表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】スマホを持たない二人は電話ボックスで出逢った -グラハム・ベルの功罪-  作者: ネームレス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/72

第38話 6月13日 土曜日⑥

 僕は一方的に母さんとの面会を終え看護師詰所に挨拶をしてからまた一階におりた。

 総合受付で右腕のテープを剥がしてもらっていると玄関脇に菊池さんがいるのが見えた。

 僕は自動ドアをくぐりそのまま菊池さんのところへと向かう。


 「いま何時ですか?」

 

 菊池さんはスマホの電源を入れる。

 

 「十一時五分だね」

 

 「わかりました」

 

 僕は病院前のバス停にある時刻表に視線を移す。

 

 「じゃあ十一時十二分発のバスで帰ります」

 

 「そうかい。バスの時間をずらして一緒に昼食(おひる)でもどうだい?」

 

 「あ、すみません。ちょっと用事があって早く帰らないといけないので」

 

 「そう、ならしょうがないね。高校生だもんね?」

 

 正直、今の僕には考えることがあって飲み物以外は受けつけなさそうだ。

 でも菊池さんには言えない。

 なにか別の話題でも探さないと。

 

 「はい。すみません。あの、僕が電話ボックスからかけたときスマホに電話番号ってどうでるんですか?」

 

 「ああ、これかい。ほら」

 

 菊池さんが持っているスマホの着信履歴はいくつかの電話番号以外、たくさんの【公衆電話】で埋め尽くされていた。

 僕が毎日毎日電話してきた歴史。

 じゃなく履歴、だから着信履歴と呼ぶんだ。

 母さんが壊れてからの日数だけ僕はこのスマホに電話してきた。

 

 「公衆電話からの着信履歴はそのまま公衆電話ってでるんですね?」

 

 「そうだよ」

 

 「ふと思ったんですけどスマホから公衆電話にかけることもできるんですか?」

 

 「公衆電話それぞれの固体番号を知っていればね」

 

 「そ、そうなんですか!? それはどうやって調べるんですか?」

 

 「今はわからないようになってるんだ」

 

 「そうですか……」

 

 「うん。でも番号さえ変わってなければ僕はいろんな公衆電話の番号を知ってるよ」

 

 「どうして菊池さんが?」

 

 「看板屋をやっていたとき町のいろんな仕事を請け負ってたからね」

 

 「それはどういうことですか?」

 

 「役場の人とのやりとりはもっぱら公衆電話だったわけさ」

 

 「じゃあ菊池さんが働ているときに役場の人が菊池さんの近くにある公衆電話に電話をかけてきたってことですか?」

 

 「そうそう。用事があってもなくても時間を決めておいてけかるんだ。用事あれば伝えるし。なければなしで終わり。僕のほうからも外回りの職員に電話をかけることもあったな。そのときに各電話ボックスの電話番号を知ったんだ」

 

 どっちにも使えるんだ。

 

 「なるほど。むかしは携帯電話なんてないですからね?」

 

 「うん、そうさ。むかしの人の知恵だね。今は便利になったもんだよ。ただ、その便利さっていうのも考えものかもしれないけどね」

 

 「……かもしれませんね」

 

 僕は十一時十二分にやってきたバスに乗り込んで整理券をとった。

 席に座ってから手を振る菊池さんに手を振り返す。

 ボディバッグからすでに(ぬる)くなってしまったミルクティーをとってそれを飲みながら流れる景色をながめた。


 感傷に浸るっていうのはこういうことなのかも。

 変わっていく景色が時間はもう戻らないことを気づかせてくれた。

 ペットボトルにふたをし座席の前の網に入れる。

 

 軽く目をつむって頭を休めることにした。

 まったく別の思いが湧き上がってきた「111」に電話をかけるのはやっぱり約束じゃないのかな? そこから考えが脱線する。


 学校の【コンピュータ室】のパソコンにならフリーのゲームソフトもインストールできるしいろんなサイトもブックマークし放題だ。

 吹奏楽部の定期演奏会はまだはじまってないか? バスが適度に停車して人が乗り降りする。

 それを繰り返すこと十カ所以上。


 フロントガラスの電光掲示板を見た。

 もうすこしでS町に着く。

 そこでまたミルクティーに口をつける。


 同じ乳飲料繋がりでマウントレーニアのバニラモカが頭に浮かんできた。

 到着予定時刻の十二時十分、S町の道の駅のバス停で降りる。

 帰り道も電話ボックスに寄ってみる。

 

 どのみち今日は土曜日だ。

 昼なのに寂れた廃駅があるだけであたりには誰もいない。

 僕は「117」に電話して現在の時刻を確かめる。


 ――ピッ、ピッ、ピッ、ピッー!! 午後零時。十。五分。三十。七。秒。を。お知らせします。


 今は十二時十五分か。

 テレホンカードの残りは「5」になっていた。

 公衆電話が押し出したテレホンカードを勢いよく受けとる。

 

 そのスピード感のままで家まで向かう。

 気持ち的にちょっとだけ速足になってた気がする。

 家についてポストを開けると相変わらず白い封筒がふたつ重なっていた。

 菊池さんにいった用事はそんな大それたことではなくただポストの中を確認することだ。

 ただの口実。


 大納言のアルバイトも休みだし、今日はあと半日も残っている。

 ――ただいま。

 僕は家に入って燃えるごみや雑紙なんかをまとめる作業をした。

 でも、十分とかからずに終わってしまった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