第40話 6月14日 日曜日①
昨日はK市に遠出をしたあとに学習センターで吹奏楽部の演奏を聴きにいって疲れていたはずなのに、ポストが気になってあまり眠れなかった。
それでも昨日は昨日で意外と充実した一日だったのかもしれない。
吹奏楽部がアイドルの曲を演奏していて、秋山さんにその曲を教えてもらっていなければ僕にはそれが誰のなんていう曲かわからなかった。
そんなことを頭に過らせながら、まるで受験結果の発表のようにポストのとろこまで行く。
一呼吸置いて颯爽と銀色のふたを開いてみる。
え!? 封筒が二枚のままで増えてない。
これはこれで思考が止まってしまう。
休日はしっかり休むのか? これでまたどうしたらいいのかわからなくなった。
スパムメールの送信も事業としてやってる場合ゴールデンウィークのような長期休暇にはメールが届かなくなる。
とはいえやっぱり詐欺の確率は低い気がする。
なんだかすっきりしないままで家の中に戻った。
そのあと、もう一回布団に包まりゴロゴロする。
◇
気づけば寝てしまったようで昼近くに起きた。
昨日熟睡できなかったからな……。
外出の準備を終え、ポストをスルーし電話ボックスに向かう。
受話器を手にし、十一桁の番号を押した。
「あ……」
「もしもし拓海くん?」
「はい。昨日はありがとうございました」
「どうしたの?」
僕は自分から電話をかけておいて今ごろ気づいた。
菊池さんは今日カレンダーどおりの休みの日だった。
むしろ僕が今日電話してしまったことで余計な心配をさせてしまったかもしれない。
話題を変えて早めにきりあげよう。
「いま言ったばっかりなんですけど昨日はどうも、というお礼を」
「いやいや、いいのいいの。気にしないで」
「要件はそれだけです」
「そっかい。ありがとう。じゃあまた明日ね」
「はい」
話を終えるとテレホンカードの残りは「4」になっていた。
僕はまた電話ボックスの周辺を見回した。
U町にだって公衆電話はある。
そう、彼女はもうここにくることはないんだ。
でも、心の中で「今日は日曜日だから」とごまかしてみる。
僕はU町にある公衆電話の場所を一ヶ所だけ知っていた。
それはU町の国道沿いにある大手ドラッグストアの前の歩道のところだ。
……またなんとなく受話器上げてテレホンカードを入れた。
ボタンの「1」を押して、また「1」を押す。
受話器の向こうでブツブツと音がしている。
……やめた……。
僕は受話器を置く。
電話機がどうしてやめたんだ?というふうにピピーピピーピピーと鳴った。
公衆電話はテレホンカードを出し終えるととたんに静かになった。
ここであともうひとつ「11」につづく「1」のボタンを押せば”約束かどうかわからない約束”が叶わなくなってしまう気がした。
「111」にかけるのをやめて僕は「117」に電話する。
電話口の向こうで人工の女の人が今の時間を告げてきた。
刻々と時間が経過していきテレホンカードの残りは「4」から「3」になった。
もうすこしだけ電話ボックスにいようかな? 理由はふたつある。
家に帰って家のポストを開けると否が応でもまたあの白い封筒のことを考えなくちゃならない。
そしてもうひとつ。
どうして彼女はそんなに急に消えてしまったのかって気持ちが大きくなるから。





