ!これよこれ!上げて落とす!この快感が堪らないのよ!助かったと安堵した奴を絶望に叩き落としたこの瞬間が!」
しかし、重なって見えるものは全く同じものでは無い。
僅かにずれている。
早い方の怪物は胸から青白い光を撒き散らし、遅い方はそれを追いかけるように
ドズッ
「同感ね」
同じ様に、青白い光が迸る。それと同時に胸から刀の切先が飛び出す。
「油断し切った間抜けを背後から刺す時ほど、愉快な瞬間はないもの」
その背後には、あの黒いローブの少女が立っていた。




