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ファイル4:抱擁

フィリアが産まれたのはギャルド(ここ)とはかけ離れた小さな村、名前はもう思い出せない。人口も少なく、数えようと思えば数えられる程の人数。だけど、自然豊かで私は好きだった。

私の家族構成は父母、私と妹だけで、小さな村には友達は1人2人。だから私達は妹と2人で遊ぶ事が多かった。けど、今思い出せるのは妹の顔だけ。父母、友達は思い出そうとすると、顔に黒いもやがかかったようになる。

「お姉ちゃんは大人になったらここから居なくなっちゃうの?」

妹は私に問いかけた。その時の私はその問いに答える事は出来なかった。それは、妹を『また』1人残してしまうかもしれない、恐怖が襲ってきたから。だから、逆に問い返した、貴女はこの村が好きかと。

「私はこの村が好きだよ。お姉ちゃんと同じくらい!」

「そっか」私は呟いた。その一言に込められたのは同意や納得だけじゃなく、私の心の覚悟もあった。

私はよく妹とかくれんぼをする。妹からの提案でもあったし、私が1人と思う事を無くす為に。

けど、その日は違った。いつもならすぐ見つかるのに何処にも居なかった。妹がその場から消え去ったのかと勝手に脳が錯覚し、涙が込み上げてくる。その後、井戸の中から妹は見つかり、私に抱きついた。

「お姉ちゃんなら絶対見つけてくれるって思って…ごめんなさい、ごめんなさい…」

服の上から妹が泣いているのが感じ取れた。私の事を信じて井戸に飛び込んだと、私は抱き締め返す事で自分の安堵と妹の安堵を取り返した。

その日から幾度か時は流れ、とある日、村にエイリアンが出たと噂が流れ始めた。情報の得られる手段が限られていた私達にはエイリアンとは何なのか理解出来ず、そして『アイツ』が現れた。

後ろへ伸びる鋭利な角、無数の牙から涎を垂らす、四足歩行の『アイツ』が。父母は私達を逃がす為に村に数少ない武器を持ち、『アイツ』に立ち向かって行った。その後の父母は分からない、妹と私は一心不乱に後ろを振り返らず走り回った。父母がどうなったかという思考を振り払う為に走り回った。妹の手を引く私の手から汗が滲み出始め、妹は転倒する。瞬間、振り返ってしまった。目の前に広がる光景は今でも焼き付いている。

村人達の悲鳴や絶叫が響き渡り、村は焼き果て、煙幕と陽炎の中から『アイツ』の影が浮き出ている。目を伏せようとした瞬間、砂利を踏みしめる音が聞こえ、顔を上げると転けた妹の後ろに『アイツ』が仁王立ちしており、気づいた瞬間には遅かった。『アイツ』の鋭い爪が妹の腹部を突き破り、突き破った爪から純血が滴り落ち、妹の目から涙が零れ落ちていた。『アイツ』は爪に刺さった少女を振り払って、私と対峙する。

「お姉ちゃん…たす、けて…」

微かに絞り出された妹の声が私の耳に木霊する。恐怖、不安、悲哀、絶望、凡百あらゆる感情が私の心を巡り、限界点に達した瞬間、私は『アイツ』に向かって雄叫びを放ちながら走り出していた。

無策無用、私の体を『アイツ』の爪が突き破り、目前がボヤける。地面に叩き付けられた感触から「あぁ…私は死ぬ」という感覚が芽生えた。僅かに残った力を振り絞り、隣にいる息を引き取ったばかりの妹ににじり寄り抱き締める。まだ少し暖かさを感じる体を残った力で抱き締めるが、徐々に力が抜けていき、目前が暗転する。


「それからの事は何も覚えてない。どうやって『アイツ』と戦ったのか、そもそもなんで私は生きてるのか」

話し終わったフィリアは小さな墓地に両手を握り締めていた。フィリアは振り返ると、パモスが大粒の涙を流しながら泣き叫んでいた。

「フィリアァ…お前ェ、そんな過去があったのかよォ!安心しろォ…お、俺チャンがお前を守ってやっからよォ…!」

「パモス…。その手は何?」

そう言うと、パモスはおいおい泣きながら両手を広げてフィリアににじり寄ってくる。そんなパモスに冷酷な目で睨み付ける。

「えェ?抱擁?」

「キッモ」

「なんでェ!?」

そのやり取りにフィリアは小さく笑う。

「やっと笑ったぜェ」

フィリアは恥ずかしさを紛らわすため口を押さえて少し頬を赤らめる。しかし、すぐに手を離し、笑顔をパモスに見せた。その様子にパモスは歯茎が見える程に笑顔になり、2人でその場を後にした。

