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7話:医療区間と授業

【11月11日・10時56分】


 「医療区間担当の神崎 日和。骨折した感じー?」

 「ひより〜ん!」


淡々とした声に、永井が反応して、両手を大きく広げた。

それに対して神崎は「呼ぶな」の一言だけを返す。

右手に持っている端末に視線を落としたまま、ベラの前に歩み寄った。


 「痛みは?」

 「まぁまぁっすね」


神崎は、その返答をそのまま端末に入力していく。感情を挟む様子はなく、動きまでも淡々としている。

ベラの固定された腕を軽く持ち上げ、角度を変えて確認する。

動かし方は最低限で、痛みが出ない位置だけを正確に選んでいた。


 「ズレはないねー」


そう言って、棚からアームホルダーを取り出す。

黒とグレーのシンプルな作りで、内側には柔らかい素材が敷かれている。

既存の固定を外し、手早く付け替えていく。

締めすぎず、緩すぎず。作業には無駄がなく、迷いもなかった。


 「まぁ骨にヒビ入ってるだけだから、1週間は外すなよー」


そう告げて、端末に追記する。ベラが軽く頷くのを確認すると、神崎は1度だけ顔を上げた。

視線はモネの方へ向かう。


 「そっちは....問題なさそうだなー」


それだけ言って、診察は終わったと示すように一歩下がった。

モネはベラの腕に視線を落とし、触れかけて止める。代わりに頭を撫でた。

医療区間には、一瞬だけ静けさが落ちた。


 「サクラから伝言だ。B区間の3階で待ってるってよー」


永井が小さくため息を吐き、壁にもたれた。水河は端末を操作したまま、無言で頷く。


 「ほら、出てけ〜」


神崎の軽い追い出しに、水河が先に扉を開けた。

医療区間の白い光が背中で閉じ、廊下の空気が少しだけ重くなる。

歩き出すと、アームホルダーが腕の重さをはっきり主張してきた。

痛みというより、存在感だ。


モネは何も言わず、自然にベラの左側につく。

歩幅を合わせ、時々だけ視線を寄こす。



【11月11日・11時31分】


医療区間を出て、白い廊下を少し進んだところで、水河が足を止めた。

足音が途切れ、空気がわずかに緩む。

前方にはB区間へと続く通路。その手前で壁の色が切り替わっていた。


水河は振り返らず、端末を操作している。

永井も自然と立ち止まり、横の壁にもたれた。


 「ここから先は別だな」


短く、それだった。モネとベラは一瞬、歩幅を緩めた。

水河の視線が2人に向いて、また口を開いた。


 「説明を受けるのはお前ら2人、当事者だけでいいだろ」


永井は何も言わず、不安を消すみたいに、片手を小さく振った。

モネはベラを見る。

言葉はなく、目だけで確かめ合った。


2人が前に進むと、足音が2つに分かれる。

背後に残る気配と、前へ進む気配。

水河はその背中を見送り、永井の進もうとする足を止めた。


 「いった...!?足踏むなよ〜!」

 「うるさい」



通路の角を曲がる直前、モネとベラは歩幅をゆっくり揃える。肩が触れる距離で。

ベラは深く息を吸い、モネの肩にこてん、と頭を預けた。

この先で聞く話が、軽いものではないと分かっていても足はなぜか止まらなかった。


通路を抜けると、音の反響が変わった。

B区間特有の無機質で硬い空気。

3階に到着すると、突き当たりの部屋に明かりが付いていた。

学校の教室を思い出させるような部屋だった。


中にはすでにサクラがいる。

椅子に座らず、立っているわけでもない。机の端に腰を掛け、端末を操作している。

2人に気づくと、顔を上げた。


 「もう来る頃だと思ってたよ。さ、座って」


サクラは説明を始めずに、部屋の扉を閉めた。外の音が遮断され、空間が静まり返る。

ベラは椅子に座り、無意識に右腕を庇った。

モネはベラの隣に座って、足を投げ出した。


サクラは端末を操作しながら、淡々と話し始めた。

声はいつもと変わらなかったけれど、表情はいつもより明るかった。


 「ベラの腕壊れたん、だいぶショックなんやけど♡」


話し方はいつもと変わらなかったが、声色だけが違っていた。

サクラもベラも、初めて聞く声に驚いていたが、すぐに返事が返ってきた。


 「それは自業自得だよ。説教しなきゃなって思ってたの」



【サクラ】

ベラちゃんの能力は想像以上に強かった。平然としていられるのは私だけだと思う。

端末の画面には既に分かりきった結果だけが、並んでいる。


右腕。生気の流入量、滞留時間、拒否反応の有無。どれも想定の範囲を超えていた。

ベラちゃんは、右腕で触れた瞬間、イタチの生気を吸い込みすぎたらしい。

体内のキャパシティをはるかに超える量を、一気に取り込んだせいで──。


右腕だけが処理に追いつかなかった。


拒絶するには遅く、受け入れるには多すぎた。

生気は行き場を失い、溜まり、組織を内側から圧迫する。

骨にヒビが入ったのは結果でしかない。


 「意味も分からず、体だけが動く状態で能力は使っちゃダメだよ。理性が働かないからね」

 「っす....」


ベラちゃんはいい意味でも悪い意味でも、自分の強さを理解していない。

正直に言えば、自分の能力を ''危険'' として認識していない。


 「あたしのは?♡」

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