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ファイル1:アトラクター

荒野を走り抜ける1台のバギー。ガンガンとロックな洋楽が車内に鳴り響き、それに呼応するように車内がガタガタと揺れている。1人は音楽にノリ、1人は眠り、1人は外を眺める、1人はバギーを走らせている。

「今日はかなり遠い」

「仕方がない。町周辺は狩り尽くしているからな」

助手席で外を眺めていた男は運転をしているガタイの良い男に世間話のように話しかける。淡白な内容に話はすぐに途切れ、またしても音楽だけが鳴り響く車内になる。

整備のされていない車は甲高い音を鳴らしながら、何も無い荒野で止まる。

「んァ、この周辺かぁ?」

音楽にノっていた男は糸目で車から降りると周りを見渡す。一見では何も無いように見える。

「あぁ、ここのハズだが、『ヤツら』は居ないようだな」

「今回はどんな能力持ってるのかな」

運転席の大男と助手席の男も次いで降りて辺りを見渡す。

「おい、パモス。フィリアを起こせ」

「やりィ!この俺チャンがかわいいかわいいフィリアちゃんに愛のモーニングキッスゥをカマしてやる!フィリアちゃ〜ん、着きましたよォ……アベスッ!」

パモスと呼ばれる陽気な男は女に接吻を迫ろうとした所で狐耳をピコピコ動かし、鳩尾みぞおちに蹴りを食らい、大袈裟に吹っ飛んだ後悶えている。

「パモス、汚いから近づかないでくれる?」

「ひ、ひどゅい…。くおおぉ…」

フィリアという女はそんなパモスを冷徹な目で見下ろした後に車の中から銃を取り出す。銃といってもスナイパーライフルと呼ばれる類いのもの。

「フィリア、パモスが動けないと敵が探知できない」

「アイツに言ってよ。キモい顔で近付いてくるアイツに。はぁ、トキノの能力じゃ探知できないの?」

トキノと呼ばれた陰気な男はポリポリと頭を掻きながら車の中から刀のようなものを取り出している。その間に生き返ったのか、パモスは大男の横ではしゃぎながら論争をしていた。

「わーかったわかった。俺も悪かったから。ササッと任務終わらせて帰っぞ。要員、準備はいいか?」

大男の掛け声に3人は頷き、パモスは敵を探知する為なのか、ナイトビジョンのようなものを身に付けている。

「さ、てとォ、『アルファ━ヴィジョン━』開始。どこかなどこかなァ…いるねぇ!アソコだよぉーん」

パモスは何も無い枯れた草原を指差す。フィリアはその仕草に頷き、サイトを合わせると1発、その草原に向かって放つ。すると、奇妙な鳴き声と共に謎の生命体が出てくる。

「えぇ、無能力の雑魚じゃん。もっと強い個体かと思ったわよ」

「無能力でもステータスが高い可能性がある。用心した方がいい」

「わかってるわよ。バックス隊長よろしく」

「はいよ。此方こちら『アストラ部隊』。『ベガ』、発見。要員、トキノ・カゲウチ、フィリア・アルトリウム、パモス・F・トレバー、バックス・サーベスランドの戦闘許可を」

バックスと呼ばれた大男は何処かに電話をすると、電話先から女性の声で「許可します」と一言放たれる。バックスは車の中から大きなパイルバンカーを取り出すと、全員臨戦態勢を取る。目前には先程の奇妙な生命体が姿を顕にし、此方を警戒していた。身体は成人男性1人分の大きさ、両手には大きな鎌のようなもの、目は無く、無数に生えた鋭い牙からはよだれのような青色の液体がダラダラと流れ落ちている、正にエイリアンのような風貌。その生命体が草原の中から1匹、2匹と増えていく。

「ヤツらの住処だったみたい。無能力だとフィリアだけでいけるでしょ」

「はぁ…私を特攻機か何かだと思ってるの?ま、いつも通りトキノは援護よろしくね」

そうトキノに伝えると、銃を変形させていく。変形させた先は大剣であり、所々からプシューと音をたてながら蒸気が出ている。フィリアはその大剣を地面に突き刺すと同時に体を縮こませ、に向かって飛びかかっていく。敵はまるで餌が飛んで来たと喜ぶかのように6本の足を忙しなく動かしながらフィリアに飛びかかる。

