3話:入社と出会い
【11月11日・7時32分】
「言い忘れてたね。私は───***なんだ。改めてよろしくね」
弾むようなサクラの声に対し、2人は固まった。
モネは口をぽかんと開け、ベラは眉間のしわを深くしたまま動かない。
たったこの一言で、さっきまでの空気がまるで別物になってしまった。
沈黙を破ったのはモネだった。
胸の奥から声を絞り出すようにして、問いかける。
「何人くらい働いてるん?♡」
「今は18人だよ」
即答だった。
あまりにも軽い口調で、モネの笑顔がわずかに曇る。
「18人っていうのは ''生き残ってる人'' の数ね。元々は82人いたんだけど」
「あたしが死なへんかったらなんでもええわ〜♡」
サクラは終始淡々としていて、その落ち着きが返って不気味だった。
モネのふざけた返しも、ベラに軽く小突かれるとすぐに消える。
「人の命軽く見てる組織とか、ほんまにきしょいっす。申し訳ないけどそんなん入りたないわ」
その言葉に熱も感情もない。
ただ真っ直ぐで、その一言が空気を鋭く切り裂く。
室温が、一気に下がった気がした。
「....そう思うのも、無理ないよね」
柔らかい笑みは消え、残ったのは静かで硬い芯のある声だけ。
「私たちは命の重みを知っている。だからこそ守る立場にならなきゃいけないの」
言葉の余韻は床を這い、壁を伝って、空間全体に広がっていく。
ベラはサクラをじっと見つめ、モネは息を詰めたまま何も言えずにいた。
「洗脳みたいなもんやん」
その一言で、張り詰めていた空気がさらに深く沈む。
サクラは否定も肯定もせず、2人に歩み寄る。
「ベラちゃんは絶対にこの場所を好きになる。君たちの───***が断言するよ」
静かに距離を詰められ、心に触れられる感覚があった。
それでも目を逸らさず、答える。
「とりあえず、やってみます....」
頼りない声だったが、その奥には確かな覚悟があった。
誤解されないよう、すぐに言葉を重ねる。
「信用したわけじゃないっすけど、自分の目で見てみな分からへんし」
その言葉で、モネがようやく息を吹き返したかのように笑う。
「ベラって意外と度胸あるんやな♡」
「うるさいわ」
軽いじゃれあいに、凍っていた空気がすっと溶けた。
「じゃ、改めて第二観測課へようこそ」
サクラが手を広げた瞬間、部屋の照明が1つだけ落ちた。
空気はわずかに揺れ、足元の床が少しの光を帯びる。
その言葉を合図に、床の光が線を描きながらどんどん広がっていく。
そして光は床から出てきて、モネとベラを囲む。
視界がふっと白く包まれ、何かに引き込まれるような感覚が体全体に残る。
ベラは反射的に踏ん張り、モネはワクワクした表情で目を瞑った。
光が引くと、サクラだけがいない状態で2人は真っ白な世界へと放り込まれた。
「まじビビったわ」
「ここどこやねん♡」
【〇月〇日・〇時〇分】
そこは地下なのか、地上なのかも分からない不思議な広さを持つ部屋だった。
天井には光源が見当たらず、太陽光のような眩しさが広がる。
すると、巨大な壁にサクラが映し出された。
「今から君たちには、実力を見るための試験を受けてもらいます」
質問する余地もなく、言葉が終わると同時に壁が波打つ。
その瞬間、黒いローブをまとった2人の男が、壁の内側から出てきた。
無言のまま近づいてきた彼らは、モネとベラの前に立ち、制服のようなものを差し出した。
「無言すぎて怖いんやけど」
「フードでお顔見えへんやん♡」
場違いなほど軽いモネの声が、だだっ広い空間に響いた。
ベラは一歩も動かず、警戒の視線を男たちに送り、観察している。
その様子に、1人の男がわずかに肩を落とし、フードを脱いだ。
「そういう反応されると地味に傷つくんだが....」
フードを脱いだ男は真っ黒なサングラスをかけていて、ごく普通の男だった。
もう1人の男は、ため息混じりにローブごと脱いだ。
「一応言っておくけど、ローブはただの雰囲気出しだからね〜!」
ローブの下から現れたのは、金髪のチャラい男だった。
ピアスも大量に空いていて、話しやすさ全開な雰囲気だ。
張り詰めた空気がどんどん和んでいく。
「むっちゃ普通の人やん」
「これでもお前らの同僚だ」
その言葉にモネの表情が少し変わる。
堅い口調の男の顔を覗き込み、突拍子もないことを言い出した。
「おにーさん、まじでどタイプ♡ 結婚せえへん?♡」
「あんたら試験官っすか」
モネの話を無視し、急いで話を戻した。
ベラはまだ少しだけ、警戒している。
「試験官っつーか、君らの実力見るだけよ〜?」
金髪の男がそう言い、床を軽く指差した。
そうすると、足元にビリビリとした光が走り、円形のラインが浮かび上がった。
「今から出てくる化け物を2体、協力して倒してね。命は頂かないから安心してね」
その言葉にベラは気づかれない程度に息を吐いた。
だが、モネは口角を上げる。
「試験っていう割には優しいんやな♡」
「お前、油断するなよ。それから早く着替えろ」
円形の光が徐々に強まっていき、部屋の奥が少し歪んでいく。
逃げ場のない部屋で呑気な2人に襲いかかったのは──。




