2話:生死と代償
【11月11日・7時05分】
「天使と悪魔からの授かり物...かな」
質問に答えてもらったのにも関わらず、呆然としていた。
それもそのはず。
黒髪ショートの美人な女性が言うことではなく、厨二病が口にしそうな台詞だったからだ。
「神様から天使と悪魔、それから妖怪。全部存在してるんだよ」
「そんなん信じても、なんもならんし〜♡」
「そういう話、ほんまに嫌いなんすけど」
サクラの言葉は、どこか本気だった。
けれど、2人は真剣な空気を察しきれず、呆れている様子を見せた。
「いいから聞いて? 2人を選んでくれたのはね──」
モネとベラは思わず息を呑む。
部屋の空気が一変して、全ての時間が止まったかのように感じた。
「天使と悪魔。ベラちゃんが天使、モネちゃんが悪魔だよ」
突然の宣告に、2人は止まった。
サクラは淡々としたまま、微笑み続けた。
「今から私がモネちゃんを殺す」
『は?』
その言葉通り、モネの体が傾いた瞬間、サクラが襲いかかった。
モネとベラは状況が理解できず、一瞬、視界が白くなったものの恐怖にまみれる。
「モ、モネ....!?」
【11月11日・7時07分】
頭を潰されたモネは、ベッドの上で息を引き取った。
ベラの背中には、熱がこもっていた。
そんなのお構いなしにサクラは「ベラちゃん、治癒してみて」と声をかけた。
だが目の前で友達が殺されたばかりで、平然としていられるはずもなく、ベラは息を荒げた。
「ベラちゃん、しっかり息吸って。じゃないと、君が死ぬよ」
「む....り....!」
息と声を必死に絞り出しながら、ベラは混乱していた。
そのとき、周囲の音がふっと消え、代わりに自分の心臓の音だけが響いていた。
まるで何かに導かれるように、体が勝手に動く。
たった1人の友達を失いたくない一心で、ベラはモネの頭に手を置いた。
すると、彼女の手のひらから黄金の光がゆっくりと溢れ出した。
モネの体は微かに震え、息が戻る。
瞳がゆっくりと開き、白く濁っていた視界に色が戻っていく。
「ぇ....は....?」
ベラの小さな声に応えるように、モネは微笑んだ。
まだ完全ではないが、確かに息を吹き返した。
眩しい光が収まり、サクラは感嘆したように目を細めた。
「なにこれ......」
ベラは息を整えながら、モネに抱きついた。
そしてサクラが説明をし始めた。
「天使はね、命や運命に触れることができる。まぁ、代償は重いけどね」
「代償って...なんなん....?」
「天使の力を借りると、少しずつ寿命が吸い取られる」
その言葉に、ベラは唇を強く噛み締めた。
モネはそんなベラの頭にそっと手を置き、何も言わずに撫でた。
「私が回復させることもできるから、今どうこうってわけじゃないよ」
サクラはウインクして、場の空気を和ませた。
そして、モネはまだ混乱していたが気になることを、ぽつりと尋ねる。
「あたしのは..... 悪魔ってなにができんの?♡」
「悪魔は、人の心を動かしたり、全身が刃物になったり....かな?」
モネは半信半疑で笑い、ベラはまだ現実を飲み込めていなかった。
そんな2人を見て、サクラは小さく息をつきながら、ゆっくり語り出す。
「この世界には、表と裏があるの。君たちはその境界に立ったばかり」
2人は無言で顔を見合わせた。
サクラの口元に表れる笑みは、どこか楽しげで、何を考えているのかさっぱりだった。
「これから、ビシバシ鍛えていくから覚悟しといてね」
「待って、まだ話終わってへんけど?♡」
サクラが話を締め、扉の方へ歩いていくと、モネが袖を引っ張って、引き留めた。
その手と声は少し震えていて、今にも泣き出しそうな雰囲気だった。
「結局、この力使って何するんすか」
サクラは静かに笑って、振り返った。
その様子は少し不気味だった。
「君たちには、第二観測課に入ってもらって、お仕事をしてもらいます」
‘’お仕事’’という聞き慣れない言葉に、2人は目を丸くした。
そして案の定、モネの口が先に開いた。
「ってことは給料入ります?♡」
「任務完遂1回で、100は入るよ」
「まじっすか!」
今までずっとテンションが低く、サクラを警戒していたベラが、ようやく心を開き始めた。
そんなベラを見て、貼り付けた笑顔を捨て、笑い出す。
「っはははは。お金の話が大好きなんだね」
小馬鹿にされたような笑い方に、2人の視線が集まった。
サクラが笑い涙を指で拭ったその瞬間、モネが腹を貫いた。
空気が止まり、音が消えていく。
ベラは目を見開いたまま、息をすることすら忘れている。
そしてサクラの体がゆっくりと、崩れ落ちた。
「まじで悪魔の力もらったんや….」
「あんた… なにしてんの──」
声が震え、言葉の意味すら理解が追いつかない状況でも、咄嗟に手を伸ばし、サクラに触れた。
ベラは回復させようとしていたのだ。
だが、それより先にサクラの目が静かに開く。
「油断しちゃったな。モネちゃんの手は怪我してない?」
腹を貫かれたはずなのに、ピンピンしているサクラを見て、2人は息を呑む。
そして、サクラの腹は何事もなかったかのように傷が塞がっていった。
「言い忘れてたね。モネちゃんとベラちゃんと同じで、私も───***なんだよ」