「これで最後だね」

遺体の埋葬を終え、バックスとトキノは死者への安寧の祈りを捧げていた。そこへフィリアとパモスが戻り、4人で帰路に着いた。

「そうっだァ、忘れてたぜェ。3人とも、リンちゃんの家でおもしれェ物見つけたんだぜェ。じゃーん!」

『デバック』の拠点に報告、トキノへの電流拷問、一連の流れを終え、アストラ部隊の拠点へと戻っていた一行はパモスの言葉に彼の方を見ると、写真立てのような物を高く上げて見せびらかしている。

「何それ?というか、人の家の物勝手に撮ってきたらダメじゃない」

「まぁまぁ、そう言わずに。ただの写真立てじゃァないんだぜェ?ほれ、見てみーよォ」

その言葉に3人は写真立てに納められた写真を覗き込む。しかし、写真は黒く滲み、何が撮られているのかわからなかった。

「何も写ってないな…?」

「いや、正確にはもう写らなくなっただけ」

「どういう事だ?」

トキノは写真立てをパモスから貰い、中に納められていた写真を取り出すと、トキノの目が淡く光り出す。写真はみるみるうちに光を取り戻していき、やがて1枚の家族写真になった。しかし、その写真は実に不気味で、自宅であろう家の前に立つ全員の顔に笑顔は無く、まるで葬式後のような暗い雰囲気を纏っていた。

「この写真、かなり古い物だね。それこそ200年、400年程昔の写真。ポラロイドカメラというカメラで撮られた写真だと思う」

「よ、よんひゃくゥ!?とんでもねェお宝じゃァねェか!今から売りに…」

その様子にパモスは周りから冷たい視線を感じ、ゆっくりと椅子に座り直した。パモスに冷たい視線を送りながら、4人は写真を覗き込むと奇妙な写真だという事に気づいた。笑顔の無い家族写真に加え、後ろにブレた黒い影が映り込んでいた。それだけでなく、体全体のバランスがおかしくなっていた。腰は人間とは思えない横曲がりになり、手は表裏逆になり、よく見ると体全体が前後逆になっていたりと、如何にも奇妙な写真であった。

「な、なんじゃァこりゃァ!?」

「き、気持ち悪い…」

「うむ…。心霊写真のような物か?」

「心霊写真の類いではないと思う。エイリアンの仕業か、はたまた写真のブレか」

「ブ、ブレにしちゃァ変じゃァねェか!?」

「エイリアンが現れたのは今から100年程前だとされてるけど、そもそもエイリアンは何の為に、地球というこの星を襲ってるのか解明されてない。この時代には既に彼等の侵略は始まっていたのかもしれないね」

「でも、何の為にこの写真をこの加工を施したんだ?何か、特別な意味がこの写真にはあるのか?」

それは分からない、とトキノが言い切り、その夜は明ける事になった。不可解な写真については明日、トキノがジームに直々に相談をするらしく、パモスは布団の中で考えていた。

もしも、トキノと自分の秘密が今にでも明らかになってしまったら、アストラ部隊だけでなくデバック本隊が混乱を引き起こすだろう、自分達の目的はもしかしたら世界の明暗を引き分ける鍵になっているのか、とパモスは考えていた。やがて、その思考は深い夢に侵されていった。

「よし、全員揃ったな。じゃあ、行こうか」

バックスの呼びかけに集まった一行は街の外に居るエイリアンの討伐へ向かう事になっていた。

「バックス、僕はジームに呼ばれてるから今日は別行動になる」

「ん?そうか、トキノが居ないとなると多少の無理は出来ないから、2人とも慎重に進めるぞ」

そう言うと、2人は頷いてバックスと共に車に乗り込み去って行く。

「やぁ、トキノ君。タイミング良かったね」

「ジーム、見てたんでしょ?それくらいはわかるよ」

「フフ、流石だね。トキノ君」

3人がエイリアンの討伐に向かった後、直後何処からともなくジームが現れる。トキノはジームをアストラ部隊の拠点の中に招き入れ、机を挟んで向き合う。

「それで、話は何?」

「冷たいなぁ、別に悪い話じゃないよ。手短に話そうか。まず、君には私が最近結成した部隊の援助をして欲しい…」

「断る」

「話を遮らないで下さい。結成した部隊の名は『シリウス部隊』、結成したばかりというので欠陥が多くて私も手を焼いているんだ。で、ここからは君がこの部隊の援助をするメリットの話、『絶対的無源シニスター』の情報を得たから君にその話をしたい。しかし、君が援助を断るというのならば、『絶対的無源シニスター』の話はなかった事になる。どうだい?公平だろう?」

