豊穣の月
【喫茶 豊穣の月】。最近この辺りに出来たという、喫茶店。学校帰りの学生から近所の御老人まで、割と繁盛している店だ。
「本当にここで合ってるのか?」
「もっちろん!」
「ふーん」
マコっちゃんと一緒に根間の方を見る。
「何だその疑いの目は」
「いやぁ、だって。なぁ?」
「うん」
まだまだ付き合いは短いが、何となく頼りない気がしてならない。
「何でよ!ちゃんとつけて来たから間違いないし!」
その発言で一瞬場が凍る。
「………聞きましたぁ奥さん?あそこのお宅」
マコっちゃんの唐突なオカマ口調に合わせて態とらしく手を口に寄せる。
「ええ、ストーカーですってねぇ?」
「嫌ぁねぇ〜」
「………?急に御二方が女性の様な言葉遣いに……?」
ノリについていけてない燕翔寺を他所にふざけていると、バンッと開け放たれる。
「用がないなら帰ってもらえるかしら?」
深海だ。店員用の制服であろう給仕服を着ていて、それが結構似合っている。
「ほら!」
相変わらず凄まじい威圧感だが、根間は鈍感なのかこの有様。もはや一種の才能じゃないだろうか。
「えっと、4名で」
「………ふぅーっ、4名様ですね。こちらはどうぞ」
物凄く大きな溜息の後、僕達を店内に案内してくれる。
「メニューはこちらになります。御用がありましたら、そちらのベルでお呼び出し下さい」
一礼して、去っていく。
「あのさ」
「ん?どしたんマコっちゃん」
「いやさ……」
片目を瞑りながら、辺りを指差す。
店内は学生や社会人で賑わっており、深海を含む店員さん達は忙しそうにしている。
「とてもじゃないけど、捕まえてどうこうって出来なく無いか?」
「確かに!」
「………とりあえずなんか頼むか」
さっきから燕翔寺がずっと興味津々にメニューを眺めてるし。




