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第5話 6月8日 月曜日⑤

 最初はぜんぜん使いかたがわからなかった。

 でも、もう慣れたものだ、と我ながら思う。

 スクールバッグはリュックのように背負えば、この狭い空間でもなんとかなるし。


 緑色の受話器を手にとりそのまま耳に当てて、テレホンカードを入れると電話機本体がそれをとり込んでいく。

 電話機の左中央に赤い数字が残りの度数を表示している。

 僕が見ている数字は「12」。

 単純に「1」で十円ぶんの通話ができる。


 僕が持っているこのテレホンカードだと百二十円ぶんの通話が可能ということになる。

 両手が自由に使えるように首と左肩のあいだに受話器を挟む。 

 ここからがすこしだけ面倒だけれど制服の内ポケットから生徒手帳をだして白紙のメモ欄に書いてある十一桁の番号を押していく。


 スマホやタブレットのように指先でパパパっとスピーディーにボタンを押しても相手には繋がらない。

 アナログとはそういうものだ。

 数字のボタンを押すとぷちんという感触とともにちょっとした反発(かえり)がある。

 それをもってして初めてひとつ数字のボタンが押されたということになる。

 

 この感覚は慣れるしかない。

 まずは「0」から。

 こんなふうに公衆電話に詳しくなろうとしていなければ、九州は「09」だとか日本の市外局番に詳しくなることもなかったはずだ。

 デジタルの世界で市外局番なんて関係ないか。


 スマホ(ケータイ)はだいたい「090」か「080」か「070」ではじまるんだから。

 それにスマホならスマホ本体に電話帳があって話したい相手の名前をタップするだけで自動で電話を繋いでくれる。

 とまあ、そんなことを思いながら僕は生徒手帳に書いてあった十桁の番号を押し終えた。


 ぶち、ぶつ、ぶちん、そんな音のあとにプルルルと呼び出し音がなる。

 

 「もしもし。拓海くんかい?」

 

 あとはスマホと同じでふつうに会話すればいい。

 

 「はい。そうです。今日はどうでしょうか?」

 

 「そうだね。今日はちょっと……だね」

 

 「そうですか……」

 

 「あ、いやあね、そこまでじゃないんだ。ほらムラがあるっていう感じでさ」

 

 「わかりました。いつもすみません」

 

 「いやいや。いいんだよ」

 

 「じゃあ、失礼します」

 

 「うん」

 

 僕は静かに受話器をおいた。

 電話機はどこかのヒーローが緊急時に鳴らすタイマーのようにピピーピピーピピーとテレホンカードを吐きだした。


 「0」を押せばどこにだって繋がる。

 「03」からはじまる番号なら東京。

 今じゃ「とうきょうゼロサン」なんてひとつの単語のようになっていて「03」という番号なら必然的に東京からの電話だとわかる。

 

 「03」にはどんな人だっている。

 ときには繋がってはいけない場所にも繋がってしまう。

 僕は電話ボックスのドアを引き大人ひとりが入れば一杯になってしまうガラス張り入れ物からでた。


 今、車道を通り過ぎていった車の運転手が僕を見たような気がした。

 が、それは気のせいだろう。

 たぶんその運転手が見ていたのは息せき切らせてこっちに向かってきた女子高生だと思う。

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