「左下に身体を動かした後、対象の右脇下がフリーになる」

「了解…ッ」

敵が動き出した瞬間、トキノはフィリアに通信で伝えると、フィリアはその通りに空中で身体を捻らせて攻撃を躱すと大剣で敵を二等分に斬り裂く。その後、間髪入れずに頭部を斬り裂く。緑色の返り血がフィリアの美顔を汚していくが、お構い無しに戦闘態勢を整える。

「隊長ぉー!帰りにお風呂用意しておいてー!」

フィリアが後ろを振り返らずに大声で叫ぶと、バックスは溜息を吐きながら電話を始める。パモスはそんな様子をケラケラと笑いながら見えているのか分からない糸目で見ていた。

トキノは瞳孔を光らせながらフィリアと連携し、フィリアが敵を薙ぎ倒していく。数分後には既に敵は壊滅し、「うへぇ」と情けない声を出しながら全身返り血で歩き戻って来るフィリアが居た。

「お疲れ様、いつもありがとう」

丁寧に畳まれたバスタオルをトキノはフィリアに渡すと、膨れ面を浮かべながら受け取る。

「こっちこそいつもごめん…。トキノは私達の為に能力酷使して貰ってるし」

「慣れちゃってるからいいよ。それに昔に約束したでしょ、僕は君達の為に戦うし、君達は僕の為に戦うって」

「それもそっか、杞憂だったかな」

「そんな事ないよ。心配ありがとう」

たわいもない話をしながら男女4人組は車に乗り込み走り出す。

ここは30世紀地球、突如地球は想定外の来訪者を招く事になった。それは宇宙人と呼ぶには奇々怪界で、魑魅魍魎、エイリアンである。エイリアン襲来から数分、地球は半壊した。日本からアメリカまで丸く抉られたかのような状態であり、そのさまは月に太陽の光が当たらない欠け、十三夜のようで、地球に住む生物の半分以上は無重力下へと放り出された。

その半世紀後、人類はエイリアンへの対抗策として、新たな技術を発明する。その名は『アトラクター』。エイリアンの遺体の中から発見された成分、後に『エーリウム』と呼ばれる物質を生物の身体に取り込む事で、生物の持つ身体能力のリミットを破り、新たな力を得る事が出来るようになった。人類はその力を『エーテラー』と呼んでいる。

彼等、アストラ部隊もまたエーテラーを持つ、対エイリアン組織『デバック』の一員である。そんな彼等は荒野を駆け巡り、遂には1つの街へと辿り着いていた。

「おい…おい、トキノ…!」

「何?」

「こっから女子風呂見えるよォー…ッ!」

「?。よかったね?」

「なんだよ、もうォ。フィリアちゃんの裸気になんねェのォ?」

「別に」

「素っ気なァー」

エイリアンの討伐を終えた一行はフィリアの意見から温泉へと来ていた。トキノとパモスは2人で男風呂に入り、パモスは鼻の下を伸ばして壁の隙間から女風呂を覗こうとしていた。直後、何かに突き飛ばされたかの如く、湯船に勢いよく飛び込んでくる。

「パモス!次やったらアンタの眼球、一生見えないようにグチャグチャに潰すから!」

壁の向こうからはフィリアの怒号が響いてくる。トキノはやれやれと溜息を漏らすと湯船から上がる。背中は傷だらけだが、その背中に気付く者は気にする者は居なかった。

温泉から出た一行は目先に見える街、『ストリート6(シックス) ギャルド』に来ていた。ギャルドは寂れた街だが、人口は約10万人強とかなり多く、繁華街と呼ぶに相応しい街である。一行はギャルドにあるデバックの拠点に来ていた。

「お疲れ様です、アストラ部隊。成果報告をお願いします」

受付にいる女性に話しかけているバックスを横目に、ソファで座る3人は机に大量の収穫物を広げて考えていた。中にはエイリアンの内蔵組織、爪、皮、宝石等見つめ続けていたら気分が悪くなるような物から、目を奪われるような物まで多種多様である。

「爪は高値で売れるけど、あんまり渡したくない」

「今は大丈夫でも、これから武器の火力が足りなくなるかもしれないって事よね」

「そう。火力は高い事に越したことはない」

「俺チャン的には今でも貧乏なのに、これ以上貧乏はゴメンだぜェ…」

「よし、お前ら報告が終わったからサッとその物騒な物らをしまって帰るぞ」

3人が話し込んでいた所にバックスが帰ってくると、広げていた収穫物をしまい、ワイワイと騒ぎながら拠点を後にする。受付に居た女性は溜めていた溜息を重く吐くと、後ろに下がって行く。

