いただきます
「「「かんぱーい!」」」
カランッと小気味の良い音が鳴り響く。
僕、燕翔寺、根間、マコっちゃんの4人で一緒にファミレスで夕食を、という話になったのだが、燕翔寺は放課後また囲まれそうになって「申し訳ございませぇぇぇん!」と叫びながら走り去って行ってしまった。
しかもその逃げ足が恐ろしく速く、追いかけようと教室を出た時には既にその姿を見失ってしまった。
電話をかけたら来てくれるかもしれないが、クラスメイトとは言え知らない人に丸一日も囲まれて疲れただろうし、せっかく出来た友人に嫌われたく無い。
「燕翔寺さんは、また今度誘おう」
「だな」
しかし、今までこんな風に友達と一緒にご飯というのがあまり経験がなく、何だか新鮮な気分だ。
ちなみに、深海にも声をかけたのだが「バイトがある」と断られてしまった。
「そう言えば、2人は元々知り合いなのか?」
「「いや全然」」
の割には息ぴったりだ。前世では友人や家族だったのかもしれないな。
「そういうミゲるんこそ、燕翔寺さんとは幼馴染なんだって?」
「そこまでじゃ無い」
出会ったのは中学からだし、仲良くなったのだってつい昨日の話だ。
「いやぁでも、それでもですよ!」
根間が体を乗り出す。
「智恵ちゃんだけでなく、瑠花ちゃんまで侍らせて!けしからんですよ!」
「行儀が悪いぞ、根間」
しかもそこまで2人と親密なら、今日その2人から逃げられてないだろうに。
「(燕翔寺の場合は僕から逃げたわけじゃないけれども)」
まあそれでも燕翔寺からは友人、深海からは良いとこ顔見知り程度の認識だろう。
「あーコイツ鼻の下伸ばしてまーす。ぜってー妄想してまーす」
「伸ばしてない伸ばしてない」
「妄想はしてんだ!」
「2人とも1回黙ってくれるか」
冷やかしに悪態をつくが、正直なところちょっと楽しい。
しかし楽しい時間というのはあっという間で、いつの間にか門限が近づいて来ている。
「そろそろお開きにすっか」
「そだねぇ〜」
会計を済ませ、外に出る。
「明日から早速ハウンドが使える様になるらしいし、お互いがんばってこうぜ」
「そうだな」
寮に向かって歩き出そうとしたその時だ。
「誰かぁっ!誰か助けてよぉっ!」
「っ!」
誰かの声が聞こえる。ただ事ではない様子だ。
2人も反応したあたり、聞き間違いではない。
「ちょっと見てくる」
そうだけ言って、声のした方へ駆け出す。
「あ、ちょっ、ミゲるん!?」
「2人は先に帰っててくれ!」
建物と建物の隙間を通り、路地裏に。
「確か、この辺りだったはず……」
辺りを見渡すが、それらしい影は見えない。
「いやぁっ!離してぇっ!」
「こっちか!」
再び声のする方向へ走る。
そこに1人の女子が倒れていた。年は僕と同じぐらいか。
「大丈夫ですか!?」
駆け寄り、抱き起こす。見覚えがある。名前がわからないが、クラスメイトだった様な気がする。
「(間に合わなかったか?)」
抱き起こしたまま譲っていると、僅かに目が開き始める。
「ああ、良かっ……」
次の瞬間、信じられないモノを目にする。
目の前の女子の口がガバッと開いたかとおもいきや、その口から夥しい数の触手のようなものが。
「しまっ……」
その中央には、人間を骨ごとボリボリと噛み砕いてしまいそうな、鋭い歯がビッシリと並んでいる。
咄嗟に避けるには顔が近すぎた。
「い た だ き ま す」
終わった。そう思った時だ。
「それは、どうかしら」
凛とした声が、静かに夜の路地に、波紋のように響き渡った。