「悪くない取引だけど、『絶対的無源シニスター』の情報を得たという証拠はあるの?」

「そう来ると思って、先に情報を開示する事にしている。まずは答えを聞かせて欲しい」

「それは無理な話だよ。『絶対的無源シニスター』は僕達の命運を握るキーアイテムのような物、虚言や戯言では済ませられない。先に情報を開示して欲しい」

「私にとっても『絶対的無源シニスター』は貴重な物だ。もし、話を聞いて君がノーと答えるのであれば、エイリアンの調査に損害が発生する。対価としては充分だと思うがね」

「それは傲慢じゃないかな。僕が納得する情報ではなかった場合、損害が発生するのはコチラだよ。情報の開示が先」

「いいや、君が援助を許諾するのが先だ」

2人の間には目に見えない電撃が走り、修羅場と化していた。すると、ジームは諦めたのか溜息を1つ吐き、小さなUSBメモリを取り出す。そのメモリを机の上に滑らせると、トキノの目の前で止まる。

「はぁ…君が折れない事は知っていた。持っていきたまえ、そこに『絶対的無源シニスター』の情報が詰まっている」

トキノは無表情のまま、ジームを見ながらメモリを手に取ると、バックスが使用しているパソコンのポートに刺す。メモリを刺すと、パソコンの画面にマップが表示され、一部分に赤いバツ印が記されていた。

「そこが『絶対的無源シニスター』のある場所、かつてヨルダンという国にあったペトラ遺跡に位置する」

「どうやって特定したの?」

「君の言う情報を元から『ルーナ部隊』を派遣して探索してもらった。『ルーナ部隊』とはしばらく連絡は無かったが、ここに『絶対的無源シニスター』があるという情報だけが送られてきた。彼等は今どうなっているかはわからない」

「余計な事をしたね。『絶対的無源シニスター』の危険性は僕が話したはずだよ」

「君の助言は耳に届いてる。だが、事は急を要する。少しでも早くエイリアンを抹消しなければ、地球は彼等に侵され、半壊どころではなくなる。話は終わりだ、私からの要求に答えてもらおうか」

「いいよ。元より断る事はするつもりはなかったからね」

「これにて契約完了、出てきてもいいですよ『ラリー』君」

一方、アストラ部隊3人は車の揺れに揺さぶられながら荒野を走っていた。フィリアは寝ており、パモスとバックスの間には会話は無かった。爆音の音楽が鳴り響く車内を打ち破ったのはバックスだった。

「トキノの事が心配か?」

「心配…というより不安だなァ。アイツ、司令官とは仲悪いし、何より司令官はアイツの言う『シニスター』の事をずっと調査してるらしいしなァ」

バックスはパモスに問いかけると、パモスは姿勢を正し、バックスの話を始めた。

「前から気になっているんだが、『絶対的無源シニスター』とは何なんだ?トキノは自分達の命運を握るキーアイテムだと言っているが」

「俺チャンも全部聞いたワケじゃァないけど、『絶対的無源シニスター』は『無限のエネルギーを持つ物』だっていうのは聞いてるぜェ」

「無限、か。その『絶対的無源シニスター』が本当に存在するとなれば、人間の生活に革命が起きるだろうな。だが、それは存在しないと俺は思うな。物事には必ず終わりがあり、終わりがあるから世界は美しく彩りがあるんだ。無限や永遠なんてものがあったら、彩りのある世界は全て黒に変わり果てる。無限は人の夢に過ぎない」

「ま、俺チャン達のお先は真っ暗だけどな!ナハハ!」

車は荒野を走り抜け、進み続けているが、目的地は未だ不明である。

「は、はじめまして!『シリウス部隊』隊長を担っています『ラリー・ライラル』ですッ!あ、あなたがジームさんの言っていたトキノ・カゲウチさん、ですよねッ」

トキノはジームに紹介されたねずみ耳のシリオンの少女と向き合っていた。トキノはその少女を見て目を丸くした。その様子にラリーは耳をピコピコ、尻尾を振り回していたが、トキノは一瞥した後、ジームに問う。

