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第7話 6月8日 月曜日⑦

 あまりに突飛な発想だ。

 「現役女子高生が全力で電話ボックスから電話をかけてみた」は「現役女子高生が全力で電話ボックスから電話をかけようとしたけどドアが開かないから男子高校生にギャグふう訊いてみる」になった。

 

 どうやら企画変更らしい。

 けど、鍵って? 僕に鍵を貸してほしいということ? でも、あいにく僕は鍵なんか持っていない。

 それに僕が鍵を持っているのだとしたらこの電話ボックスの管理人は僕ということになってしまう。

 さすがにただのいち高校生にそれはないだろう。

 

 「ああ、それはこの取っ手を持ちながら右にずらすようにして押すと開くよ」

 

 僕はちょっとしたコツととも電話ボックスのドアの開けかたを教えた。

 ドアはバネのようになっていて僕が手を放した途端そこそこのスピードで閉まってしまうからいちおう僕の手は電話ボックスのドアに添えたまま。

 

 「へ~。鍵はいらないんだ~」

 

 その娘はドアに手をかけて電話ボックスの中へ一歩踏み込んだ。

 僕はもういいだろうと思い途中で手を放した。

 でも、その娘も同時に手を放していた。

 

 「あ」

 

 思わず声がもれた。

 急激なドアの反発はまるで伸びたゴムが戻っていくようだった。

 その娘はドアと電話ボックスに半分挟まってしまった。

 

 「あの、大丈夫ですか?」

 

 せっかく僕が心配したのにその娘は声をだしてけらけらと笑っていた。

 まあ、怪我をするほどの勢いでドアがしまったわけじゃないし。

 その娘も反射的に手のひらを交差させてドアを受け止めているからそんな大事にはなってないだろう。

 

 もっとも電話ボックスを造る過程で使用する人が怪我しなようにという配慮はなされていると思う。

 最近は電話ボックスの数が激減しているらしいけれど電話ボックスを使ってしょっちゅう怪我人が出ていたらこんな数の電話ボックスが全国に普及するわけがない。

 

 「なにこのドア~。戻ってくるんだ~」

 

 そりゃあ戻ってくるって。

 まあ知らない人は知らないか。

 どうやらその娘は扉を開くとその場で固定されて止まると思っていたみたいだ。

 

 それがツボにはまったのか彼女は電話ボックスから出ては途中で体を挟んでけらけらと笑う。

 また電話ボックスから出ては半分挟まるを繰り返した。 

 面白いことがあったら何度も同じことをする子どもみたいだ。

 何度目かのときだった。

 

 その娘はわざと体半分をドアに挟みながら僕に向かって――これどうやって使うのと訊いてきた。

 そもそもきみはこの電話ボックスで電話をかけるためにきたんじゃないの? 僕の疑問は正しいはずだ。


 ここは町の中心からすこし外れた場所でほとんど人は通らない。

 今でもここに電話ボックスがあるのはかつて駅だった名残だ。

 最近だと災害時に役立つからというのはあるかもしれない。

 廃駅巡りが趣味の人か公衆電話で電話をかける以外ここにくる理由は見当たらない。

 

 僕はS町のなかで公衆電話が置いてある場所を四カ所ほど知っている。

 ここからわりと近い「道の駅」にも公衆電話はある。

 でも正直あそこの公衆電話は使いたくない。

 設置場所が「道の駅」の入り口のすぐ傍だし入口からトイレまでの導線上にある。

 

 なんにせよ人通りの多い通路に公衆電話が置いてあるから、会話の内容が筒抜けになってしまう。

 あまり人に聞かれたく内容はこういったガラス張りの電話ボックスで話すのがいちばん。

 ことさらここ最近のS町は化石関連の影響で来訪客が増えてきているのに町はずっとあの場所に公衆電話を置きつづけるんだろうか? しかも電話のうしろや横の掲示板には化石関連のイベントや宣伝のポスターなどが貼ってあって立ち止まって見ている人も意外と多い。


 観光客と通行人と止まる人が集合する場所に公衆電話を置くのはどうかと思う。

 だから僕は消去法でこの通称「旧駅前電話ボックス」を使っていた。

 通称といってみたけれど僕が勝手に名づけただけだから誰も通称はしていない。

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