断罪イベント365ー第22回 断罪ミュージカル開幕!王子、音痴だった件
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
王都広場――
本日は、次期国王として初の
“重大な断罪イベント”が行われる日である。
「よいか?今回こそ、
華麗なる“政治ショー”として成功させねばならぬ」
王子は固く拳を握った。
彼の傍らには、怪しげな笑みを浮かべるひとりの男の姿があった。
「陛下、わたくしの“演出プラン”に沿えば、
観衆は熱狂し、政敵は沈黙。支持率は跳ね上がりますぞ!」
そう語るのは、“劇場型政治演出”を専門とする
国家公認イベント・コンサルタント。
その名も、
《演出伯爵エルフェンリート・デ・シャウト三世》である(自称)。
「……本当に、うまくいくのだろうな?」
「もちろんでございます。ミュージカル断罪、
これこそ今時の若者に刺さる“新時代の政治エンタメ”!」
王子は、バカ高いコンサル料の請求書を思い出しながら
震える唇を引き結んだ。
かくして――
【プロジェクトD(=断罪)・ミュージカル化計画】が始動した!
エルフェンリートの提案により、
王子は毎日ボイストレーニングに通う羽目になった。
腹式呼吸、発声練習、リズム感トレーニング、
感情表現のワークショップ……
「♪ふ〜く・し〜き・こ〜きゅ〜〜〜〜っ♪」
「出てない出てない出てない!その声では“断罪!
”が“残念!”に聞こえますぞ!」
「くっ……!」
さらには、王子の従者や衛兵までもが
コーラス隊に巻き込まれ、王宮は日々、歌と怒号の嵐となった。
「わたしは令嬢の罪を暴くーッ!
愛と正義とエレガントなハイBで〜〜〜ッ!」
だが――
王子には、致命的な弱点があった。
**音痴だった。**
そして、いよいよ当日――
王都広場は、コンサルが雇った動員スタッフの手により
超満員で埋め尽くされた。
特設ステージには金ピカの玉座と、絢爛な幕。
その中央に登場した王子は、
パリッとした軍服風の衣装に身を包み、髪にはグリッター
胸には造花を抱えていた。
「皆の者、今宵は――断罪ミュージカルである!!」
\パチパチパチパチ……(やや薄めの拍手)/
♪「はぁああ〜〜〜っ……!」♪
王子は両手を広げ、天に向かって歌い出す!
♪「たーんざーいっ こーこにしょーこはーっ
あくの れーじょー くろの しょうげーんっ」♪
ここで、衛兵たちのコーラスが被さる!
♪「ひーがーんっ! にんじんっ! こーんさーとっ!」♪
(……なぜか野菜が混じった)
黒幕令嬢も、登場と同時にミュージカルに巻き込まれた。
「えっ……歌うんですか、わたくしも?」
♪「うたえ!うたえ! おまえのむじつ〜〜っ」♪
「……む、無理ですわっ!」
彼女はマントで顔を隠して退場しようとしたが、
王子のアドリブに巻き込まれる。
♪「に・げ・る・な〜〜〜っ!!」♪(※シャウト)
観衆が前のめりに転ぶ。
もう見ていられない。
その後、王子の熱唱は続いた。
声は裏返り、音程は迷子となり、ピッチは中空へと羽ばたいた。
「……ま、まさか、これで本当に断罪しようとしてるの……?」
「令嬢が何をしたんだっけ?」
「……えーと……宝石を盗んだんじゃなかった?
違った? 手紙を捏造? いや、薬を盛った……?」
観衆の間にざわめきが広がる。
だが、王子は気づいていなかった。
全力で歌いながら――その顔は充実感に満ちていた。
(やった……!やりきったぞ……!)
フィナーレ、王子は高らかに叫ぶ!
♪「おまえを だぁ〜〜〜んざい〜〜〜〜〜〜〜っ!!」♪
……しーん。
\\パチ……パチ……パチ……//
寂しげな拍手が響いた。
そして、誰かがぽつりと呟いた。
「……で、断罪されたのは、誰?」
「てか、何の罪だったっけ?」
「歌が罪深すぎて、他のこと忘れた」
――事件の顛末――
罪状はよくわからないまま、
令嬢はその場で倒れていた王子に水を差し出した。
医師が診断した結果、
**軽度の過呼吸と音痴ショックによる一時的昏倒**。
演出伯爵エルフェンリート・デ・シャウト三世は
こっそりと荷物をまとめ、王都を去ったという。
その後――
観衆たちは語り継ぐ。
「あれは伝説だったな……罪は忘れたけど
あの裏返ったソの音だけは一生忘れん」
――断罪は、歌でできるものではない。
その年、王都では「断罪ミュージカルごっこ」が大流行し、
“断罪ごっこ遊び”の中で一番人気だったセリフは、
「♪だぁ〜〜〜〜んざい〜〜〜〜〜〜〜っ!!(裏声)」であった。
断罪は、歌でできるものではない。
以上。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m