狩人の流儀
しいなここみ様主催『冬のホラー企画4』参加作品です。
キーワードは『水』です。
私の食事は女性の自分への "恋心"
人間の食事も口にできるが
それで満足感や満腹感を得られることはない
私に恋をする女性達に触れると飢えは癒され
完全にそれを喰らうと彼女達は私への恋愛感情を忘れる
多分私は 人ならざるもの なのだろう
それでかまわない
都会の波を縫って また一人 また一人と探す
最高の恋心をくれる女を
だが 中にはとんでもないハズレもいる────
◆
むせ返るような香水の匂いに吐き気すら引き起こしそうだった。胸元の開いたワンピース、濃い化粧、飾られたネイル、甘ったるい言葉使い────忘年会で隣りの席に来た大城彩華には、何もかも全てが不快だ。
運悪く席が隅だった。この女は飲み会の間中こちらに色目を使ってきていた。
「私、お酒弱いんですよぉ。夜岸さん、ね?このあと一緒に抜けません?」
「送ってほしいんですか?」
あくまで儀礼的に聞いた。
大城彩華は顔を近づけてきて、上目遣いに私を見ながら言った。
「ちょっと気分が悪いみたい。私どこかで休憩でもいいですよぉ?夜岸さんとなら」
アバズレだ。どんなにスタイルが良くても顔を塗りたくっても、なんの価値もない類の生き物────少なくとも、私にとっては。
「大城さん、女性から男性へのセクハラも今は問題になりますよ?」
私の視線と口調の冷ややかさに、大城彩華は一瞬青ざめた。が、すぐに意地の悪い笑みを浮かべて話し出す。
「やだぁ!結構カタいこと言うんですね、夜岸さん。同情してあげたんですよ。夜岸さんと今付き合っているのって開発部の藤咲でしょう?あの子マグロみたいで全然色気が無いって、私は俊也から聞いて知ってるの。ほら、俊也って彼女の元カレだったから。夜岸さんなら、物足りないんじゃないかって……」
満たされないのは性欲ではなく食欲だ。それはまもなく、藤咲真里によって埋められる。目の前のアバズレではなく。
だがその蛇のような女は、身をくねらせて しなだれかかってきた。
「大城さん、ハッキリ言って迷惑です。私から離れて下さい」
すると、大城彩華は怒りをあらわにして言った。
「あんな地味なガリガリ女のどこがいいって言うの?つまらない男」
そう言いながらも豊満な胸を寄せてくる。ウンザリして、私はテーブルにあったグラス半分の水を彼女の頭上からかけた。
「きゃっ!…………な、何するの!?」
滴る水を払って蛇女はようやく体をどけた。私は立ち上がった。
周囲の同僚達が 騒ぎに ざわめき始める。
「私にこんなことをして…………ただじゃ済まないわよ!?お父さんに言ってあんたなんかどこかに飛ばしてやるんだから!!」
そうそう、この女は大城副社長の娘だった。
だが、私は振り返って心から告げた。
「ご自由に。────たとえ脅されようと、私にとってあなたは手を出したい女性では無いんですよ。どうしても」
触る意味も価値も無い女。私欲と色欲まみれの。
会社を飛ばされようがクビになろうがたいしたことでは無い。生活の場所が変わるのは望ましいことも多い。新たな狩場ができるのだから。
大城彩華は怒りに震えていたが、左右から声がかかった。
「だいたい見てたけど大城さん、夜岸さんはちゃんと一度拒否してましたよね?なのに、あなたがしつこく迫ってた」
「館石くんに続けて夜岸さんも……って、いい加減 藤咲さんから彼氏奪うのやめたらどうですか?藤咲さんは大人しいけれど、真面目で優しい人ですよ」
「今のってちょっとパワハラ発言じゃないですか?しかもその前には…………セクハラ?」
職場仲間は、日頃から人を見る目を養っていたようだ。私は大城彩華に抗議してくれた女性達に会釈した。
「ありがとう。────では、先に失礼するよ。愛してくれている女性が待っているので」
背後からはキャーと言う、叫びとも歓声ともつかない声が上がっている。私は振り返ることなく店を後にした。
愛情を持たない女には 媚びない
────これもまた 狩人の流儀
読んで頂きまして、ありがとうございました。
夜岸連の登場作品は他に『狩人の食事』『狩人の調理』があります。興味持たれた方はこちらもよろしくお願いします。
シロクマシロウ子




