萌し
カランッ
ドア・チャイムが薄暗い店内に木霊する。
「あれぇ?今日はシフト入れとらん筈やけどなぁ」
「そっちこそ、今日は定休日でしょ」
被っていたフードを脱ぎ、カウンター席に座る。
「お疲れさん。どやった?例の子」
「そうね、間違い無いと思う」
数日前、依頼人が見せてきた写真。奴はそこに写っていた少年、洞堂廻影こそが私達が探し求めていた人物だと言った。
「あれは確かに、【聖杯】によるものだった」
昨日の事を思い返しながら説明する。
魔獣との戦闘時、彼は私に背後からの奇襲を警告したが、警告から実際に攻撃が行われるまで、数秒ほど猶予があった。
室内は暗く、シュミレーターのために防音完備。外からの接近に私が気づかなかったのに、彼が先に気づけたのは不自然。
また警告を発した時、彼の虹彩が金色に変化していた。
聖杯に備わる権能の一つ、覗き見る【観測】とみて間違い無い。
「そかそか、飲んだくれのガセやなかったか。いやー助かったわ〜」
「そうね」
人の良さそうな善人で、少なくとも悪用はしないだろう。とはいえ、少々警戒心が足りない。
この島にも魔獣が。しかもあろう事か人に化け、人の言葉を話し、人を騙す事を覚えた個体がいた。
もうこの島は安全では無い。
「名付けて【魔人】みたいな?」
「却下。それ一時期流行った差別用語でしょ」
一昔前は能力者や亜人にまだ当たりが強かった。人間は自分たちにとって未知の存在に恐怖し、嫌悪する。
組織にさえ、私達の居場所は無かった。気づけば私達の他にもう数名しかいなくなってしまったけれど。
「ああそれと、これ」
「何これ」
包を広げ中身を見せる。九六式対魔軍刀、だったもの。魔獣との戦闘で破損し、刀身の丁度中央でへし折られている。
「折れとるやん!もう予備あんま残ってへんてぇ!」
「折れたもんは仕方ないでしょ」
別に雑に扱ったわけでも無いし。
「だから最初からコレ持ってけ言うたのに……」
そう言って指さされた方を見ると、クラシックな店内に似つかわしく無い、古めかしい白鞘が飾られている。
「お断り。こんな大層なものを仕事に使うなんて、勿体無い」
「軍刀ボキボキ折られる方が困るんやけどねぇ!?そろそろ製造停止されるって話も出てるし……」
席を立って厨房に入る。まだ何かブツクサ文句を言っているが、無視して自分でコーヒーを淹れる。
「(それに、アレは私が握って良い様なものじゃない)」
私にそんな資格はない。アレには、もっと相応しい使い手がいる。
「はぁあぁ、昔は可愛かったんやけどなぁ……せや、昔みたいに眞白お姉ちゃんって呼んでくれへん?」
「お姉ちゃんって歳じゃないでしょ。頑張ってもお婆ちゃん」
「おばっ……!?」
九六式対魔軍刀・・・特別危険現象対策部職員が装備する近接戦闘用の実体剣。魔素の影響を受けた金属【蒼銀】を鍛造して作られているため魔獣に対してある程度対抗できるが、ハウンド以下の殺傷力しか無く、容易に手に入らないこともあり今では殆ど誰も使っていない。




