1話:白と黒
【11月5日・10時47分】
「今月カツカツじゃね」
「え、それな〜♡」
ベラが財布をのぞきながら、あるはずもない1万円札を探している。
「もうそろ危ない仕事とかいいんちゃう〜?♡」
「あほ言うな」
海沿いを歩き、穏やかな風を浴び、呑気に話している。
アルバイトで貯めたお金も、モネのおしゃれ代とベラの煙草に消えていった。
この世の厳しさを痛感しながらも、2人は軽く笑っているだけだった。
「危ない仕事とかどうやって探すねん」
「その辺にチラシとかで落ちてへんー?♡」
2人が笑っていたその瞬間、波の音が消えた。
生き物、車、葉、風、全てが止まった。
もちろんモネとベラは動いている。
そんな違和感に気づいたのは、上から雫のようなものが降ってきてからだった。
突然、ベラの背中に灼けるような衝撃が走った。
「ぅぁぁぁぁああああ!!!!」
日の光に燻されているかのような感覚。
モネの目には、白く鋭い雫型の針がベラの背中を突き破ったように見えた。
だが、出血はなく苦しそうにしているベラを、ただただ見ているだけだった。
「ベラ....?きゅ、救急車呼ぶ!?」
モネは泣きそうになりながらも、声を絞り出した。
その瞬間、ベラの悲鳴と同時にモネの頭の奥が破裂した。
「いゃぁあああああ!!」
脳の内側を何かが掻き乱し、視界がぐにゃりと歪んだ。
そして見るものすべてが真っ赤に染まっていた。
彼女の頭に突き刺さったのは、黒く鋭い雫型の水。
それはまるで、天使と悪魔を表しているかのようだった。
「大丈夫?」
気絶しかけていた2人の前に、黒髪の女がしゃがみ、微笑んでいた。
その微笑みは女神のようで、2人の痛みはゆっくりと引いていく。
「ぁ......」
限界を迎えた体は耐えきれず、モネとベラは仲良く気を失った。
ベラが目を覚ましたのは、痛みに悶えていたその日の夜。
モネはまだまだ深い眠りについている。
「ここ、どこやねん。モネ、まだ寝てんの?」
ベラの問いかけになんの反応もなく、不安が募っていく一方だった。
ずっと隣にいた人の苦しむ姿を横目に見ていたからか、ただ生きてほしいという一心で看病し続けた。
モネが汗をかけばすぐに拭い、ずっと手を握り、眠り続けるモネの額に冷却シートを貼り、布団を洗濯し続ける。
男の人に説明されただけで、全く知らない場所。
その部屋にたった2人きりで、友達は眠ったまま。
ベラは不安に押しつぶされそうになった。
外に行けるほど広い窓はなくて、扉も常に閉められている。
ずっと広い部屋を見つめ、テレビを見て、ふかふかのベッドでゴロゴロして、1日が終わる。
「こういう生活してみたかったんよなー。な?モネ」
聞こえているのかは別として、毎日モネに話しかける。それがベラの日常だった。
【11月11日・0時00分】
ベラが目を覚まし、モネが眠り続けて6日。モネが突然目を覚ました。
6日間も眠ったせいか、全く眠たくない。
モネが隣を見ると、ベラの天使のような手で、自分の手を包んでくれていた。
すやすやと眠るベラを見て「座りながら寝たら体、痛くなんで」とつぶやく。
予想通り聞こえてはいないが、曇った顔で寝ていた。
そんなベラを見て「心配かけたな」とまたつぶやいた。
【11月11日・7時03分】
「あんた寝すぎやでほんまに」
「それな〜。6日も寝るとかありえへんわ♡」
「まぁ生きとってよかったな」
「おはよう。朝から元気だね」
朝7時から元気に話すモネとベラを見て、黒髪の女がそう言った。
黒髪の女は、悶え苦しんでいた2人を助けた本人だ。
だけど、記憶が曖昧になっているせいか警戒する姿を見せた。
「誰っすか」
緊張した顔でベラが問う。
モネは、貼り付けたような笑顔を見て、思わず「こわ♡」とつぶやいた。
「怖がらせるつもりはなかったんだけど。2人に色々と説明しなくちゃならないから来たんだよ」
「まずは名前からっすよね」
「あ、ごめんね。私はサクラ。第二観測課の本部長をしてます。よろしくね」
首をふっと傾け、笑顔でベラの要望に応えた。
「第二観測課ってなんなん?♡」
「知らんわ」
聞いたことも、見たこともない部署の名前を聞いて、更に警戒が深まる。
「っはは。やっぱり君たちは面白いね」
そんな2人を見て、サクラは親のいない子猫のように感じ、笑った。
何か言いたげな雰囲気を出していたベラに向かって
「順番に説明していくからさ、急かさないでくれるかな」と眉を下げ、声色を変えず言った。
そう発言した瞬間、2人の意識がサクラに向いた。
まるで、他のものが見えていないかのように。
「あ。質問は随時受け付け中だよ」
「あの気絶するほど痛かったやつ、なんなんすか」
ベラが発言すると、「それ思ってた♡」とモネも便乗した。
2人が知りたかったのは共通して、突然起こった激痛の原因だった。
「簡単に言えば、選定だよ」
「は?」
「天使と悪魔からの授かり物...かな」




