青い瞳の少女
「それはどうかしら」
目を瞑り、死を悟った僕の思考を否定するかの様にその声は聞こえた。
「え?」
直後に訪れるはずの痛みが、いつまで経ってもやってこない。恐る恐る目を開けると、目の前の光景に再び驚愕する。
そこには、口から青白く発光する液体を撒き散らしながら地べたでのたうち回る先ほどの女。
そして、その女と僕の間に、見知らぬ人物が立っている。
本の中の魔女の様なローブに身を包み、右手には実体剣が握られている。
実体兵装。かつては通常兵器とも呼ばれ、魔獣に効果が無く、人間への殺傷力は高い武器であるそれらは、現代において忌避されている。
「怪我は無い?」
「は、はい」
若い女性の声。さっき聞こえた声と同じだ。
「そう」
深く被ったフードの奥から、宝石の様な青い瞳が覗いている。
彼女は少し屈むと、僕の方へ手を伸ばす。差し出された手を握ると、グイッと引き上げられそのまま立ち上がる。
華奢な見た目に反して、僕よりずっと力が強い。
「知らない人について行かない、って教わらなかったかしら?」
「えっと……」
何か反論しようとしたが、彼女がいなければとっくに僕はお陀仏していたので、何も言えない。
「まあ説教はこの辺で良いとして、走れる?」
「え?あ、はい、」
「なら走って」
「えっ、と……ど、どっちですかね?」
「…………はぁ」
彼女は溜め息を吐くと僕の手を掴んで走り出す。勢いで来てしまったせいか、帰り道が分からなくなってしまった。
「その、貴方は何者なんですか?」
「悪いけど話は後」
彼女に引っ張られるまま走っていると大通りに戻って来た。これなら助けを呼べそうだが、何か変だ。
「根間とマコっちゃん、無事だと良いんだが」
しばらく辺りを見渡していると、ふと違和感に気づく。
「僕たち以外の通行人が、いない……?」
「その通り」
ハッとして振り返る。触手を切られてのたうち回っていたはずの女が、いつの間にかすぐ後ろに。
「」
しかし、次の言葉を発する前に首が落ち、コロコロと僕の足元に転がって来た。
何も見えなかった。それも実体剣でこの芸当をやってのけたというのなら、いくら何でも速すぎる。
落ちた生首が、苦悶の表情を浮かべ口を開く。
「貴様ァ……なんn」
次の瞬間、彼女の足は生首の顔面にめり込み、まるで蹴られたボールの様に生首は吹き飛んでいった。
「さ、行くわよ」
「え?あ、ああ」
なんだか悪い夢を見ている気分だ。