「アストラ部隊、強いのだけれども相変わらず問題だらけね…。こりゃジームさんも苦労する訳だわ」

ブツブツと独り言を放ちながらゆっくり作業しながらアストラ部隊からの成果、ドクドクと波打つエイリアンの心臓をアタッシュケースにしまうと、それを裏へと持って行く。その先に何があるのかは、未だ誰も知る事は無かった。

拠点から離れた一行は街の雰囲気とは打って変わった近未来的建造物に来ている。

「はァ…またトキノの苦しむ顔を拝む事になるのか…ヤダよォ」

「仕方ないよ。僕の能力はやらないと使えないんだから」

「俺は兎も角、パモスはもう慣れたものかと思ってたが」

「慣れる訳無いじゃァん…。親友の苦しむ顔は何回も見たくないよ」

そう話しながら訪れたのは何かの研究施設のような場所、真ん中には拘束具のような物が垂れ下がり、それを弄っている白衣の女性が居た。女性はトキノ達に気付くと、手をヒラヒラと振りながら向かい入れる。

「お疲れ様、トキノ君。今日はどのくらい能力を使ってきたのかしら?」

「こんにちはチーさん。今日はあんまり使ってないです。フィリアのサポートをしただけです」

「あら、フィリアちゃんのサポートって事は1、2回くらいしか使ってないって事かしら」

「今回は数が多かったので、3回くらいでしょうか」

チーと呼ばれる女性はトキノと話しながらせっせと無抵抗なトキノを拘束していく。その異様な光景に疑問が湧くことも無く、バックスとパモスは研究施設を後にする。拘束が完了したチーは何やら装置を弄り始めると、傍に置いてあるレバーに手を掛ける。

「はぁ。何回やっても慣れないわね。じゃあ、かなりビリビリ来るけど頑張ってね…」

そう言うとトキノはこくりと頷き、レバーが下ろされる。瞬間、トキノの身体に拘束具から電流が流れ始めた。トキノは痛みに耐えられず大声で叫び、身をよじり、拘束具から抜け出そうとしている。苦しむトキノを見たくないのか、チーは目を固く瞑りながら時の流れに身を委ねる。研究施設の扉の外ではパモスが耳を塞ぎ、バックスは険しい顔で腕を組んでいた。

数分後、装置が止まり、体から煙が立ち込めると同時に脱力したトキノを拘束から解除し、チーは身体を抱き支える。

「よく頑張ったね。もう痛くないよ」

抱きかかえられたトキノの頭をそっと撫で、近くに置いてあったベッドに寝かせる。

「終わったか。いつもすまないな」

いつの間にか施設内に入っていたバックスは、トキノのあちらこちらが焼かれている姿を見て優しく布団を被せた。

「それよりフィリアちゃんはいつもの場所かしら?」

「あぁ、フィリアは━━」

一方フィリアは町外れにある墓地に足を運んでいた。目前にはマーレイ・アルトリウムと書かれた墓石がある。その墓石に小さな花を添えると両手を握りしめる。

「マーレイ、少しずつだけど前に進めてるよ。貴女が残したこのヒントを頼りに」

手の中には青い石のペンダントが握られており、淡く光を放っている。まるでフィリアを冷たく暖かく包み込んでいるかのような淡い光に、フィリアは目を細める。

『お姉ちゃん!私ね、大人になったらコスモスの花畑に行ってみたいの!でも、その為にはエイリアン達を皆倒さないと!私、強くなるよ!』

フィリアの頭の中でかつての小さな少女の言葉が広がる。その言葉を咀嚼するかの如く目を瞑り、墓地を後にした。墓地から離れた少し先、様々な少女の幻影が彼女を魅了する。

『お姉ちゃんは大人になったら何がしたい?』

『私の力、どんな事ができるんだろう?』

『お姉ちゃん凄い凄い!なんでそんな事できるの!?』

『ママもパパも皆絶対生き残るんだから!』

『ママ!パパ!行かないで!』

『お願い…ママ、パパ…』

『お姉ちゃん…助、けて…』

とある幻影に辿り着いた所で彼女は目を覚ます。周りには大勢の人々が行来し、その中で彼女は突っ立っていた。

「はぁ…また…」

フィリアは頭を抑え、ゆっくりと歩き始める。その様子を幻影が覗いている事を知らずに。

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