「ジーム、昔からシリオン好きなのは知ってる。まさか」

「Exactly《その通り》。シリウス部隊は私が新しく結成したシリオンの隊だよ」

自信満々に発せられた言葉にトキノは大きく溜息を吐くと、ラリーと目線を合わせる為に体を屈める。大きな目からは絶対的信頼を寄せられるような感覚を覚える。

「それじゃあ、私は仕事に戻るとするよ。詳しい任務内容に関してはラリー君から聞いてくれ。健闘を祈るよ、トキノ君」

そう言い残し、扉を開けて出ていく。トキノは扉が閉まっていくのを見届けると、ラリーを椅子に座るよう諭し、自分も座り対面する。対面から見えるのはラリーの顔半分だけであったが、トキノは気にしていない様子。

「改めて、アストラ部隊のトキノ・カゲウチだよ。任務内容は殆ど聞いていないが、任務内容は聞いている?」

「え、えっと…、トキノさんはアタシ達のサポートをして欲しいとだけ聞いてます。に、任務内容としてはこの通りですッ」

そう言うと、懐から巻物状に巻かれた紙を取り出す。そこには、『シリウス部隊初回任務、辺境のエイリアン討伐。計7箇所に存在するエイリアンの拠点へ潜入、制圧』と書かれていた。トキノが読み終わったのを確認し、ラリーは紙をしまう。

「なるほど、じゃあすぐに出発しよう。移動手段はある?」

「は、はいッ!移動手段はアレを使いますッ」

ラリーは窓の外を指差し、トキノに外を見るよう促す。トキノは外を見ると、そこにはバラバラと音の鳴るヘリコプターがスタンバイしていた。窓の外を見ていたのを確認した操縦士であろう男が降りてくる。その男は狼のシリオンであり、2人を見るとニッと歯茎が見える程の笑顔をコチラに向けてくる。

「はぁ…ジーム、過保護だよ」

溜息を吐きながら拠点から出ると、ラリーと共にヘリコプターに近づく。狼のシリオンは2人が近づいて来ると、笑顔で会釈する。

「はじめましてトキノさん。俺はシリウス部隊の『ブルータス・アグリム』。よろしくお願いします。メンバーからは『ブルー』と呼ばれてますので、敬愛を込め是非ブルーとお呼び下さい」

「よろしく、ブルー。僕は敬語を使うのと、使われるのが苦手だからタメ口で構わない」

「了解。では、よろしく頼む」

2人は握手を介しが、トキノはブルータスと名乗るシリオンの妙な張り付いた笑顔に少し警戒心を覚えた。手に触れた瞬間ブルータスの過去が少し見え、その過去からブルータスの精神的強さを感じた為、トキノは警戒心を解く事にした。

「?。あぁ、トキノさんは過去を見る事が出来るんだったな」

「僕の能力は過去を見る単純な能力じゃないけどね」

「違うのか?」

「うん。君は信頼できる男だから話すけど、僕の能力は『過去を遡り、その時の出来事を模倣及び、進行させる事』、能力名は『時を貪る(テンプス・エダクス)』。パモスみたいに能力名叫びながら能力を出す訳じゃないけど、一応名前はある」

「便利だな」

「そんな便利じゃないよ。使う度に記憶を消す為に電気ショックを受ける必要があるし、触れた物じゃないと何年ものの過去は見えない」

話しながら袖を捲り、腕の爛れた火傷を見せる。あまりのグロテスクさにラリーは嗚咽を飲み込む。その様子に少し気まずさを感じ、ブルータスは咳払いをすると、ヘリコプターに乗る事を促し、トキノとラリーは乗り込む。

「あ、やっほ〜!おかえりラリっち〜!と、無敗の来訪者さん」

乗り込むや否や兎のシリオンが2人を出迎える。トキノは軽く会釈すると、兎のシリオンは手を軽く振る。

「も、もう!アカリちゃん!ちゃんと挨拶しよって話したよね!」

「ごめんって〜ラリっち〜。寝てて気づいたら着いてたの〜」

「ト、トキノさん、ごめんなさい。この子は」

「シリウス部隊のアカリ・タケハシだよ〜。よろしく〜」

「うん、よろしくアカリ。それより無敗の来訪者っていうのは…」

離陸の準備が出来たのか、ブルータスは3人に合図を送ると、バラバラという大きな音と共に離陸準備に入る。ゆっくりと上昇していくと、ギャルドがどんどん霧に包まれていく。その光景にトキノは何も不思議に思わなかった。

一方、アストラ部隊一行。とある場所に到着していた。そこは古く寂れた遺跡のような場所。

「何?この場所?」

「ここはトキノから送られてきた情報を元に来た場所、ヨルダンのペトラ遺跡だ」

「ヨルダン?随分遠くまで来たなァ」

「行くぞ。アイツに気づかれる前に」

一行は遺跡の中へと足を踏み入れた。

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