異界への扉
担任に連れられ、クラスの全員がシュミレータールームに入る。
皆んなは今日が初めて。新鮮な光景に三者三様の反応だ。
僕は(無断で)一度入っているから、別に何とも思わないが、やはり電気がついていても無機質な空間だ。
やはり聞いた通り、あの日の夜に遭遇した化け物の死体も、黒い大剣を形作っていた液体、悪性魔素も見当たらない。
「………」
「緊張、しているのかしら?」
「えっ?」
視線を上げると目の前に深海が立っていた。海の様に暗く深い青。
「いや……そう見えました?」
「眉間に皺が寄っていたから」
相変わらず凄まじい威圧感だ。本人にはそんな意思は無いかもしれないが。
「ちょっと、考え事をしてて」
「そう」
「………」
心配してくれたんだろうか。能面の様に表情が一切変わらないから本当に何を考えているのかサッパリだ。
「(燕翔寺や根間はすごく分かりやすいんだけどなぁ)」
出席番号順で前の方にいる燕翔寺は視線が合うと嬉しそうに微笑んで遠慮がちに手を振ってくる。
早くあの新型を使いたいのだろう。その後も何だかソワソワしている。
「(そういえば……)」
深海はどんなハウンドを使うのだろうか。あのオルカと同じように剣を振るうのか、それとも真逆で銃を使うのか。
そんな事を考えていると、スピーカーから「10」と言う声が。
9、8、7……
仮想空間を形成するカウントダウンが始まった。
「………深海は、緊張したりしないのか?」
「私?」
4、3、2……
「今は別に」
「……そっか」
「でも」
0という声と同時に部屋が真っ白の光に包まれていく。その中で、隣の彼女の口角が僅かに上がるのが見える。
「最初は誰しも、緊張するものでしょ」
少しだけ、得体の知れない恐ろしげな目の前の彼女が、近い存在の様に見えた。




